災害現場の医師の心得え
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大地震 !!! 当直医の対応
CSCATTT: シーエスキャットットット、おっとっとっと。
1. 院内放送(落ち着いて)
『只今地震が発生しました。各部門担当者は被害状況を本部に連絡して下さい。 現在職員が安全確認中です。患者様はそのまま次の指示をお待ち下さい。』
2. 初動手順:CSCATTT(シーエスキャットットット、おっとっとっと) (患者が殺到する前にCSCAまで終わらせる)
C: Command:命令「残存職員で速やかに役割分担を決定」 ・災害対策本部長の決定(前もって院長、事務長と決めるな。来られぬかも)。 ・本部長は経験豊かであること。「充て職」は不可! ・本部長補佐として情報、関係機関調整、安全管理担当の3名を決定。 ・電話網で職員を召集 ・町の広報の利用「災害が発生しました。病院職員は病院へ集合して下さい。 病院に電話をかけないで下さい。」 ・前もって震度5以上では職員は自主参集等と決めておく。 ・参集職員は必ず本部経由(参集人員把握の為)で持ち場へ。 ・災害時、病院は最大40人の入院に備えよ!(英国MIMMS) ・院内で、赤、黄、緑患者のエリアを決定。 ・院内で以下の場所を決定:受付、災害対策本部、スタッフ集合場所、遺体保管室、退院・再会エリア(報道関係者を入れない)、家族待合室、報道関係者室、ボランティア室(証明書を発行し自由行動を許さない) ・院内職員に対し、託児所(職員の子供を預かる)、給食(職員にも)、ランドリー、 医療資材供給の実施。
S: Safety:
自分の安全、場の安全、患者の安全
・津波の危険があれば病院上方への避難。 ・エレベーター内に人がいないか。必要ならエレベーター会社に連絡。 ・呼吸器作動の確認、手動が必要なら応援人員を。 ・ガス漏れ、ガス自動停止の確認、必要ならガス会社に連絡。 ・透析、手術の終了。・病院外壁、内部の肉眼視認、院内の傷病者の把握。 ・災害現場へ白衣、サンダルで向かってはならない! ヘルメット、ライトキャップ、ゴーグル、防塵マスク、カメラ、アクションカード、 現金、防炎防水の作業着(服は遠くから視認できること、反射板を付けること)、 安全靴、携帯、メモ帳、ボールペン、リュック持参。
C:Communication: コミュニケーション
・TV、ラジオ、ネット、優先携帯電話、衛星電話等で現状把握・発信。
災害時に伝えるべき情報内容はMETHANEと覚える2.
・My call sign(発信者)、Major incident(災害の内容)
・Exact location(場所)
・Type of incident(災害の種類)
・Hazard(障害)
・Access(到達経路)
・Number of casualties(死傷者数)
・Emergency service(現場から警察、消防、救急へ)
A: Assessment:評価
・情報の整理(白板、マーカーの用意、白板は日頃から用意) 白板を消す時はデジカメで保存しておけ。 ・本部長、3名の補佐の下に4部門担当者を決定(落ち着いてからでよい)1。 (1) 現場部門(治療、電気、水道、給食、交通整理など) (2) 企画運営部門(空床管理、退院把握、記録、撤収、患者・死者名張り出し) (3) 後方支援部門(通信、食糧、スタッフケア、家族ケア、DMAT受け入れ)派遣されてきたDMATには災害マニュアル、院内地図、周辺地図を渡し、宿泊場所、会議室、白板を確保。 (4)経理管理部門(時間管理、購入、経費)・24時間体制をとる為、早期に本部長を含め交替制(シフト)とする。
全員で徹夜して全員でダウンする愚を避けよ! 悲観的に準備し楽観的に行動せよ! ・使えるトイレ、水の確保! ・調理が可能か?食糧の準備は?寝るところは?(食う、寝る所に出す所!重要!)
T: Triage:トリアージ
現場救護所のレイアウトは災害現場近くにトリアージポストを設け、 治療エリア(赤と黄を入れる)と、その外に緑患者、その外に黒患者(死者)とする。 遺体には必ず黒ラベルを付けること。 さもないと死亡に確信が持てない救急隊員に何度も呼ばれてしまう。 治療エリアの外に搬送待機エリアを設けここに救急車が一方通行で進入。 1本道を往復しないように注意。受け入れ病院は分散搬送し1か所集中を避ける2。
大量遺体の死体検案は基本的に警察が行う。体育館、ビニールシート、 ドライアイス、棺、ウジ殺しの準備3。 医師、ナースを応援派遣。ナースが準備するものは、ガーゼ、シーツ、 三角巾、消毒アルコール、大量の死後処置セット(ハサミ、剃刀、カッター、 爪切り、口紅、ファンデーション、ヘアブラシ、綿、割り箸、顔カバー、浴衣、手首を縛るバンド)。
死体検案では、死亡時刻推定は「死斑、硬直、角膜混濁、直腸温」の4つから判断。 検案時刻を死亡時刻にしないこと。検案場所を死亡場所としないこと。 死亡場所は警察などから聴取。異状死体は警察に届けないと「異状死体届け出違反」になる。 圧迫死体(圧死は医学用語ではない。窒息死とする。)の特徴は、圧迫が加わった部分は 白色、その周辺が紫色になることである。 身許不明死体は血液(血液型)、DNA試料を採取(口腔粘膜をガーゼで拭い乾燥または凍結させる。 濡らしたままだとDNAが変性する)。
特に女性遺体は名刺、免許証等をバッグに入れているため身許特定が難しい。 焼損骨片は特に扁平骨の場合、獣骨との鑑別が難しい1。
T: Treatment: 治療
患者がまだ瓦礫の下にいる時は、圧挫症候群による腎障害(ミオグロビン 、尿酸による尿細管閉塞)を予防せねばならない。 最初の6時間以内、患者がまだ瓦礫の下にいる間から生理食塩水1L/h (10-15ml/kg/h)を開始し、救出されたら低張生理食塩水 (Kの入ってないソリタT1[Na90mEq/L]かソリタT4[Na30mEq/L]などに替える。
低張生理食塩水1Lあたり重曹50mEq( メイロン84注50ml)を追加し尿PHを 6.5以上に保ちミオグロビン、尿酸の尿細管沈着を防ぐ。 尿量が20ml/hを越えたら20%マンニトール50mlを輸液1Lごとに加える。 時間尿量300ml/hを越えるようにし1日6Lから12L位まで輸液する。 K入りの輸液(ソリタT3など)は不可.
大地震の場合、挫滅症候群の透析には大量の水が必要であり 被災地では十分な水を確保できない。 また挫滅症候群は時間が経てば経つほど搬送が困難になるので、 できるだけ速く後方病院へ送れ! 転送する時はKayexalate経口、注腸して高Kによる死を避けよ 5 。 破傷風トキソイド、抗破傷風ヒト免疫グロブリンは冷蔵庫が必要なので注意4!
*瓦礫の下の医療(CSM: Confined Space Medicine)
瓦礫の下で人が閉じ込められている場合
・救助者の安全7つ道具:ライト付きヘルメット、ゴーグル、防塵マスク
(N95以上、できれば吸収缶付き)、手袋、安全靴(爪先に鉄板)、
肘と膝のプロテクター、ホイッスル、無線機。
・使用機材はすべて外部で準備し瓦礫内で店を広げるな。
・侵入は原則1名、処置が必要な時のみ2名、それ以上は無駄。 ・鎮痛の基本はモルヒネ系、麻酔はケタミン静注・筋注 ・患者に接近したらまずボイスコンタクト、自己紹介、相手の性、氏名、 年齢、訴えを聞き手を握り診察、静脈路確保し大量輸液開始。 ・閉じ込められた人の9割はコンクリートで熱を奪われ低体温になっている
ので壁と体の間に毛布や段ボールを差し込み、上からは保温シートを掛ける。
T: Transport: 患者の域外搬送
東海大地震では、静岡県内では4外傷(頭部外傷、胸腹部外傷、 クラッシュ症候群、広範囲熱傷)に限り県内の3つの広域搬送拠点 (愛鷹広域公園、静岡空港、浜松北基地)へ民間小型ヘリで搬送した後、 自衛隊の大型ヘリ(CH47)や固定翼機(C-1)で全国(千葉、埼玉、関空、福岡等) へ域外搬送を行う。家族は付き添えないので家族との連絡には十分留意せよ4。 DMAT隊員は広域搬送拠点でSCU(Staging Care Unit)を設営しトリアージ、搬送を行う.
ただし重症であっても次の3つの場合、生存の可能性が低い為、広域搬送は行わない。 ・重症頭部外傷(GCS<9かつ両側瞳孔散大) ・高度呼吸障害(FiO2 1.0でSO2<95%) ・広範囲熱傷でBurn Index(3度熱傷面積+2度熱傷面積×1/2)が50以上
参考文献 1. 静岡県災害医療従事者研修会(2010.1.27 @ 静岡もくせい会館) 2. 日本DMAT隊員養成研修受講生マニュアル(Ver.3.1) DMAT事務局研修プログラム検討委員会編2007 3. 墜落遺体(御巣鷹山の日航機123便)飯塚訓 講談社、2009 4. Civil-Military Collaboration in the Initial Medical Response to the Earthquake in Haiti, NEJM.org, Feb.24.2010 5. Management of Crush-Related Injuries after Disasters, NEJM.2006; 354;1052-1063,Mar9,2006 6. 大事故災害への医療対応(MIMMS)永井書店、平成19年 7. Hospital MIMMS 永井書店、平成21年 8. 多数傷病者対応、大友康裕編集、永井書店、平成22年
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トリアージ(ほこつめて)要点
西伊豆病院 仲田和正 H22.10
_I_.「一人を助けるために十人を死なせてはならない。(ナポレオン)」
1980年に静岡駅前地下街で大規模なガス爆発事故があり200人近い死傷者が出た。 事故発生早期にビルから降り落ちてきたガラスで傷ついた多数の軽症の方々が まず最寄の病院に殺到し、病院外来は大混乱となった。
その後から重症患者が搬入されはじめたが、すでに医師、看護婦が軽症患者の 治療に忙殺されていたため、処置が遅れ次々に亡くなっていったのである。 当時トリアージの概念はまだなかった。災害では「重症は後から来る!」のである。 災害で殺到する多数の患者さんに優先順位をつけることをトリアージという。
_II_.外傷による死亡
即死は、2時間以内で死亡するがそのうち80%は20分以内の死亡である。 20分以後の受傷後早期の死亡は2時間にピークがある。阪神大震災の時、 社会党の村山内閣の対応は最悪であった。 震災発生直後から自衛隊出動を命じていればかなりの方が 2時間以内に救出できたかもしれないのである。 また米軍の野戦病院付きの空母インディペンデンス派遣も早々に断ってしまった。 受傷後晩期の死亡は3週から5週にピークがある。
_III_.戦傷での野戦病院への搬送時間と死亡率
搬送時間 死亡率 第一次大戦 12~18時間 第二次大戦 6~12時間 4.7% 朝鮮戦争 2~ 4時間 2.0% ベトナム戦争 1~ 2時間 1.0%
重症外傷患者で生存率が最も高いのは受傷後1時間以内に手術された場合でこれを 「黄金の1時間」といい、さらに最初の10分を「プラチナの10分」 という。
_IV_.スタートトリアージ (ほこつめて)
START(Simple Triage and Rapid Treatment) triage 死傷者多数の場合、軽症者が歩いて病院へ来てしまい、重傷者はあとから来る。 軽症者に対しすぐに治療を始めてしまうと、重傷者が後回しになってしまう。 死傷者が多数発生した時は患者に優先順位をつけて緊急度の高い患者から治療を行う。 この優先順位をつけることをトリアージという。トリアー(trier)はフランス語で コーヒー豆の選別の事をいう。入院1泊以上を要する患者は10~15%といわれる。
_V_.4色分類
死傷者多数(mass casualty)の時のstart (simple triage and rapid treatment) triage トリアージは患者さんを4色のカードで4グループに分類する。これは交通信号と 同じ色で分け、世界共通である。すなわち、赤(緊急に救命を要する)、 黄色(準緊急)、緑(急を要しない)、黒(死亡)の4色で、これらのカードを 患者さんの目立つ所に付けていく。
カードは原則として右手首につける。無理なら右手首⇒右足首⇒左足首⇒首の順。 衣服や靴につけてはならない。 米国では救急隊員は次のようにトリアージを行う。
_VI_.トリアージ オフィサー(TO)
トリアージを行う者は目立つベストを着け(Don identifying vest)、triage officer(TO) と呼ばれる。triage officerは冷酷冷静でなければならず治療をしてはならない。 ただしドクドク出血している場合は最低限の駆血は行う。
_VII_.ほこつめて(歩呼爪手)、2秒トリアージ
まず患者さんを安全な広場あるいは室内へ誘導する。 そして「歩ける方は隅へ行って下さい」と呼びかけ、歩けたものはすべて緑に分類する。 彼らは救急搬送の対象にならない。そして残った者を更にトリアージしていく(一人20秒で)。 わあわあ騒いでいる者はたいてい軽症で、ぐったりしている患者が重症である。 避難の際はCWAP(child, woman, aged, patients or poor 子供、妊婦、老人、患者または障がい者)優先である。
スタートトリアージ1、2には血圧測定や頸動脈の触診は用いない。 まず呼吸しているか否かである。呼吸をしてない場合、用手的に気道確保(chin up)を行い、 それでも呼吸をしない場合、もう一度、chin up する。 それでも呼吸が見られない場合はこれは黒(死亡)に分類しこれに対してCPRは行わない。
トリアージの目的は「最大多数の幸福」であり、CPA(心肺停止)の救命率は
非常に低いことから mass casualty の場合、CPRはすべきではない。
限られた医療資源を有効に使う為である。
次に呼吸数を見る。呼吸数が30以上(8以下も)は赤(緊急)に分類する。
呼吸数30/分ということは2秒以内で1回呼吸していれば赤ということである。
呼吸数30以下は blanch test(capillary refilling time) で更に分類する。
これは爪を押さえて離し、ピンク色が戻るに2秒以上なら赤(緊急)、 2秒以下なら黄 (準緊急)に分類する。爪のかわりに口唇でも構わない。 黄の患者さんの中で手を握れない患者さん(意識障害を見る。 「お名前は?」「目を開けて、閉じて」でも可)は赤に分類する。 血圧測定や頸動脈の触診などは行わないところがポイントである。
まとめると、歩行可能な者は緑、呼吸無しは黒、呼吸数30/分または1回/2秒 (または呼吸数8回/分以下)で赤と黄を分け、さらに爪の色2秒で赤と黄、 さらに手を握れるか否かで赤と黄に分ける。「ほこつめて」(歩呼爪手)と順番を覚え、 2秒トリアージ3(呼吸1回/2秒以上、爪の色2秒以上は赤)を覚えておこう。 順番を暗記しておかないと実際に使えない。
患者さんの状態は刻々と変化していくものであり、トリアージは繰り返して行なう。
すなわち、トリアージ第1ラウンド、第2ラウンドと繰り返す。
★ 矛(ほこ)とは両刃(もろは)の剣に棒を付けたものをいう。
参考文献 1. Mass casualty incident response guide, http:peninsulas.vaems.org/MCIresponse.htm
2. Multiple casualty incidents/Triage-Massachusetts state protocols
http://www.vgernet.net/bkand/state/mutiple.html
3. JDMRI-トリアージ、http://www.jdmri.com/triage2.htm
【参考】H22.10 西伊豆病院 仲田和正 よりTFCにて共有いただいた情報より抜粋