差分

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筋注(三角筋)
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7AstraZenecaの投与法がかなり複雑になってしまっています.理由は以下の事情によるものです. 「参加者」の項で説明したとおり,AstraZenecaでの効果を解析する治験は「COV002」と「COV003」の2つのみです. 論文によると,COV002で製造した実薬ロットを検定したところ,ベクターウイルス量が測定手法によって大きく異なる結果が出てしまったそうです.:※同一ロットを分光光度法で測定したところ5.0×10<sup>10</sup>,定量PCR法で測定したところ2.2×10<sup>10</sup> 先に実施したCOV001において,分光光度法による測定で5.0×10<sup>10</sup>と安全用量を決定していたため,一貫性を保つためにCOV002の1回目投与ではこのロットを接種しました. しかし,COV002の1回目投与後の副反応を観察したところ,想定しうるワクチン反応(接種部位の腫脹や発熱など)の頻度が事前予想よりも低いことがわかりました.論文にはそれ以上の記載がありませんが,「1回目ロットのベクターウイルス含有量が予定よりも少なかった」と治験担当者達が考えたのではないかと,私は想像しました. さらに,分光光度法によるウイルス量測定において,実薬に含まれる添加剤が分光光度測定に干渉する,すなわち分光光度法ではウイルス量を正確に測定できないことがわかりました. 1回目ロットのベクターウイルス量が少ない可能性がある上に,当初計画の検定法ではそれを正確に測定できないことがわかった訳ですから,治験担当者達は相当頭を抱えたのではないかと私は想像しています. 論文によると,治験担当者は監視当局と協議して許可を得た上で,COV002で使用するロットの検定を定量PCR法測定で行うよう,中途で治験プロトコルを変更したそうです.定量PCR法で5.0×10<sup>10</sup>と測定されたロットに中途から切り替えることになったため,COV002の実薬群参加者の一部は結果的に,1回目に2.2×10<sup>10</sup>含有の実薬を,2回目には5.0×10<sup>10</sup>含有の実薬を,それぞれ接種することになったのです. 論文では2.2×10<sup>10</sup>含有の実薬を「low dose, LD」と呼び,5.0×10<sup>10</sup>含有の実薬を「standard dose, SD」と呼んでいます. また,一連の中間検証や監視当局との協議,プロトコル変更に時間を要したため,COV002の2回目接種は当初計画の4週間を大きく超えてしまいました. 1回目のLD投与群に対する2回目としてのSD投与は,殆ど(99%超)の参加者が9週間以上の間隔で,うち半数以上(52%超)の参加者は12週以上の接種間隔となっています. 一方で,COV002の中でも遅い時期に登録した参加者は,1回目でもSDを投与されました.2回目投与も,早期登録参加者よりは短い間隔で接種されています. :(※本当は上記事情に加えて,COV002の若年参加者(55歳以下)を早期に登録した上で当初は1回のみの接種スケジュールだったところLDが判明したためブースター目的に2回目接種を急遽加えるよう変更したとか,同じCOV002でも高齢参加者(56歳以上)は遅くに登録した上で当初から2回接種スケジュールの計画だったとか,ややこしすぎる事情もあります) なお,COV003はCOV002よりも遅れて開始され,参加者の大半はSDロットが確立されてから登録されたようです.そのためCOV003参加者の実薬群は全員が1回目からSD投与ですし,参加者の60%超は2回目を1回目の6週間以内に接種しています. AstraZenecaワクチンは,ロット検定法の不備により,中途変更を含むあまりに複雑な治験構造となってしまいました.治験としてそれはどうなんだと正直疑問ですが,新型コロナのワクチン開発は超緊急課題ですから,特別に許されたのかもしれません…. AstraZenecaワクチンはそれらの点を割り引いて評価する必要があると,私は考えています.
==3ワクチン論文からわかること,わからないこと==

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