「指定感染症とは|感染症法の解説」の版間の差分

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'''法令上は上2者を総称して新型インフルエンザ「等」感染症と呼ぶ'''
 
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*既知の感染症(一類~三類、新型インフルエンザ等以外)が何らかの理由で日本国内に重大な影響を及ぼすようになり、まん延防止のために一定の措置が必要になった場合に、政令で定める
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*'''既知の感染症'''(一類~三類、新型インフルエンザ等以外)が何らかの理由で'''重篤な症状等'''を起こすようになり、まん延防止のために一定の措置が必要になった場合に、政令で定める
*上述の措置のうちどれを実施するかは、その都度政令で定める
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*'''上述の措置のうちどれを実施するかは、その都度政令で定める'''
 
*指定期間は最長1年まで
 
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**さらに最長1年まで延長可能
 
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**内閣が制定し、天皇が公布する
 
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*既知の感染症とは異なる新興感染症で、ヒト-ヒト感染し、重篤な疾患である場合に、政令で定める
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*既存の類型と同様の措置が実施できるが、根拠条文が独立している
 
*既存の類型と同様の措置が実施できるが、根拠条文が独立している
**健康診断:第45条、入院:第46条、移送:第47条、消毒:第50条、等
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**'''健康診断'''(第45条)、'''入院'''(第46条)、'''移送'''(第47条)、'''消毒'''(第50条)、等
**実施主体は既存の類型と同様に、都道府県知事又は保健所設置市長
 
 
*指定期間は最長1年まで
 
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**さらに最長1年まで延長可能
 
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**内閣が制定し、天皇が公布する
 
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==感染症指定医療機関について==
 
==感染症指定医療機関について==

2020年1月31日 (金) 21:14時点における版

令和2年(2020年)1月28日に「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令(一一)」が公布され、同年2月7日(政令公布の日から起算して10日を経過した日)から施行されると記載されました。

さらに、同年1月31日に「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部を改正する政令(二二)が公布され、同日中に施行されました。こちらの政令では、上記(一一)が同年2月1日(上記政令公布の日から起算して4日を経過した日に改める)から施行されるされました。

この2つの政令公布により、2019-nCoVによる感染症は法令上「新型コロナウイルス感染症」という名称で、感染症法上の「指定感染症」に指定されました。

  • 2019-nCoVによる感染症は「指定感染症」に (2020年2月1日より)
  • 法令上の名称「新型コロナウイルス感染症」

以下に、感染症法の概説と今回の指定感染症の内容、また関連する検疫法検疫法施行令改正について、解説します。

感染症法とは

感染症法は正式名称を「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成10年法律第114号)といいます。

第1条において、感染症法の目的を下記のように明記しています。(※太字はサイト管理者による)

(目的)

第1条 この法律は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする。

措置」という日本語は、辞書によると「事態に応じて必要な手続きをとること。取り計らって始末をつけること。処置。」(デジタル大辞泉)とあります。

法律用語・行政用語としての「措置」は、行政機関(の長)や自治体(の首長)などが、法令上の権限や義務に基づいて行う手続きや処置のことを指します。

したがって感染症法の目的とは、感染症の予防や医療を行うための各種の措置を法律で定めて、必要に応じてそれら措置を実行し、その結果として感染症の発生予防やまん延防止を実現すること、と言えます。

措置を法律で定める 措置を実行して以下を実現する
  • 感染症の予防のための措置
  • 感染症の医療のための措置
  • 感染症の発生の未然予防
  • 発生した感染症のまん延防止

感染症法が定める措置の実施主体

感染症法が定める措置の内容を説明する前に、措置の実施主体(措置を実施する者)について若干の説明が必要です。

感染症法の各条文を読むと、「都道府県知事は」「厚生労働大臣は」「医師は」などの主語で始まっていることがわかります。これらの主語が、その後に書かれてある各種の措置の実施主体(措置を実施する者)です。

こうした法律においては、「知事」「大臣」「医師」などの役職名によって「人」を実施主体とすることが一般的です。例えば、措置を実施するときにその内容を記した文書を交付する場合などに、その文書の交付者として「○○知事」「○○大臣」「医師 ○○」と書かれるわけです。

ただし、現実には、個々の措置を首長や大臣が直接現場に出向いて指示するわけではありません。

措置の実際を考えるのは、各自治体厚生労働省感染症担当部署です。
感染症担当部署の職員が実務を担い、措置の内容を検討し、「この通りに措置を行うべきと考えます」と首長や大臣に上申し、それを首長名や大臣名で発するという仕組みです。

したがって、感染症法で実施主体が「都道府県知事」「厚生労働大臣」と書かれてある場合、実際には自治体等の感染症担当部署が実務を担っているとお考えください。

  • 措置の実施主体は、知事や大臣など役職者
  • 措置の実務を担うのは、自治体等の感染症担当部署

「保健所設置市(区)長」は都道府県知事とほぼ同等の措置を担う

措置の実施主体が「都道府県知事」と書かれてある場合、実務を担うのは都道府県庁の感染症担当部署です。

ただし、一定以上の規模の市及び東京都の23の特別区は、都道府県から独立して独自に保健行政を遂行する権限を与えられています。

それらの市区は、保健所も独自に設置しています。そのため、「保健所設置市(区)」と通称されています。

保健所設置市の一覧は厚生労働省のウェブサイトで公開されています。

保健所管轄区域案内|厚生労働省

これに伴い、感染症法第64条において、感染症法の大半の条文の「都道府県知事は、」を、「保健所設置市(区)長は、」と読み替える(=同じ権限を与える)ことが明記されています。

すなわち、感染症法において、保健所設置市長には都道府県知事とほぼ同等の権限が与えられます。
(医療機関の指定などの一部の権限は都道府県知事のみです)

よって、

  • 自治体が保健所設置市である場合は、措置の実務を担うのは市役所の感染症担当部署
  • 自治体が保健所設置市でない場合は、措置の実務を担うのは都道府県庁の感染症担当部署

ということです。

  • 保健所設置市(区)長は、都道府県知事とほぼ同等の措置権限あり
  • 保健所設置市(区)は、都道府県とほぼ同等の措置を担う

感染症法が定める「措置」

感染症が発生しないように未然に予防したり、発生した感染症がまん延しないように防止するため、感染症法に定められている主な措置は下記のとおりです。

前記のとおり、これらの措置の実施主体は、都道府県知事又は保健所設置市(区)長、厚生労働大臣、医師、などに分かれています。

これら措置の中で、最も臨床に直結するのは「入院」(感染症法第19条・20条)でしょう。

感染症のまん延を防止することと、適切な医療を提供することを目的として、疑い患者又は確定患者を法に基づいて入院させるという措置です。

入院先は感染症指定医療機関が指名されており、病床は陰圧管理が可能な感染症専用の個室です。

この入院は、まず都道府県知事(又は保健所設置市長)が入院の「勧告」(書面で交付)を患者に対して行い、勧告に従って入院するよう促します。
もしも患者が勧告に従わない場合は、都道府県知事(保健所設置市長)の権限で強制的に入院させることもできます。

強制力を伴う、いわゆる隔離入院としての措置です。

他にも、積極的疫学調査病原体検査就業制限交通の制限等、感染症の発生把握とまん延防止のための様々な措置が定められています。

感染症法に定められた主な措置
措置 条文 内容 実施主体 権限vs義務
権限 義務
医師の届出 第12条
  • 診断確定した感染症を保健所に届け出る
  • 届出を基に、以下の措置を実施し、疾病統計を作成する
  • 診断した医師本人
感染症の発生の状況、
動向及び原因の調査
第15条
  • 積極的疫学調査(active surveillance)
    • 感染症疑い患者又は確定患者の、行動歴の把握、接触者の追跡調査など
  • 感染症疑い患者から検体を採取する
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
  • 厚生労働大臣
  • 採取した検体を検査する
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
健康診断 第17条
  • 感染症疑い患者医師による健康診断を受けさせる=医療機関の外来を受診させる
  • 受けるように「勧告」し、勧告に従わない場合は強制的に受けさせることができる
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
就業制限 第18条
  • 感染症確定患者が、ある範囲の業務に従事することを一定期間制限する
  • 制限される業務は省令(感染症法施行規則)で別途定められている
    • 飲食業、不特定多数に接する業務など
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
入院 第19条
第20条
  • 感染症疑い患者又は確定患者隔離入院させる
  • 入院先は感染症指定医療機関
  • 入院するように「勧告」し、勧告に従わない場合は強制的に入院させることができる
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
移送 第21条
  • 感染症疑い患者又は確定患者を入院させる際に、自宅等から感染症指定医療機関まで、自治体が車両等で送り届ける
    • 感染症患者が公共交通機関等を利用するのを避けるのが目的
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
消毒 第27条
  • 感染症の病原体に汚染された場所消毒する
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
交通の制限 第33条
  • 消毒だけでは一類感染症の蔓延を防止できない場合に、感染症患者のいる場所又は病原体に汚染されたおそれのある場所の、交通を制限し遮断する
  • 2020年1月23日に武漢市及び周辺市に対して中国当局が実施した交通遮断に相当
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
措置 条文 内容 実施主体 権限 義務
権限vs義務

感染症の「類型」

感染症に対する様々な措置を上で紹介しましたが、これら措置はいかなる感染症に対しても適用されるわけではありません

一部には人権制限も伴うような強制力のあるものばかりですので、感染症の重大さに応じて適用される措置も異なります

すなわち、「この措置はこの感染症にのみ適用する」旨も法律に明記する必要があります。

ただし、措置を適用する感染症を個別に指定するのは煩雑であり、医学の進歩に伴って感染症や病原体の情勢も変化します。

このため、重大さ等に応じて感染症をグループ分けし、そのグループに対して適用される措置を指定する、という方式をとっています。

それら感染症のグループを「類型」と呼びます。

類型と、各類型に分類される個々の感染症は、感染症法第6条に定義されています。

感染症の類型、特徴と指定されている疾患
類型 条文 特徴 指定されている疾患
一類感染症 第6条
第2項
  • 最もvirulenceやCFRが高く、ヒト-ヒト感染も容易である感染症
  • ウイルス性出血熱が多い
  • エボラ出血熱
  • ラッサ熱
  • クリミア・コンゴ出血熱
  • マールブルグ病
  • 南米出血熱
  • ペスト
  • 痘そう(天然痘)
二類感染症 第6条
第3項
  • 一類感染症に次いでvirulenceやCFRが高いが、ヒト-ヒト感染の程度は一類感染ほどではない感染症
  • 中東呼吸器症候群(MERS)
  • 鳥インフルエンザA(H5N1)
  • 鳥インフルエンザA(H7N9)
  • 結核
  • 急性灰白髄炎(ポリオ)
  • ジフテリア
  • 重症急性呼吸器症候群(SARS)
三類感染症 第6条
第4項
  • 主として経口感染、糞口感染、食物媒介感染し、virulenceも高い感染症
  • コレラ
  • 細菌性赤痢
  • 腸管出血性大腸菌感染症(EHEC)
  • 腸チフス
  • パラチフス
四類感染症 第6条
第5項
  • 主として動物由来感染、虫媒介感染する感染症
  • VirulenceやCFRが一類感染症並みに高いものも含まれているが、一般的にヒト-ヒト感染しないものは四類に分類されている
  • A型肝炎
  • E型肝炎
  • 黄熱
  • 狂犬病
  • 炭疽
  • マラリア
  • 鳥インフルエンザA(H5N1, H7N9以外の亜型)
    • など
  • その他政令(感染症法施行令第1条の2)で定めるもの
    • デング熱
    • ジカウイルス感染症
    • チクングニア熱
    • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
    • ダニ媒介脳炎
    • 日本脳炎
    • ニパウイルス感染症
      • など
五類感染症 第6条
第6項
  • Virulenceは相対的に低いが、届出(法第12条)や積極的疫学調査(法15条)などを通じたサーベイランスが必要と判断されるもの
  • 麻疹
  • 季節性インフルエンザ
  • ウイルス性肝炎(A型、E型以外のもの)
  • 後天性免疫不全症候群(AIDS/HIV感染症)
  • 梅毒
  • クリプトスポリジウム症
    • など
  • その他省令(感染症法施行規則第1条)で定めるもの
    • 風疹
    • 百日咳
    • アメーバ赤痢
    • 破傷風
    • ヘルパンギーナ
    • 急性胃腸炎
    • 水痘
    • 侵襲性髄膜炎菌感染症
    • 侵襲性肺炎球菌感染症
      • など

これら5つの類型に対して、実施できる措置が下表のように指定されています。

感染症の類型と実施する措置
措置 条文 実施主体 テンプレート:Vertical テンプレート:Vertical テンプレート:Vertical テンプレート:Vertical テンプレート:Vertical
医師の届出 第12条
  • 診断した医師本人

義務

義務

義務

義務

義務
感染症の発生の状況、
動向及び原因の調査
第15条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
  • 厚生労働大臣
健康診断 第17条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
就業制限 第18条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
入院 第19条
第20条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
移送 第21条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

義務
消毒 第27条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
交通の制限 第33条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

さて、上記の一類~五類は個別の疾患名をホワイトリスト方式で指定しています。

しかしこれだけでは、新興再興感染症が現れた時にまん延防止に必要な措置が実施できません。

そこで感染症法では、新興再興感染症に備えるために、以下の3つの類型も定めています。

新興再興感染症に備えた類型
類型 条文 内容 指定の方法
新型インフルエンザ等感染症 第6条
第7項

新型インフルエンザ

  • 鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ等が変異し、連続したヒト-ヒト感染能力を有するようになったインフルエンザ
再興型インフルエンザ
  • かつて新型インフルエンザとして世界でまん延し、いったん終息したものが、再びまん延するようになったインフルエンザ
  • 厚生労働大臣が定める

法令上は上2者を総称して新型インフルエンザ「等」感染症と呼ぶ

指定感染症
第6条
第8項
第7条
  • 既知の感染症(一類~三類、新型インフルエンザ等以外)が何らかの理由で重篤な症状等を起こすようになり、まん延防止のために一定の措置が必要になった場合に、政令で定める
  • 上述の措置のうちどれを実施するかは、その都度政令で定める
  • 指定期間は最長1年まで
    • さらに最長1年まで延長可能
  • 政令で定める
    • 内閣が制定し、天皇が公布する
新感染症 第6条
第9項
第44条の6
テンプレート:Vertical
第53条
  • 既知の感染症とは異なる新興感染症で、ヒト-ヒト感染し、重篤な疾患である場合に、政令で定める
  • 既存の類型と同様の措置が実施できるが、根拠条文が独立している
    • 健康診断(第45条)、入院(第46条)、移送(第47条)、消毒(第50条)、等
  • 指定期間は最長1年まで
    • さらに最長1年まで延長可能
  • 政令で定める
    • 内閣が制定し、天皇が公布する

感染症指定医療機関について