指定感染症とは|感染症法の解説

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令和2年(2020年)1月28日に「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令(一一)」が公布され、同年2月7日(政令公布の日から起算して10日を経過した日)から施行されると記載されました。

さらに、同年1月31日に「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部を改正する政令(二二)」が公布され、同日中に施行されました。こちらの政令では、上記(一一)が同年2月1日から施行されることが定められました(上記政令(一一)の施行を「公布の日から起算して4日を経過した日」に改める)。

この2つの政令により、2020年2月1日午前0時00分をもって、2019-nCoVによる感染症は法令上「新型コロナウイルス感染症」という名称で、感染症法上の「指定感染症」に指定されました。

  • 2019-nCoVによる感染症は「指定感染症」に (2020年2月1日より)
  • 法令上の名称「新型コロナウイルス感染症」

以下に、感染症法と今回の指定感染症について解説します。

サマリー

要点を列記すると以下のとおりです。(末尾のサマリーに同じ)

  • 2019-nCoV感染症は政令によって、2020年2月1日付けで感染症法上の指定感染症に定められた
  • 法令上の名称は「新型コロナウイルス感染症」となった
  • 感染症法は、感染症の発生予防・蔓延防止のために、種々の措置を定めている
  • 措置の多くは都道府県知事又は保健所設置市長が実施主体であり、実務を担うのは自治体の感染症担当部署である
  • 措置を適用する感染症を類型で定めている
  • 新興再興感染症に備えた類型もあり、指定感染症はその1つである
  • 指定感染症としての新型コロナウイルス感染症には、二類感染症と同等の措置が実施される
  • 新型コロナウイルス感染症の「患者」「疑似症患者」等は、症例定義で定められる
  • 症例定義は厚生労働省の通知によって発出される予定だが、2月1日20時時点でまだ発出されていない
  • 新型コロナウイルス感染症の入院(法第19条)は「特定」「第一種」「第二種」の各感染症指定医療機関で行われる

感染症法とは

感染症法は正式名称を「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成10年法律第114号)といいます。

第1条において、感染症法の目的を下記のように明記しています。(※太字はサイト管理者による)

(目的)

第1条 この法律は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする。

措置」という日本語は、辞書によると「事態に応じて必要な手続きをとること。取り計らって始末をつけること。処置。」(デジタル大辞泉)とあります。

法律用語・行政用語としての「措置」は、行政機関(の長)や自治体(の首長)などが、法令上の権限や義務に基づいて行う手続きや処置のことを指します。

したがって感染症法の目的とは、感染症の予防や医療を行うための各種の措置を法律で定めて、必要に応じてそれら措置を実行し、その結果として感染症の発生予防やまん延防止を実現すること、と言えます。

措置を法律で定める 措置を実行して以下を実現する
  • 感染症の予防のための措置
  • 感染症の医療のための措置
  • 感染症の発生の未然予防
  • 発生した感染症のまん延防止

感染症法が定める措置の実施主体

感染症法が定める措置の内容を説明する前に、措置の実施主体(措置を実施する者)について若干の説明が必要です。

感染症法の各条文を読むと、「都道府県知事は」「厚生労働大臣は」「医師は」などの主語で始まっていることがわかります。これらの主語が、その後に書かれてある各種の措置の実施主体(措置を実施する者)です。

こうした法律においては、「知事」「大臣」「医師」などの役職名によって「人」を実施主体とすることが一般的です。
例えば、措置を実施する際に措置内容を記した文書を交付する場合などに、その文書の交付者として「○○知事」「○○大臣」「医師 ○○」と書かれるわけです。

ただし、現実には、個々の措置を首長や大臣が直接現場に出向いて指示するわけではありません。

措置の実際を考えるのは、各自治体厚生労働省感染症担当部署です。
感染症担当部署の職員が実務を担い、措置の内容を検討し、「この通りに措置を行うべきと考えます」と首長や大臣に上申し、それを首長名や大臣名で発するという仕組みです。

したがって、感染症法で実施主体が「都道府県知事」「厚生労働大臣」と書かれてある場合、実際には自治体等の感染症担当部署が実務を担っているとお考えください。

  • 措置の実施主体は、知事や大臣など役職者
  • 措置の実務を担うのは、自治体等の感染症担当部署

「保健所設置市(区)長」は都道府県知事とほぼ同等の措置を担う

措置の実施主体が「都道府県知事」と書かれてある場合、実務を担うのは都道府県庁の感染症担当部署です。

ただし、一定以上の規模の市及び東京都の23の特別区は、都道府県から独立して独自に保健行政を遂行する権限を与えられています。

それらの市区は、保健所も独自に設置しています。そのため、「保健所設置市(区)」と通称されています。

保健所設置市の一覧は厚生労働省のウェブサイトで公開されています。

保健所管轄区域案内|厚生労働省

これに伴い、感染症法第64条において、感染症法の大半の条文の「都道府県知事は」を、「保健所設置市(区)長は」と読み替える(=同じ権限を与える)ことが明記されています。

すなわち、感染症法において、保健所設置市長には都道府県知事とほぼ同等の権限が与えられます。
(医療機関の指定などの一部の権限は都道府県知事のみです)

よって、

  • 自治体が保健所設置市である場合は、措置の実務を担うのは市役所の感染症担当部署
  • 自治体が保健所設置市でない場合は、措置の実務を担うのは都道府県庁の感染症担当部署

ということです。

  • 保健所設置市(区)長は、都道府県知事とほぼ同等の措置権限あり
  • 保健所設置市(区)は、都道府県とほぼ同等の措置を担う

感染症法が定める「措置」

感染症が発生しないように未然に予防したり、発生した感染症がまん延しないように防止するため、感染症法に定められている主な措置は下記のとおりです。

前記のとおり、これらの措置の実施主体は、都道府県知事又は保健所設置市(区)長、厚生労働大臣、医師、などに分かれています。

これら措置の中で、最も臨床に直結するのは「入院」(感染症法第19条・20条)でしょう。

感染症のまん延を防止することと、適切な医療を提供することを目的として、疑似症患者又は確定患者を法に基づいて入院させるという措置です。

入院先は感染症指定医療機関が指名されており、病床は感染症に対応した設計の個室です。

この入院は、まず都道府県知事(又は保健所設置市長)が入院の「勧告」(書面で交付)を患者に対して行い、勧告に従って入院するよう促します。
もしも患者が勧告に従わない場合は、都道府県知事(保健所設置市長)の権限で強制的に入院させることもできます。

強制力を伴う、いわゆる隔離入院としての措置です。

他にも、積極的疫学調査病原体検査就業制限交通の制限等、感染症の発生把握とまん延防止のための様々な措置が定められています。

感染症の発生予防及びまん延防止のために、種々の措置が定められ、実施される
感染症法に定められた主な措置
措置 条文 内容 実施主体 権限vs義務
権限 義務
医師の届出 第12条
  • 診断確定した感染症を保健所に届け出る
  • 届出を基に、以下の措置を実施し、疾病統計を作成する
  • 診断した医師本人
感染症の発生の状況、
動向及び原因の調査
第15条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
  • 厚生労働大臣
  • 採取した検体を検査する
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
健康診断 第17条
  • 感染症疑われる患者医師による健康診断を受けさせる
    =医療機関の外来を受診させる
  • 受けるように「勧告」する
    • 勧告に従わない場合は強制的に受けさせることができる
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
就業制限 第18条
  • 感染症確定患者が、ある範囲の業務に従事することを一定期間制限する
  • 制限される業務は省令(感染症法施行規則)で別途定められている
    • 飲食業、不特定多数に接する業務など
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
入院 第19条
第20条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
移送 第21条
  • 感染症疑似症患者又は確定患者を入院させる際に、自宅等から感染症指定医療機関まで、自治体が車両等で送り届ける
    • 感染症患者が公共交通機関等を利用して感染拡大するのを避けるのが目的
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
消毒 第27条
  • 感染症の病原体に汚染された場所消毒する
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
交通の制限 第33条
  • 消毒だけでは一類感染症の蔓延を防止できない場合に、感染症患者のいる場所又は病原体に汚染されたおそれのある場所の、交通を制限し遮断する
  • 2020年1月23日に武漢市及び周辺市に対して中国当局が実施した交通遮断に相当
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
措置 条文 内容 実施主体 権限 義務
権限vs義務

感染症の「類型」:一類~五類

感染症に対する様々な措置を前項で紹介しましたが、これらの措置はいかなる感染症に対しても適用されるわけではありません

一部には人権制限も伴うような、強制力のあるものばかりですので、感染症の重大さに応じて適用される措置も異なります

すなわち、「この措置はこの感染症にのみ適用する」旨を、法律に明記する必要があります。

ただし、措置を適用する感染症を個別に指定するのは煩雑であり、医学の進歩に伴って感染症や病原体の情勢も変化します。

このため、重大さ等に応じて感染症をグループ分けし、そのグループに対して適用される措置を指定する、という方式をとっています。

それら感染症のグループを「類型」と呼びます。

類型と、各類型に分類される個々の感染症は、感染症法第6条に定義されています。

感染症の重大さ等に応じて措置の適用範囲を定めるため、
感染症はグループ分けされている
=「類型]
感染症の類型、特徴と指定されている疾患
類型 条文 特徴 指定されている疾患
一類感染症 第6条
第2項
  • 最もvirulence(病毒性)やCFR(case-fatality rate;致死率)が高く、ヒト-ヒト感染も容易である感染症
  • ウイルス性出血熱が多い
二類感染症 第6条
第3項
  • 一類感染症に次いでvirulenceやCFRが高いが、ヒト-ヒト感染の程度は一類感染ほどではない感染症
三類感染症 第6条
第4項
  • 主として経口感染、糞口感染、食物媒介感染し、virulenceも高い感染症
四類感染症 第6条
第5項
  • 主として動物由来感染、虫媒介感染する感染症
  • VirulenceやCFRが一類感染症並みに高いものも含まれているが、一般的にヒト-ヒト感染しないものは四類に分類されている
  • A型肝炎
  • E型肝炎
  • 黄熱
  • 狂犬病
  • 炭疽
  • マラリア
  • 鳥インフルエンザA(H5N1, H7N9以外の亜型)
    • など
  • その他政令(感染症法施行令第1条の2)で定めるもの
    • デング熱
    • ジカウイルス感染症
    • チクングニア熱
    • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
    • ダニ媒介脳炎
    • 日本脳炎
    • ニパウイルス感染症
      • など
五類感染症 第6条
第6項
  • Virulenceは相対的に低いが、届出(法第12条)や積極的疫学調査(法15条)などを通じたサーベイランスが必要と判断されるもの
  • 麻疹
  • 季節性インフルエンザ
  • ウイルス性肝炎(A型、E型以外のもの)
  • 後天性免疫不全症候群(AIDS/HIV感染症)
  • 梅毒
  • クリプトスポリジウム症
    • など
  • その他省令(感染症法施行規則第1条)で定めるもの
    • 風疹
    • 百日咳
    • アメーバ赤痢
    • 破傷風
    • ヘルパンギーナ
    • 急性胃腸炎
    • 水痘
    • 侵襲性髄膜炎菌感染症
    • 侵襲性肺炎球菌感染症
      • など

感染症の「類型」:新興再興感染症に備えて

前項の一類~五類は個別の疾患をホワイトリスト方式で指定しています。

しかしこれだけでは、新興再興感染症が現れた時にまん延防止に必要な措置が実施できません

そこで感染症法は、新興再興感染症に備えるために、以下の3つの類型も定めています。

この3つの類型は、新興再興感染症が発生した場合に政令等で定めることで、機動的に措置がとれる仕組みになっています。

法律を制定・改正するのは国会であり、毎年1月~6月の国会開会中でなければ制定・改正ができません。

一方で政令を制定するのは内閣であり、毎週開催されている閣議を通じて機動的に制定することができます

今回の新型コロナウイルス感染症も、内閣が制定した政令によって「指定感染症」に定められ、各種の措置が実施できるようになったのです。

新興再興感染症に機動的に備えるために、以下の3類型も定められている
  • 新型インフルエンザ等感染症
  • 指定感染症
  • 新感染症
新興再興感染症に備えた類型
類型 条文 内容 指定の方法
新型インフルエンザ等感染症 第6条
第7項

新型インフルエンザ

  • 鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ等が変異し、連続したヒト-ヒト感染能力を有するようになったインフルエンザ
再興型インフルエンザ
  • かつて新型インフルエンザとして世界でまん延し、いったん終息したものが、再びまん延するようになったインフルエンザ
  • 厚生労働大臣が定める

法令上は上2者を総称して新型インフルエンザ「等」感染症と呼ぶ

指定感染症
第6条
第8項
第7条
  • 既知の感染症(一類~三類、新型インフルエンザ等以外)が何らかの理由で重篤な症状等を起こすようになり、まん延防止のために一定の措置が必要になった場合に、政令で定める
  • 上述の措置のうちどれを実施するかは、その都度政令で定める
  • 指定期間は最長1年まで
    • さらに最長1年まで延長可能
  • 政令で定める
    • 内閣が制定し、天皇が公布する
新感染症 第6条
第9項
第44条の6
テンプレート:Vertical
第53条
  • 既知の感染症とは異なる新興感染症で、ヒト-ヒト感染し、重篤な疾患である場合に、政令で定める
  • 既存の類型と同様の措置が実施できるが、根拠条文が独立している
    • 健康診断(第45条)、入院(第46条)、移送(第47条)、消毒(第50条)、等
  • 指定期間は最長1年まで
    • さらに最長1年まで延長可能
  • 政令で定める
    • 内閣が制定し、天皇が公布する

上記2つ目の類型が、今回2019-nCoVが指定された「指定感染症」です。

コロナウイルス自体は既知の病原体(感染症)です。

それが変異してヒトに重篤な症状等を起こすようになり、まん延防止のために複数の措置が必要と判断されたことから、「指定感染症」に定められたのです。

既知であるコロナウイルスが変異して重篤な感染症を起こすようになったことに対し、蔓延防止の措置を実施するために、新型コロナウイルス感染症指定感染症に定められた

各類型に対して実施する措置

これまで解説したとおり、感染症法は蔓延防止等のために措置を定め、措置の対象感染症を類型で定めています。

類型と措置の組み合わせは、下表のとおりとなっています。

下表において、「✔」は実施主体による「権限」です。すなわち、措置を実施するか否かを実施主体が決めることができます

一方で、「✔義務」は実施主体の「義務」です。すなわち、実施主体は措置を必ず実施しなければいけません

感染症の類型と実施する措置
 (「✔」…権限 「✔義務」…義務)
措置 条文 実施主体 一類感染症 二類感染症 三類感染症 四類感染症 五類感染症 新型インフルエンザ等感染症
指定感染症
新感染症
医師の届出 第12条
  • 診断した医師本人

義務

義務

義務

義務

義務

義務

義務

義務
感染症の発生の状況、
動向及び原因の調査
第15条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
  • 厚生労働大臣
その都度政令で定める
健康診断 第17条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

第45条
就業制限 第18条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
入院 第19条
第20条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

第46条
移送 第21条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

義務

第47条
消毒 第27条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

第50条
交通の制限 第33条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

第44条の4

第50条

上表のとおり、新型インフルエンザ等感染症と新感染症に対しては、実施できる措置があらかじめ感染症法に明記されています。

一方で、指定感染症の場合は、実施できる措置は政令でその都度定めることになっています。

これは、指定感染症の重大さ等に幅があることを想定し、措置の範囲を一律に定めず、政令で機動的に定められるようにしてあるのです。

指定感染症に対する措置は、政令でその都度定める

指定感染症「新型コロナウイルス感染症」に対する措置は二類感染症と同じ

今回の指定感染症「新型コロナウイルス感染症」に対して実施できる措置も、政令で定められました。

この政令を正確に読み解くには、感染症法の各条文と照らし合わせなければならないので、なかなかに大変です。

ですが一言で言ってしまえば、指定感染症としての新型コロナウイルス感染症には、二類感染症と同じ措置が実施できる、と定められました。

※正確に言えば、「政令で細かく定めた内容を総合すると、結果的に二類感染症と同じ措置となっている」ということです。政令に「二類感染症と同じ措置とする」のように簡単に書かれたわけではありません。

二類感染症の代表的な疾患は、中東呼吸器症候群(MERS)鳥インフルエンザA(H7N9)などです。

これらと同じ措置が新型コロナウイルス感染症に対しても実施できると理解いただいて結構です。

(※結核も二類感染症ですが、公費負担の方法等が他の二類感染症と若干異なります)

すなわち、

  • 新型コロナウイルス感染症が疑われる患者に対し、都道府県知事(保健所設置市長)が健康診断を受けさせる(法第17条)
  • 新型コロナウイルス感染症が疑われる患者に対し、都道府県知事(保健所設置市長)が検体採取に応じさせる(法第15条)
  • 新型コロナウイルス感染症の疑似症患者又は確定患者を、都道府県知事(保健所設置市長)が入院させる(法第19条)

などの措置が可能となりました。

これらの措置を通じて、新型コロナウイルス感染症の蔓延防止を目指すこととなります。

指定感染症「新型コロナウイルス感染症」に対する措置は、
二類感染症に対する措置と同じ


指定感染症「新型コロナウイルス感染症」に対して定められた措置
 (「✔」…権限 「✔義務」…義務)
措置 条文 実施主体 一類感染症 二類感染症 三類感染症 四類感染症 五類感染症 新型インフルエンザ等感染症 指定感染症
新型コロナウイルス感染症
新感染症 措置
医師の届出 第12条
  • 診断した医師本人

義務

義務

義務

義務

義務

義務

義務

義務
医師の届出
感染症の発生の状況、
動向及び原因の調査
第15条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
  • 厚生労働大臣
感染症の発生の状況、
動向及び原因の調査
健康診断 第17条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

第45条
健康診断
就業制限 第18条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
就業制限
入院 第19条
第20条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

第46条
入院
移送 第21条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

義務

第47条
移送
消毒 第27条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長

第50条
消毒
交通の制限 第33条
  • 都道府県知事
  • 保健所設置市長
交通の制限

症例定義と患者・疑似症患者について

これまでの解説において、

  • 感染症が疑われる患者
  • 疑似症患者
  • 確定患者

などの用語を使ってきました。

感染症法は「措置を定めた法律」であり、措置を実施する対象疾患を「類型」で定め、措置の「実施主体」も定めています。

もう一つ定めねばならないのが、それらの措置を「誰に対して実施すべきか」、すなわち「措置対象者」です。

一部には人権制限も伴うような、強制力のある措置ばかりですので、措置対象者は明確に定められなければいけません

感染症法では、措置対象者を以下のような用語・表現で記しています。

これらの用語・表現の明確な定義は一部を除いて感染症法内には記されておらず、医学的常識に従って解釈したり、別途発出される通知等によって意思統一が図られます。

措置の対象者は確定患者以外も含めて法で定めてある

新型コロナウイルス感染症に関しては、指定感染症に定めた政令において、「疑似症患者も患者と同等の措置を実施する」ことが定められました。(第8条第1項に基づく)

すなわち、新型コロナウイルス感染症に合致する症状があるが、まだ検査で確定されていない状態(=疑似症)であっても、確定患者と同等に入院(第19条)などの措置を実施することができます。

新型コロナウイルス感染症は、疑似症患者であっても患者(確定患者)と同等の措置を実施する
※下記の他にも、措置対象としての媒介動物や死体についての表現が複数あります
感染症法の条文において表現されている措置対象者
感染症法上の表現 定義した条文 感染症法上の定義、一般的な解釈 備考
患者 (定義なし)
  • 合致する症状があり、かつ、
    • 原因となる病原体が検査によって検出された者、または、
    • 合致する症状があり、医師が当該感染症だと診断した者
  • 病原体検査の陽性を要件とするか否かは、その時点の医学的知見も踏まえて、感染症ごとに通知や症例定義等で決定される
  • 感染症疫学における「確定例(confirmed case)」に相当
当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者 (定義なし)
  • 感染症法上に明確な定義はないが、下記の条文で使用されている
    • 第8条第2項「新型インフルエンザ等感染症の疑似症患者であって当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者については、新型インフルエンザ等感染症の患者とみなして(後略)」
    • 第17条「都道府県知事は(中略)当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者健康診断を受けさせる(後略)」
  • 第8条第2項における使用では、「新型インフルエンザ等感染症の疑似症患者」だけでは季節性インフルエンザやその他の急性呼吸器疾患と鑑別できず、そのままでは入院等の強い措置を実施するのは不適切、という前提となっている。そのため、「疑うに足りる正当な理由」、例えば確定患者との接触歴や流行地への滞在歴等を加味することで、初めて入院等の強い措置をとるよう定めている。
  • 第17条における使用では、やはり健康診断という強い措置を実施する根拠として、例えば曝露源との接触歴や流行地への滞在等を加味することで、初めて健康診断を受けさせるよう定めている。
  • こうした点で、感染症疫学の「可能性例(probable case)」に相当する
疑似症患者 第6条第10項
  • 「感染症の疑似症を呈している者をいう」(第6条第10項)
  • 合致する症状があるが、病原体検査又は医師の診断によって確定されていない者
  • 一類感染症および一部の二類感染症の疑似症患者に対して、患者(確定患者)と同等の措置を実施できるよう、第8条第1項で定めている
    • 重大な感染症は確定前であっても入院(第19条)などの強い措置を実施できるようにするため
  • 第6条第10項の定義に従うなら感染症疫学における「疑い例(suspected case)」に相当する
    • ただし、一部の感染症の症例定義においては感染症疫学の「可能性例(probable case)」に相当することもあり、注意が必要
無症状病原体保持者 第6条第11項
  • 「感染症の病原体を保有している者であって当該感染症の症状を呈していない者をいう」(第6条第11項)
  • 検査によって病原体が体内から検出されたが、無症状である者;臨床でいう不顕性感染者
  • 例えば一類感染症であるラッサ熱に罹患し病原体検査によって確定した患者が入院(第19条)し、治療によって症状が消失した場合は、病原体検査を再度行い、病原体が消失したのを確認して初めて退院(第22条)となる。この場合、症状は消失しているが病原体検査がまだ陽性である場合は、無症状病原体保有者として入院措置が継続されることになる。

用語の概念又は定義は上表のとおりですが、実際にどのような症状を「疑似症」とするか、またどのような条件を「かかっていると疑うに足りる正当な理由」とみなすか、またどのような検査等によって確定患者とするかは、個々の感染症ごとに決める必要があります。

これを「症例定義」と呼びます。

症例定義には、「発症前○日以内の間に、○○との接触があった、又は○○に滞在したことがある者で、○○と○○の症状を呈している者」といった条件が細かく書かれます。

症例定義は通常、厚生労働省結核感染症課から通知によって発出されます。

個々の感染症の症例定義は、通知によって定められるのが通例

指定感染症であれば、政令が施行されると同時に症例定義の通知が発出されるのが通例です。

ところが、2020年2月1日午前0時に新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたにもかかわらず、同日夜の20時の時点で症例定義は発出されていません。感染拡大の一途をたどっているため、どのような条件で疑似症などを定義するか、検討が続いているものと思われます(2020年2月1日20時00分現在)。

感染症指定医療機関について

これまで解説してきたように、感染症は類型を定められ、類型に対して措置が定められます。

最も重要な措置である入院(第19条)は、あらかじめ法令で指定された医療機関でのみ実施されます。どこの医療機関でも感染症法上の入院ができるわけではないのです。

あらかじめ指定された医療機関のことを、「感染症指定医療機関」といいます。

感染症指定医療機関は「特定」「第一種」「第二種」に分かれ、それぞれ入院措置を実施できる感染症類型が異なります。

いずれの指定医療機関も専用の感染症病床(個室)を備えていますが、類型の重篤度の差に応じて病床の隔離度や陰圧管理等に差があります。

新型コロナウイルス感染症の入院は、政令によって、「特定」「第一種」「第二種」すべての指定医療機関で行うことが定められました。

新型コロナウイルス感染症の入院は、「特定」「第一種」「第二種」すべての感染症指定医療機関で行う
種別 入院できる類型 指定医療機関
特定感染症指定医療機関
  • 新感染症
  • 一類感染症
  • 二類感染症
  • 成田赤十字病院
    • 成田国際空港近郊
  • 国立国際医療研究センター病院
    • 東京国際空港近郊
  • 常滑市民病院
    • 中部国際空港近郊
  • りんくう総合医療センター
    • 関西国際空港近郊
第一種感染症指定医療機関
  • 一類感染症
  • 二類感染症
第二種感染症指定医療機関
  • 二類感染症

サマリー(再掲)

以上をまとめると下記のようになります。(冒頭のサマリーに同じ)

  • 2019-nCoV感染症は政令によって、2020年2月1日付けで感染症法上の指定感染症に定められた
  • 法令上の名称は「新型コロナウイルス感染症」となった
  • 感染症法は、感染症の発生予防・蔓延防止のために、種々の措置を定めている
  • 措置の多くは都道府県知事又は保健所設置市長が実施主体であり、実務を担うのは自治体の感染症担当部署である
  • 措置を適用する感染症を類型で定めている
  • 新興再興感染症に備えた類型もあり、指定感染症はその1つである
  • 指定感染症としての新型コロナウイルス感染症には、二類感染症と同等の措置が実施される
  • 新型コロナウイルス感染症の「患者」「疑似症患者」等は、症例定義で定められる
  • 症例定義は厚生労働省の通知によって発出される予定だが、2月1日20時時点でまだ発出されていない
  • 新型コロナウイルス感染症の入院(法第19条)は「特定」「第一種」「第二種」の各感染症指定医療機関で行われる