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個人防護具 PPE (personal protection equipment) を選ぶ際に,規格等で迷うことがあります.
以下に整理します.
なお,記事中では特定のメーカー名および商品名を引用していますが,例示のための引用に過ぎず,サイト管理者はそれらメーカー等に対して一切の利益相反はありません.
目次
PPEの用語・種類の整理
防護具に関するさまざまな用語が飛び交っており,会話の中で似た用語を使っているのにお互い違うものを指していた,というトラブルもあります.
きちんと整理しましょう.
総称:個人防護具 or PPE
まず,一連の物品の総称が,日本語で「個人防護具」,英語で「PPE (personal protective equipment)」です.
総称: |
本記事中では,総称を「PPE」で統一します.
体幹および四肢のPPEはガウンまたはカバーオール
PPEは保護する部位ごとに種類が分かれています.
最も大きな違いは,体幹と四肢の保護にガウンとカバーオールのいずれを用いるかです.
下表のとおり,カバーオールの方が保護部位が広く,開き部の固定もしっかりしますが,そのぶん着脱に技能と時間を要します.
ガウン | カバーオール | ||
---|---|---|---|
保護部位 | 頭部 | × | ○ |
体幹 | ○ | ○ | |
上肢 | ○ | ○ | |
下肢 | △ 膝丈前面まで | ○ | |
形状 |
|
| |
固定 |
|
|
なお,カバーオールは日本語で「防護服」「つなぎ」とも呼ばれます.
「防護服」という呼称はカバーオール型の製品を指します.元が産業現場での化学物質付着を回避するために製品化されたので,「化学防護服」と呼ばれることもしばしばです.
しかし,総称としてのPPE(個人防護具)を誤って「防護服」と呼ぶケースも散見されます.
誤解と混乱の元になるので,用語は適切に使い分けましょう.
また,カバーオールのことを「タイベック®」「タイベック®スーツ」等で呼ぶ場合もありますが,これらは特定メーカーの商標です.
スタンプ型印鑑を「シャチハタ®」,接着剤を「セメダイン®」,鍵盤ハーモニカを「ピアニカ®」と呼ぶのと同じです.
詳細は後述します.
その他の部位のPPE
ガウンかカバーオールかでその他のPPEの部位の選択が若干異なります.
体幹/四肢 | ガウン | カバーオール |
---|---|---|
頭部 | キャップ | 一体型フード ※1 |
眼球/顔面 | フェイスシールド または ゴーグル | |
呼吸器 | サージカルマスク または N95マスク |
N95マスク ※2 または PAPR ※3 |
体幹 | 体液等からの保護のために 袖無しエプロンを重ねる方法もある | |
手部 | グローブ | |
足部 | 一般に保護しない ※4 | フットカバー または ゴム長靴 |
- ※1 脱衣時等の安全のためにフード下にキャップをかぶる方法もある
- ※2 カバーオールはガウンより厳重なPPEであるため,呼吸器保護もより厳重なN95を選択するのが一般的
- サージカルマスクでも構わない行為において,高価かつ着脱手順が複雑なカバーオールを選択するメリットは乏しい
- ※3 PAPR—powered air-purifying respirator
- HEPAフィルター等の濾過装置を通した清浄空気をフード下の頭部に送風して頭部全体を陽圧に保つ呼吸保護具
- ※4 ガウンでは膝下が露出し,足元まで汚染される行為を想定しないため,フットカバーによる保護も行わないのが一般的
PPEに関する規格の整理
PPEにはそれぞれの素材や完成品についてさまざまな産業規格が定められています.
産業規格は日本や世界各国が,自国で流通する製品に対して国として統一基準を示し,品質の維持改善や商取引の合理化等を図るためのものです.
日本,米国,EUの産業規格
日本では「産業標準化法」に基づいて日本産業規格 JIS (Japanese Industrial Standards) が制定されています.
- ※JISは長らく「日本工業規格」の名称でしたが,法改正により2019年から「日本産業規格」に変更されました.英語名及び英略称はそのままです.
米国には「ANSI (American National Standards Institute アメリカ国家規格協会)」が制定する産業規格があり,さらに医療器具等の規格を提唱する非営利団体「AAMI (Association for the Advancement of Medical Instrumentation 医療器具開発協会)」もあります.
- 米国には産業規格とは別に,労働安全法規を所管する中央官庁「OSHA (Occupational Safety and Health Administration 労働安全衛生局)」(Department of Labour 労働省の下位組織),および労働安全についての国立研究所「NIOSH (National Institute of Occupational Safety and Health 国立労働安全衛生研究所)」(CDCの下位組織;CDCは Department of Health and Human Services DHHS 厚生省の下位組織)もあります.(参考)
- NIOSHはあくまでも研究機関ですが,NIOSHが発出する医療安全に関する推奨等は米国内でのPPEの製造または使用にも影響を与えています.
EU(欧州連合)には「CEN (European Committee for Standarization 欧州標準化委員会)」やCENELEC(欧州電気標準化委員会),ETSI(欧州通信規格協会) が制定する産業規格「EN (European Standards EN規格)」があります.
- ただしEUとしての統一的な発出ではなく,加盟各国が自国規格としてそれぞれ発出しています.(参考)
こうした国・地域別の産業規格の国際統一を図る団体として,「[https://www.iso.org/ ISO (International Organization for Standarization 国際標準化機構)」があります.
- ISOが定める規格には,国際条約としての国家拘束力はありません.しかし加盟各国は自国の規格が国際的に通用することを目標に,ISOを参照しつつ国内規格を制定しています.
現在日本の医療現場で使用されているPPEは多種多様で,日本のJISに準拠した製品ばかりではありません.
外国製品のライセンス生産および輸入品等では,米国のANSI/AAMIに準拠した製品もあれば,EUのENに準拠した製品も流通しています.
それらの国・地域ごとの産業規格(製造基準や品質検査基準等)は,参照元になっているISO規格を通じて互換性があることが大半です.
そのため,PPE各製品はカタログや仕様書等に互換性のある各国規格を併記していることが通常です.
- 例)カバーオールの素材が準拠している互換規格として「JIS T 8115:2005 — EN 14605」と併記されている