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編集の要約なし
<div class="toccolors" style="margin:10px; padding:20px; text-align:center; background:linear-gradient(lightcyan,springgreen); font-size:1.3em; font-weight:bold;">
本ページは2021年3月26日で更新を停止し,下記サイトに内容を移管しました.
 
<div align="center">{{Quote|content=[http://vaccipedia.jp/ Vaccipedia ワクチペディア|プライマリケアのためのワクチンリソース]}}</div>
 
ブックマーク変更等お願いいたします.
</div>
 
{{Vaccines}}
 
==本ページおよび管理者について==
本ページは[[メインページ|「新型コロナウイルス感染症まとめサイト」]]のサブページとして作成しました.
 
本来ならトップページからリンクを張るべきなのですが,「まとめサイト」は昨年4月以降更新を停止してアーカイブ状態となっており,リンクを張る際にはトップページを整理する必要があります.<br>
なかなかその時間がとれないため,やむを得ず本ページだけ独立した状態で作成しました.
 
管理者は守屋章成医師です.
 
管理者は検疫所で勤務しておりますが,本ページおよび「まとめサイト」の内容は完全に個人の見解であり,所属組織を代表するものではありません.
 
{|class="wikitable" style="min-width:450px;"
|-
!colspan="4"|サイト管理者のワクチンおよび新型コロナに関する著作等
|-
!style="min-width:3.5em;"|
!{{V|ワクチン}}
!{{V|新型コロナ}}
!著作、映像配信、講演等
|-
|rowspan="2"|2021年
|✓
|✓
|ケアネット [https://carenetv.carenet.com/series.php?series_id=381 コロナワクチン緊急対談 接種済在米医師とワクチンエキスパートが近未来を見通す]
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|
|✓
|南江堂 [https://www.nankodo.co.jp/g/g3027011/ 「内科」2021年1月号特集「COVID-19に正しく立ち向かうために」]
*「PCR検査を理解するために」分担執筆
|-
|rowspan="5"|2020年
|
|✓
|第61回日本臨床ウイルス学会 [https://admedic.co.jp/jacv61/download/tokubetukikaku12.pdf 特別企画「COVID-19 ─ 19人の専門家からのアップデート」]
*「18. 検疫所での対応」担当
|-
|✓
|✓
|医学書院 [https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2020/PA03377_02 「週刊医学界新聞」 【視点】「新型コロナの次なる波」の前にワクチンと感染管理を]
|-
|✓
|✓
|ケアネット [https://www.carenet.com/series/vaccine/cg002544_g005.html 連載【今知っておきたいワクチンの話】 第5回 ワクチンと新型コロナウイルスと検疫]
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|✓
|ケアネット [https://carenetv.carenet.com/series.php?series_id=341 病医院のためのCOVID-19対策Webセミナー 元診療所医師・現検疫官が教える「今現場でなすべきこと」]
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|✓
|
|日本医事新報 [https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14721 5013号特集「診療所で役立つワクチンキャッチアップスケジュール集」]
*[https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14991 (電子コンテンツ版)]
|-
|2019年
|✓
|
|南山堂 [http://www.nanzando.com/books/18811.php 「おとなのワクチン」]
*「9 予防接種の制度と法令」「37 黄熱」分担執筆
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|rowspan="2"|2015年
|✓
|
|羊土社 [https://www.yodosha.co.jp/gnote/book/9784758123075/index.html 「Gノート」2015年6月号特集「こどもの診かた Next Step!」 ]
*「学童期・思春期の予防接種 ~もしも,未接種を発見したら」分担執筆
|-
|✓
|
|MEDSi [https://www.fujisan.co.jp/product/1281695314/b/1303347/ 「Hospitalist」2015年2号特集「外来における予防医療」]
*「8. 予防接種編:ホスピタリストが考慮すべき成人での予防接種」分担執筆
|-
|2014年
|✓
|
|ケアネットDVD [https://www.carenet.com/dvd/209 「ここから始めよう!みんなのワクチンプラクティス ~今こそ実践!医療者がやらなくて誰がやるのだ~」]
|}
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
 
==おことわり==
本ページは,新型コロナワクチンについての'''医療従事者向けのまとめ'''です.
内容は'''2021年1月10日時点でサイト管理者が得ている情報2021年2月14日時点でサイト管理者が得ている情報'''に基づいています.
重要な情報更新があった場合はページ内容も更新するよう努力しますが,すべての情報をリアルタイムには網羅できていないことをご承知おきください.
なお,個人のワクチン接種の是非を含めて,'''ご自身の健康に関わる疑問等については,かならず主治医,かかりつけの医師,保健所等にご相談ください'''.
 
===更新履歴===
{|class="wikitable"
|-
!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月17日
|[[#改正予防接種法における扱い|「改正予防接種法における扱い」]]の項に追記
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!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月14日
|Pfizerワクチンが「コミナティ筋注」として日本で承認されたことを該当項に追記
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!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月12日
|変異株について「[[#変異株に対する効果]]」の項を新設
|-
!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月6日
|アナフィラキシーについて英国の報告を追記し「[[#認可後に報告されたアナフィラキシー]]」に再整理
|-
!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月5日
|<s>アナフィラキシーについて「認可後に米国CDCが発表したPfizer, Moderna両ワクチンでのアナフィラキシー反応」に再整理</s>
|-
!style="vertical-align:top;"|2021年2月 4日
|[[#ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はない|「ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はない」]]を追記
|-
!style="vertical-align:top;"|2021年1月26日
|<s>「認可後に米国CDCが発表したModernaワクチンでのアナフィラキシー反応」および「アナフィラキシーの頻度の解釈について」を追記し,前後を整理</s>
|-
!2021年1月19日
|一般公開
|-
!2021年1月13日
|暫定公開
|}
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==要点と個人的見解==
<div style="font-size:1.2em;">
*Pfizer と Moderna の '''mRNA ワクチン'''は,'''16 or 18歳以上の成人'''のCOVID'''発症'''に対する'''予防効果(VE)が約95%'''ある
*AstraZeneca の'''ウイルスベクターワクチン'''は,'''18歳以上の成人'''のCOVID'''発症'''に対する'''予防効果(VE)が約70予防効果(VE)が約60-90%'''ある
*3ワクチンとも,'''接種を大いにためらうような重篤な有害事象は今のところ明らかではない'''
*'''他者への感染予防効果''',すなわち'''集団免疫'''が獲得できるかは,'''未だ不明'''である
*COVID発症による'''社会への影響が大きい職種'''と,COVID発症で'''重症化や生命の危険がある人々'''は,特に優先的に接種すべきである
*'''重篤有害事象'''や'''抗体依存性感染増強ADE'''が将来的に報告される可能性には十分注意を払わねばならない
**それでも,数万分の1以下と予想される未知の重篤有害事象等のリスクと,感染拡大する日本でCOVIDに感染するリスクを天秤にかければ,'''接種のメリットの方が遥かに上回る'''
*現状の日本においては,ワクチンが流行を制御すると'''実感すること'''は'''難しいかもしれない'''
*ワクチンの普及には,ロジスティクスや社会からの信頼など,'''克服すべき課題'''が多数ある
</div>
}}
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==開発が進む新型コロナワクチン==
※サイトごとにまとめ方が異なるため,開発段階ごとのワクチン数はそれぞれ異なります.
===日本で接種される可能性が高い3ワクチン日本で承認済みまたは承認される可能性が高い3ワクチン===輸入契約が結ばれている等の理由で日本で承認済み,承認申請済み,または輸入契約が結ばれている等の理由で'''日本で接種される可能性が高い日本で接種される可能性が高く''',かつ'''既に開発国で認可済み開発国で承認済み'''(緊急使用承認含む)のワクチンは,下記の'''3ワクチン'''です. このうち,Pfizer-BiONTech社のワクチンは'''[https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/navi.html 製品名「コミナティ筋注」として2021年2月14日付で特例承認により日本で承認されました]'''.
{|class="wikitable" style="font-size:1.3em; font-weight:bold; min-width:500px;"
!開発拠点国
!開発コード名
!日本承認名
|-
|
|米国
|BNT162b2
|[https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/631341DA1025_1_01/?view=frame&style=XML&lang=ja コミナティ筋注]
|-
|
|米国
|mRNA-1273
|
|-
|
|英国
|AZD1222
|
|}
 
本ページでは,'''2021年1月10日時点の情報'''を基に,上記3ワクチンについてまとめています.
以下,3ワクチンを次のように呼ぶことにします.
</div>
===米国と英国では既に認可済み米国と英国では既に承認済み===3ワクチンは開発拠点国の米国と英国で既に使用認可が下り,医療従事者をはじめとして市中での接種が始まっています.3ワクチンは開発拠点国の米国と英国で既に使用承認が下り,医療従事者をはじめとして市中での接種が始まっています.
{|class="wikitable" style="min-width:500px;"
|-
!ワクチン
!米国での認可米国での承認!英国での認可英国での承認!日本での承認
|-
!Pfizerワクチン
|[https://www.fda.gov/media/144412/download 2020年12月11日 緊急使用認可(同23日改訂)緊急使用承認(同23日改訂)]|[https://www.gov.uk/government/news/uk-medicines-regulator-gives-approval-for-first-uk-covid-19-vaccine 2020年12月2日 通常認可通常承認]|[https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/631341DA1025_1_01/?view=frame&style=XML&lang=ja 2021年2月14日 特例承認]
|-
!Modernaワクチン
|[https://www.fda.gov/media/144636/download 2020年12月18日 緊急使用認可緊急使用承認]|[https://www.gov.uk/government/news/moderna-vaccine-becomes-third-covid-19-vaccine-approved-by-uk-regulator 2021年1月8日 通常認可通常承認]|未承認
|-
!AstraZenecaワクチン
|(未認可)(未承認)|[https://www.gov.uk/government/news/uk-medicines-regulator-gives-approval-for-first-uk-covid-19-vaccine 2020年12月30日 通常認可通常承認]|未承認
|}
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==ワクチンの効果「vaccine efficacy」とは,「接種しなかったので感染した人数」から「接種したけど感染した人数」への「割引率」==
この「'''95%'''」が,ワクチンの効果 '''vaccine efficacy, VE'''なんですね.<br>
ワクチンを接種することで「'''感染リスクが95%割り引かれる'''」と言うこともできます.割引率95%の超お値打ち品ということです.
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==3ワクチンの製法について==
なお参考までに古典的なワクチンに比喩するなら,病原体タンパクだけが体内で増えるという点,接種する物質もmRNAという「自己増殖機能を持たない分子」である点で,不活化ワクチンに似ていると言えるでしょう.言い換えれば,生ワクチンとは決定的に違います.
 
mRNAワクチンのより詳しい原理については,日本RNA学会のエッセイをご参照ください.
{{Quote|content=
<ol>
<li>[https://www.rnaj.org/component/k2/item/855-iizasa-2 mRNAワクチン:新型コロナウイルス感染を抑える切り札となるか?]
<li>[https://www.rnaj.org/newsletters/item/856-furuichi-28 <走馬灯の逆廻しエッセイ> 第28話「コロナウイルスへのメッセンジャーRNAワクチン」]
</ol>
}}
mRNAワクチンの専門的な解説については,下記の総説論文がわかりやすいです.
{{Quote|
content=[https://www.nature.com/articles/nrd.2017.243 Pardi, N., Hogan, M.MJ, PorterFW, F. et alWeissman D. mRNA vaccines — a new era in vaccinology. Nat Rev Nature Reviews Drug Discov Discovery. 2018;17, 261–279 (20184):261-279. httpsdoi://doi.org/10.1038/nrd.2017.243]
}}
{{Quote|
content=
[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0952791516300541 Ewer KJ, Lambe T, Rollier CS, et alSpencer AJ, Hill AVS, Dorrell L. Viral vectors as vaccine platforms: from immunogenicity to impact, . Current Opinion in Immunology, . 2016;41, :47-54(2016). httpsdoi://doi.org/10.1016/j.coi.2016.05.014.]
}}
 
===ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はない===
3ワクチンともコロナウイルスの遺伝子を,mRNAを直接またはベクターウイルスを介して,体内に注入します.
 
このことから,「ウイルスの遺伝子が自分の体(細胞)に悪影響を残したらどうしよう,それが将来の子どもや孫に影響したらどうしよう」という漠然とした不安を抱く方が少なくないようです.
 
しかし古典的な分子生物学(生化学)の知識により,それが杞憂であることがわかります.<br>
かつて勉強した「[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B0%E3%83%9E セントラルドグマ]」ですね.
 
<div class="toccolours mw-collapsible mw-collapsed>
'''セントラルドグマのおさらい'''
<div class="mw-collapsible-content">
「遺伝子」という言葉は生物個体を形づくる情報のことであり,「ゲノム」とも呼びます.<br>
個体の情報は親から子へも受け継がれるので「<ruby>遺<rp>(</rp><rt>のこ</rt><rp>)</rp></ruby>し伝える」という日本語が使われていますが,この情報の本来の目的は個体の体すべてを作ることなんですね.
 
遺伝子は情報を指す言葉ですが,その物質としての正体は,ヒトを含む殆どの生物の場合で「DNA(デオキシリボ核酸)」という巨大分子です.より正確には「塩基」が超超超たくさんつながったひも状の分子です(塩基が連なった分子構造のことを「核酸」と呼ぶこともあります).ひも状の長い分子は2本ペアになっており,お互いがお互いの周りをグルグル回ってらせん状になっている,いわゆる二重らせん構造をしています.
 
たくさんあるウイルスの一部のみ,「RNA(リボ核酸)」という巨大分子を遺伝子に使っています.
 
DNAとRNAは塩基単位で見ると酸素分子が1個多いか少ないかというわずかな違いだけですが,そのせいで巨大分子としての安定性に大きな影響があります.DNAよりもRNAの方が分子として安定性が悪くて壊れやすいという性質があります.細胞を基本とする生物の遺伝子はすべてDNAです.細胞という形ではないウイルスの,そのまた一部だけが,RNAを遺伝子にしてるんでしたね.
 
ここからはヒト細胞(をはじめとする真核細胞)の話です.
 
遺伝子であるDNAは,細胞の真ん中にある「細胞核」の中に保管されています.超超超長い二重らせんのひもは,まるで長いLANケーブルを束ねて丸めるように,折り曲げられて束ねられてまた折り曲げられて束ねられてグリグリと<ruby>塊<rp>(</rp><rt>かたまり</rt><rp>)</rp></ruby>になっています.この塊が「染色体」と呼ばれ,光学顕微鏡でも見ることができる大きさです.
 
さて細胞が「自分をコピーした細胞を作ろう」「役に立つタンパク質を作って細胞の外に送り出そう」と考えると,染色体の束をほどいてDNAをひも状に戻し,DNAの二重らせん構造は専用の酵素によって1本ずつに分離されます.この片側1本のうち,自分のコピーやタンパク質を作るための情報(意味と法則性がある塩基の並び)が収まっている部分に専用酵素がかぶさって,まるでスキャナかハンディコピー機のように情報(塩基の並び)を複製していきます.
 
情報を複製?そう,1本ずつに分離されたDNAの塩基の並びと意味合いが同じになるように,新しくRNAを作っていくんですね.え?新しく作るのはDNAじゃなくてRNAなの?そこは新型コロナワクチンの本題からはあまり関係ないのでツッコまないでください.とにかくDNAのコピーはRNAを使って作られるんです.光沢紙に印刷された内容を再生紙にコピーするようなもんだと考えてください.
 
コピーRNAを作るまでは細胞核の中で行われますが,作られたコピーRNAはその後細胞核の外に漂い出ていきます.
 
細胞核の外に広がっているのは「細胞質」でしたね.さらに外側を「細胞膜」(植物の場合はプラス「細胞壁」)で囲まれて,細胞質の中には水に溶け込んだアミノ酸とか酵素とかその他色々がドロッと混ざり合ってフワフワ浮いています.
 
細胞質の中に漂い出てきたコピーRNAは,やがてフワフワ浮いている専用の酵素に出会います.専用酵素にはひも状のRNA分子をはめ込む溝があって,コピーRNAを溝にはめ込むと自動的に塩基の並びを読み取りはじめます.塩基の並びは,どういうわけか3つセットで1つのアミノ酸に対応してるんでしたね.誰だよそんなこと考えたやつ天才だろ.
 
酵素はコピーRNAの塩基並びを読み取りながら,近くでフワフワ漂ってるアミノ酸を適当にキャッチしては,対応するアミノ酸を読み取った順番どおりに結合させていきます.コンピュータ制御の製造ライン機械と全く同じ仕組みです.誰だよそんなこと考えたやつ天才だろ.
 
そうしてコピーRNAの塩基並びを全部読み取り終わると,目的のタンパク質が完成しているわけです.
 
タンパク質完成後のコピーRNAの行方は?RNAという分子自体の安定性が低いので,細胞質の中で数分~数日以内に分解されてしまいます.光沢紙からコピーした再生紙は内容だけ読んだらすぐにシュレッダーしてしまうようなものですね.
 
もうおわかりですね.「コピーRNA」と便宜的に呼んできたものが,セントラルドグマにおける「メッセンジャーRNA,mRNA」のことですね.
</div>
</div>
 
すなわち,【細胞核:DNA→mRNA】→mRNA→【細胞質:mRNA→タンパク質】という一方向の流れがあり,逆流はしない,という大原則のことをセントラルドグマと呼ぶんでした.
:※RNAウイルスのうち更に一部の逆転写酵素を持つウイルス(レトロウイルス)はセントラルドグマからは逸脱しますが,コロナウイルスも3ワクチンも逆転写酵素は全く持っていません.ヒトは細胞自身の寿命をコントロールするために持っている特殊な酵素に逆転写機能があるものの,細胞寿命にかかわる特定の並びのRNAにしか反応しないため下記で説明する流れには無関係です.
 
ここで,ウイルスがヒトに感染した場合は,ウイルス遺伝子(RNAまたはDNA)がヒト細胞内に放出されます.ウイルス遺伝子がヒト細胞質のアミノ酸等を使ってウイルスのコピーを作るわけです.
 
RNAウイルスでは細胞質内でmRNAから直接,DNAウイルスではいったん細胞核内でmRNAを作ってから再び細胞質内で,という過程の違いはありますが,ウイルス感染でもセントラルドグマに相当することがヒト細胞内で起きるのです.<br>
当然,ウイルス感染でもセントラルドグマの逆流はありません(※レトロウイルスを除く).
 
<div class="toccolours mw-collapsible mw-collapsed">
'''ウイルスのヒト細胞への感染おさらい'''
<div class="mw-collapsible-content">
ウイルスは遺伝子(ウイルスによってDNAかRNAのどちらか)とそれを包む殻だけでできている,きわめてシンプルな存在です.
 
ウイルスが体内に侵入してヒトの細胞の細胞膜にくっつくと,条件が合っていれば(=レセプターがあれば)ヒトの細胞はうっかりウイルスを細胞質の中へ招き入れてしまいます.ヒト細胞いったい何やってんだよというツッコミはなしにしてください.
 
RNAウイルスの場合は,まんまと細胞質内に入った後,殻の中から自分の遺伝子RNAを細胞質内に放出します.<br>
自分のRNAを基に,ヒト細胞質内の塩基を使ってRNA自身のコピーを作り,さらにアミノ酸やらを使ってタンパク質で自身の殻を作ることで,自分を大量コピーしようという了簡なわけです.
 
DNAウイルスの場合は,まんまと細胞質内に入った後,さらに細胞核内にまで侵入します.そこで自分の遺伝子DNAを細胞核内に放出するのです.<br>
細胞核の中で,ヒトDNAからmRNAを作る仕組みにちゃっかり便乗してウイルスDNAからmRNAを作り,それを細胞質内に出してもらってタンパク質を作って殻とし,自分を大量コピーしようという了簡なわけです.
 
RNAウイルスにしても,DNAウイルスにしても,盗人猛々しいとはまさにこのこと.
</div>
</div>
 
さて,今回の3ワクチンは,新型コロナウイルスの長いRNAを解析してヒトが免疫獲得できるようなウイルスタンパク(「スパイクタンパク」)を作る塩基並びを見つけ出し,それと同じ並びになるように人工的に塩基を並べたものを使っています.
 
mRNAワクチンの場合は直接mRNAになるように塩基を並べ,ウイルスベクターワクチンの場合はベクターウイルス(チンパンジーアデノウイルス;DNAウイルス)の遺伝子の中に塩基を人工的に組み込んでいます.
 
よって,Pfizer/ModernaのmRNAワクチンの場合はmRNAがヒト細胞に入ったら直接ヒト細胞質内で,AstraZenecaのウイルスベクターワクチンの場合は組み込まれたチンパンジーアデノウイルスの遺伝子(これはDNA)がいったんヒト細胞核内に入ってmRNAを作らせた後にヒト細胞質内で,新型コロナのスパイクタンパクを作るわけです.
:当然ですが,チンパンジーアデノウイルスの遺伝子DNAはヒト細胞核の中には入りますが,ヒト自身の遺伝子DNAに組み込まれるようなことは原理的にあり得ません.アデノウイルス属そのものが逆転写酵素を持たないので,どう逆立ちしてもアデノウイルスが自分のDNAをヒトDNAに組み込むことは不可能なのです.
 
そして,スパイクタンパクを作った後のワクチン由来mRNAは,分子として不安定であるために,数分~数日で分解されて消えてなくなります.
 
繰り返しますが,ヒトDNAのセントラルドグマと同じ原理が3ワクチンでも働きます.<br>
すなわち,ワクチン由来のmRNAは,ヒト細胞質から細胞核へと侵入することはあり得ないし,ましてやそれがヒトDNAに組み込まれて長く遺伝情報を保ち続けるなんてことはもっとあり得ないのです.
 
ヒトDNAを一冊の本にたとえるなら,そこから作られるmRNAは本のページのコピーです.<br>
mRNAワクチンのmRNAはその本とは全く別のチラシのコピーであり,ウイルスベクターワクチンのDNAもまたその本とは全く別のパンフレットにチラシのコピーをのり付けしたようなものです.<br>
本のページのコピーをどれだけ作っても,元の本の中に差し込んで背表紙にのり付けしてページを増やすことはできません.<br>
ましてや,本の中にチラシのコピー(パンフレットから剥がしてきたものも含む)を無理矢理差し込んで背表紙にのり付けするなど,到底不可能です.
 
こうした説明でも不安が消えないなら,次のことを考えてみてください.
 
どんな人でも生まれてから今日までの間に,何十回,何百回と何かのウイルスに感染してきています.<br>
もしもワクチンのmRNAやウイルスベクターワクチンのDNAがヒト細胞に組み込まれてしまうなら,人は何十回何百回とウイルス感染を繰り返すたびにウイルス遺伝子(RNAまたはDNA)を自分のDNAの中に組み込んでしまっているはずです.ノロウイルスに感染したら“ノロウイルス人”に,インフルエンザウイルスに感染したら“インフルエンザ人”に,新型コロナウイルスに感染したら“新型コロナウイルス人”に,生まれ変わってしまうはずです.<br>
でも幸いに,そんな“ウイルス人”は誕生していません.セントラルドグマに反することは起きないからです.<br>
ということは,mRNAワクチンだってウイルスベクターワクチンだって,そこに含まれる遺伝子がヒト遺伝子に組み込まれてしまうなんて,あり得ないことなのです.
===その他の新型コロナワクチン候補の製法===
それらの製法については,[https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/risk-comms-updates/update37-vaccine-development.pdf?sfvrsn=2581e994_6 WHOの資料]や[https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/072000119/ 日経バイオテクの記事],[https://www.youtube.com/watch?v=lFjIVIIcCvc GAVIによるCG動画]などに簡潔にまとまっていますので,ご参照ください.
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==3ワクチンの治験 phase 3 論文と,そのインパクト==
【閑話休題】
</div>
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==3ワクチン論文のかんたんまとめ==
|valign="top"|
''2回目接種7日後以降のCOVID発症''
*{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬群 !style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|8人/<hr>2,214人年*プラセボ群 |align="middle"|162人/<hr>2,222人年 *|-!colspan="2"|Vaccine efficacy Efficacy (95.0%信頼区間)|-**|colspan="2" align="middle"|95.0%信頼区間 (90.3-97.6)|}
|valign="top"|
''2回目接種14日後以降のCOVID発症''
*{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬群 !style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|3.3人/<hr>1,000人年*プラセボ群 |align="middle"|56.5人/<hr>1,000人年 *|-!colspan="2"|Vaccine efficacy Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|94.1%**95%信頼区間 (89.3-96.8)|}
|valign="top"|
''2回目接種14日後以降のCOVID発症''
*{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬LD→SD群 !style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|3人/<hr>1,367人*プラセボ群 |align="middle"|30人/<hr>1,374人 *|-!colspan="2"|Vaccine efficacy Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|90.0%**95%信頼区間 (67.4-97.0)|}
*{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬SD→SD群 !style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|27人/<hr>4,440人*プラセボ群 |align="middle"|71人/<hr>4,455人 *|-!colspan="2"|Vaccine efficacy Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|62.1%**95%信頼区間 (41.0-75.7)|}
|-
!重症COVIDの予防効果
|valign="top"|
''接種後時期を問わない重症COVID''
*{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬群 !style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|1人/<hr>4,021人年*プラセボ群 |align="middle"|9人/<hr>4,006人年 *|-!colspan="2"|Vaccine efficacy Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|88.9%**95%信頼区間 (20.1-99.7)|}
|valign="top"|
''2回目接種14日後以降の重症COVID''
*{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬群 !style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|0人/<hr>14,073人*プラセボ群 |align="middle"|30人/<hr>14,073人 *|-!colspan="2"|Vaccine efficacy 100Efficacy (95%信頼区間)**95|-|colspan="2" align="middle"|100%信頼区間 (算出不能-100)|}
|
|-
!有害事象
|valign="top"|
*ワクチン反応性症状はいずれも実薬群で多い
*その他の重篤有害事象は死亡含めて両群間に明らかな偏りはない
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*ワクチン反応性症状はいずれも実薬群で多い
*その他の重篤有害事象は死亡含めて両群間に明らかな偏りはない
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*重篤有害事象は死亡含めて両群間に明らかな偏りはない
*実薬群2回目接種14日後に発生した横断性脊髄炎1件はワクチンとの関連の可能性がある
一見してわかるとおり,mRNAワクチンであるPfizerワクチンとModernaワクチンは,非常に似通った結果となっています.かつ,2回目接種直後(7日or14日後以降)のCOVID発症予防について,vaccine efficacy, VE は95%前後と極めて優れた結果を示しました.加えて,重症COVIDについても約90%超の VE を示し,少なくとも治験期間中の観察においては,[[#抗体依存性感染増強 ADE が新たに報告される|抗体依存性感染増強 ADE]]の懸念を跳ね返しました.
AstraZenecaワクチンも,投与量が異なる実薬2群で約90%または70または60%と高い VE を示しました.<br>
ただし,投与量が異なっていることについては,かなり複雑な背景があります.詳しくは下記の[[#方法:治験での投与法|「方法:治験での投与法」]]をご参照ください.<br>
また,複数の効果のうち「90%」については,治験担当者自ら疑義を呈している点に留意が必要です.詳しくは下記の[[#結果:効果 vaccine efficacy|「結果:効果 vaccine efficacy」]]をご参照ください.
一言で言えば,「効果が期待できて,重篤または接種をためらう有害事象が観察されないワクチンを,よくぞこの短期間で3種も実用化までこぎつけたものだ」と感嘆するレベルです.
==認可後に報告されたアナフィラキシー==
===米国でのアナフィラキシー===
米国ではPfizer, Moderna両ワクチンの緊急使用認可後に,同国のワクチン接種後有害事象集計システム「[https://vaers.hhs.gov/ VAERS]」を通じてアナフィラキシー様症状が集計され続けています.
それらをCDCが解析した結果,両ワクチンで次のとおりアナフィラキシーが確認されました.{|class="wikitable" style="max-width:600px;"|+米国でのアナフィラキシー報告|-!!style=認可後に米国CDCが発表したPfizerワクチンでのアナフィラキシー反応=="width:40%;"|Pfizerワクチン!!style="width:40%;"|Modernaワクチン|-!発表日|[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7002e1.htm 2021年1月6日]|[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7004e1.htm 2021年1月10日]|-!集計期間|2020年12月14日-23日<br>(10日間)||2020年12月21日-2021年1月10日<br>(21日間)|-!発生件数<br>/接種本数|21例 / 1,893,360本||10例 / 4,041,396本|-!発生件数<br>/100万接種|11.1 / 100万接種||2.5 / 100万接種|-!年齢|中央値40歳,範囲27-60歳||中央値47歳,範囲31-63歳|-!女性割合|21例中19例(90%)||10例全員(100%)|-!接種後経過時間|21例中15例は接種後15分以内に発症<br>中央値13分,範囲2-150分|10例中9例は接種後15分以内に発症<br>中央値7.5分,範囲1-45分|-!アレルギー既往歴|21例中17例はアレルギー既往あり(薬剤6例,造影剤2例,食物1例,ワクチン0例)<br>うち7例はアナフィラキシー既往あり|10例中9例はアレルギー既往あり(薬剤6例,造影剤2例,食物1例,ワクチン0例)<br>うち5例はアナフィラキシー既往あり|-!治療内容|21例中18例がアドレナリン筋注,1例がアドレナリン皮下注により治療開始|10例全員がアドレナリン筋注により治療開始|-!経過|21例中3例がICU入院,1例が一般入院,17例が救急外来のみでの治療|10例中5例がICU入院(うち4例が気管挿管),1例が一般入院,4例が救急外来のみでの治療|-!転帰|報告時点で21例中20例が快復帰宅|報告時点で10例中8例が快復帰宅ここで,治験ではなく,米国での緊急使用認可後の市中接種で初めて報告されたアナフィラキシー反応を見ておきましょう.|}
米国では2020年12月11日(金)にPfizerワクチンの緊急使用認可が出され,週明け14日から全米各地で急速に接種が始まりました.治験参加者よりも遥かに多い人数が短期間で接種を受けたため,アナフィラキシー反応の報告も相次ぎました.===英国でのアナフィラキシー===英国では3ワクチンとも認可されていますが,実際に流通して接種が進んでいるのはPfizerおよびAstraZenecaワクチンの2製剤です.
それを受け,2020年12月14日英国保健当局は2021年2月5日付で[https://www.gov.uk/government/publications/coronavirus-23日の10日間に報告されたアナフィラキシー反応について,米国CDCが2021年1月6日に以下のとおり発表しました.covid-19-vaccine-adverse-reactions/coronavirus-vaccine-summary-of-yellow-card-reporting 両ワクチンの接種後有害事象のレポート]を公開しました.
<div {|class="wikitable" style="fontmax-sizewidth:600px;"|+英国でのアナフィラキシー報告|-!!style="width:1.1em40%;"|Pfizerワクチン!!style="width:40%;">|AstraZenecaワクチン|-!rowspan="2"|発表日|colspan="2" style="text-align:center;"|[https://www.cdcgov.uk/government/publications/coronavirus-covid-19-vaccine-adverse-reactions/coronavirus-vaccine-summary-of-yellow-card-reporting 2021年2月5日]|-|[https://assets.publishing.service.gov.uk/mmwrgovernment/volumesuploads/70system/wruploads/mm7002e1attachment_data/file/958616/COVID-19_mRNA_Pfizer-_BioNTech_Vaccine_Analysis_Print.pdf 2021年2月5日]|[https://assets.htm Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/958615/COVID-19 Vaccine — United States, December 14–23, 202019_AstraZeneca_Vaccine_Analysis_Print. January 6, Early Release, MMWR 70pdf 2021年2月5日]|-!集計期間|colspan="2"|2020年12月8日-2021年1月24日|-!発生件数<br>/div>接種本数|101例(*VAERS(※米国のワクチン接種後有害事象集計システム)に2020) /121回目540万本+2回目50万本<br>(接種本数は推計)||13例 /141回目150万本+2回目ほぼゼロ<br>(接種本数は推計)|-!発生件数<br>/23の間に,Pfizerワクチン接種後のアナフィラキシー反応が,計21例報告された100万接種*この間に同ワクチンは |推計17.1,893,360 本接種された(全員が1回目接種)/ 100万接種||推計8.7 / 100万接種|-!転帰|全員が快復|(※報告中に言及なし)|}:(*アナフィラキシー反応の発生頻度は100万接種当たり11)アナフィラキシーの他にアナフィラキシー様反応も含む::[https://www.ncbi.nlm.1件であるnih.gov/pmc/articles/PMC3209676/ アナフィラキシー様反応(anaphylactoid reaction)とは,IgEを介さず肥満細胞または好塩基球が作用する非アレルギー反応を指し],一般にアナフィラキシーより軽症とされる;101例のうちアナフィラキシー様反応の内訳がどの程度であったか,どのような根拠でアナフィラキシー様反応と判断したかについては言及されていない *21例中15例は接種後15分以内に発生した;時間経過の中央値は13分,範囲は2-150分だった===アナフィラキシーの頻度の解釈===上記のとおり,米国では2021年1月10日までの時点で,アナフィラキシーがPfizerワクチンで100万接種当たり'''11.1'''件,Modernaワクチンで100万接種当たり'''2.5'''件と報告されました.*21例中17例はアレルギーの既往があった;さらにうち7例はアナフィラキシー反応の既往があった*診療録が確認できた20例全員が快復し帰宅できたまた英国では2021年2月5日までの時点で,アナフィラキシー(一部アナフィラキシー様反応を含む)がPfizerワクチンで100万接種当たり'''17.1'''件,AstraZenecaワクチンで100万接種当たり'''8.7'''件(いずれも推計)と報告されました.
同じ米国での不活化インフルエンザワクチンによるアナフィラキシー反応は,米国CDCの報告によると100万接種当たり1米国での不活化インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーは,米国CDCの報告によると100万接種当たり'''1.41件とされています.41'''件とされています.:{{Quote|content=[https://www.cdc.gov/flu/prevent/egg-allergies.htm Flu Vaccine and People with Egg Allergies]したがって,見かけの数字としてはPfizerワクチンは不活化インフルエンザワクチンよりアナフィラキシー反応を起こしやすい可能性があります.}}下記の研究では米国のワクチン全般でアナフィラキシーは100接種当たり'''1.31'''(95%信頼区間0.90-1.84)でした.{{Quote|content=[https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(15)01160-4/abstract McNeil M, Weintraub E, Duffy J et al. Risk of anaphylaxis after vaccination in children and adults. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2016;137(3):868-878. doi:10.1016/j.jaci.2015.07.048]}}
ただし,Pfizerワクチンは新登場のワクチンであるため,接種担当者が他のワクチンよりも注意深く観察したりより多くVAERSに報告している可能性が否定できません.したがって,見かけの数字としては3ワクチンとも,他のワクチンよりもアナフィラキシーを起こしやすい可能性があります.ただし,いずれも新登場のワクチンであるため,接種担当者が他のワクチンよりも注意深く観察したり,より多く報告している可能性が否定できません.
また,「たかだか180万件程度」の実績から判断しているため,今後1,000万件や1億件接種されれば,アナフィラキシーの報告数が変動する可能性も残されています.もちろん,11.1/100万よりも大きな数字になるかもしれません.また,「たかだか数100万件程度」の実績から判断しているため,今後数千万件や数億件接種されれば,アナフィラキシーの報告数が変動する可能性も残されています.もちろん,上記報告よりも大きな数字になるかもしれません.
アナフィラキシー反応の発生頻度については,引き続き注意深く情報収集する必要があります.アナフィラキシーの発生頻度については,引き続き注意深く情報収集する必要があります.
なお,アナフィラキシー反応はワクチンに限らずありとあらゆる薬剤投与で付きまとう副作用です.すべての医師・医療職が,常にいかなる薬剤においてもアナフィラキシーに備えているべきです.なお,アナフィラキシーはワクチンに限らずありとあらゆる薬剤投与で付きまとう副作用です.すべての医師・医療職が,常にいかなる薬剤においてもアナフィラキシーに備えているべきです.
:ちなみに私は研修医時代に,ナウゼリン座薬を処方した患者が診察室脇のトイレですぐに挿肛した途端にアナフィラキシーショックを起こされた経験があります.
今回の3ワクチンだけで過度にアナフィラキシーをおそれるのは控えるべきでしょう.参考までに,米国で1995年-2013年の18年間に報告された薬剤性アナフィラキシー19,836人(患者175万人中)の内訳をお示しします.{{Quote|content=[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6311439/ Dhopeshwarkar N, Sheikh A, Doan R et al. Drug-Induced Anaphylaxis Documented in Electronic Health Records. The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice. 2019;7(1):103-111. doi:10.1016/j.jaip.2018.06.010]}}{|class="wikitable"|-!colspan="2" style="width:11em;"|薬剤!style="width:9em;"|100万患者当たり<br>発生率(*)|-!rowspan="5" style="width:1em;"|{{V|抗菌薬}}!ペニシリン|align="right"|4590|-!スルフォンアミド|align="right"|1510|-!セファロスポリン|align="right"|610|-!マクロライド|align="right"|380|-!キノロン|align="right"|370|-!colspan="2"|NSAIDs|align="right"|1300|-!colspan="2"|オピオイド|align="right"|980|}{|class="wikitable"|-!style="width:11em;"|Pfizerワクチン|align="right" style="width:9em;"|米国 11.1<br>英国 17.1|-!Modernaワクチン|align="right"|米国 2.5|-!AstraZenecaワクチン|align="right"|英国 8.7|}:(*)原著では1万患者当たり発生率で記載;サイト管理者による換算標記 ご覧のとおり,3ワクチンよりも日常的な薬剤の方が遙かにアナフィラキシー頻度が高いことがわかります. 新型コロナワクチンで過度にアナフィラキシーをおそれるのは控えるべきでしょう.<br>もちろん,新型コロナワクチンに限らず,'''ワクチン接種時にはアナフィラキシーに備えた薬剤・医療機器の準備と緊急対応訓練を重ねるべき'''であることは,言うまでもありません. [[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]] ==変異株に対する効果==英国,南アフリカ共和国,ブラジルを中心に,新型コロナウイルスの変異株の報告が相次いでいます. いずれも感染性が強くなっている(実行再生産数を数10%以上高くする)ことが示唆され,警戒が必要です.
==3ワクチン論文からわかること,わからないこと=国立感染症研究所による変異株のリスクアセスメント===国立感染症研究所は日本におけるリスクアセスメント等を随時更新しています.*[https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10144-covid19-34.html 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第5報)  2021年1月25日] ===英国政府による変異株情報のポータル===英国政府サイト「GOV.UK」に変異株のポータルページがあり,情報を一元化して提供しています.*[https://www.gov.uk/government/collections/new-sars-cov-2-variant GOV.UK|Collection - New COVID-19 (SARS-CoV-2) variants]同じく GOV.UK に Scientific Advisory Group for Emergencies(SAGE)のページがあり,変異株についても最新情報を更新しています.*[https://www.gov.uk/government/organisations/scientific-advisory-group-for-emergencies Scientific Advisory Group for Emergencies] ===3ワクチンの変異株に対する効果===3ワクチンが変異株にも有効なのか否か,残念ながら true endpoint での評価,すなわち「実薬群とプラセボ群(または認可後の接種者と非接種者)を比較したところ,実薬群(接種者)の方が変異株への感染が少ない」という評価はまだ得られていません. 今のところは,PfizerワクチンとModernaワクチンについて下記のとおり ''in vitro'' の実験が行われているのみです. {|class="wikitable" style="min-width:600px;"|-!!style="width:30%"|Pfizerワクチン!style="width:30%"|Modernaワクチン!style="width:30%"|AstraZenecaワクチン|-!発表|[https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/vitro-studies-demonstrate-pfizer-and-biontech-covid-19 2021年1月27日]|[https://investors.modernatx.com/news-releases/news-release-details/moderna-covid-19-vaccine-retains-neutralizing-activity-against 2021年1月25日]|[https://www.astrazeneca.com/media-centre/articles/2021/covid-19-vaccine-astrazeneca-receives-interim-recommendations-for-use-by-world-health-organization-experts.html 2021年2月10日]|-!概要|style="vertical-align:top;"|*Pfizerワクチン接種者 20名 の血清を用いて,変異株に対する中和反応を検証した*以下の変異を有するSARS-CoV-2をそれぞれ人工的に作成し検証に用いた**英国および南ア変異株に共通する変異(N501Y)**英国変異株の変異(Δ69/70+N501Y+D614G)**南ア変異株の変異(E484K+N501Y+D614G)*20名の血清はすべて,上記3種の人工合成SARS-CoV-2のいずれに対しても中和反応を示し,Pfizerワクチンの変異株に対する有効性が示唆された*南ア変異株の変異に対する中和反応は他の変異に比べるとわずかに弱かったが,ワクチンの効果 vaccine efficacy を有意に減弱させるような差異ではないと判断した|style="vertical-align:top;"|*Modernaワクチン接種者(phase 1参加者) 8名 の血清およびModernaワクチンを接種したサルの血清を用いて,変異株に対する中和抗体価を測定した*以下のSARS-CoV-2変異株を検証に用いた**英国変異株 系統 B.1.1.7**南ア変異株 系統 B.1.351*B.1.1.7変異に対する中和抗体価は充分に高く,過去の変異株に対する中和抗体価と同等であることがわかった*B.1.351変異に対する中和抗体価は過去の変異株に対する中和抗体価の6分の1まで低下していることがわかった*B.1.351変異に対してModernaワクチンは効果が減弱する可能性がある|style="vertical-align:top;"|(変異株が報告されている英国および南アにおいてもAstraZenecaワクチンの接種が推奨されると,WHOのSAGE(予防接種の諮問委員会)が発表したことをリリースしているのみ;''in vitro''検証については言及なし)|-!論文|style="vertical-align:top;"|*[https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.07.425740v1.full Neutralization of N501Y mutant SARS-CoV-2 by BNT162b2 vaccine-elicited sera](※査読前)*[https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.18.426984v1.full Neutralization of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 pseudovirus by BNT162b2 vaccine-elicited human sera](※査読前)*[https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.01.19.21249840v2.full SARS-CoV-2 B.1.1.7 escape from mRNA vaccine-elicited neutralizing antibodies](※査読前)|style="vertical-align:top;"|*[https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.01.19.21249840v2.full mRNA vaccine-elicited antibodies to SARS-CoV-2 and circulating variants](※査読前)*[https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.25.427948v1.full mRNA-1273 vaccine induces neutralizing antibodies against spike mutants from global SARS-CoV-2 variants](※査読前)|} 上述のとおり,現時点では ''in vitro'' の結果しか得られていません. しかしどんなに悪い方向に考えても,「接種済み者が変異株に感染すると,未接種者よりも悪化する」ということは示唆されません.<br>最も悪いシナリオで,「3ワクチンは変異株に対する予防効果がない」というレベルでしょう.<br>現実には,たとえ効果が減弱するとしても,全く効果がないということにはならないと思われます. すると,たとえ変異株に対してでも「接種を控えるべき理由はない」ということは明確に言えます.<br>「あまり効かないかもしれない」ということは,「少しは効くはず」だからです. 減弱した効果でも「効果がある」ならば,接種しない理由はないと言えます. 変異株とワクチンについては下記の記事にもよくまとめられています.{{Quote|content=[https://asm.org/Articles/2021/February/SARS-CoV-2-Variants-vs-Vaccines Hagen A. SARS-CoV-2 Variants vs. Vaccines. ASM.org. https://asm.org/Articles/2021/February/SARS-CoV-2-Variants-vs-Vaccines. Published February 5, 2021. Accessed February 12, 2021.]  [[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]] ==今わかっていること,まだわからないこと==3ワクチン論文から効果と有害事象を,さらに認可後の各種報告からアナフィラキシー頻度等を,それぞれ読み取ることができます. 3ワクチン論文から効果と有害事象を読み取ることができますが,論文から「わかること」と「わからないこと」を改めて整理すると,下記のとおりです.「今わかっていること」と「まだわからないこと」を改めて整理すると,下記のとおりです.
判明した結果ばかりに目を奪われず,「まだわからないこと」をしっかり認識することが重要です.
===論文からわかること===
*PfizerとModernaのmRNAワクチンでは,2回目接種の7日or14日後以降の時点で,COVIDの発症(症状が出てから検査・診断されるCOVID)が,約95%の VE で予防できる.
*AstraZenecaのウイルスベクターワクチンでは,2回目接種の14日後以降の時点で,COVIDの発症,約70AstraZenecaのウイルスベクターワクチンでは,2回目接種の14日後以降の時点で,COVIDの発症,約60-90%の VE で予防できる.
*3ワクチンともに,ワクチンとして当然予想される接種部位疼痛や発熱などの反応性症状はプラセボよりも多く観察されたが,明らかにワクチンが原因と思われる重篤な有害事象は治験期間中には観察されなかった.
 ====CDC報告からわかること=認可後の各種報告からわかること===*Pfizerワクチンは180万件接種された時点で,100万接種当たり11.1件のアナフィラキシー反応が生じた1-17.0件のアナフィラキシーが生じた*Modernaワクチンは400万件接種された時点で,100万接種当たり2.5件のアナフィラキシーが生じた*AstraZenecaワクチンは150万件接種された時点で,100万接種当たり8.7件のアナフィラキシーが生じた
===まだわからないこと===
*治験参加人数(約1万~4万人)と観察期間の範囲では検出できなかった稀な重篤有害事象が今後報告されるのか,まだわからない.
*治験参加人数と観察期間の範囲では検出できなかった[[#抗体依存性感染増強 ADE が新たに報告される|抗体依存性感染増強 ADE]] が今後報告されるのか,まだわからない.
*変異株に対してPfizerワクチンとModernaワクチンでは ''in vitro'' での中和反応は小規模に検証されているが,3ワクチンとも実際の接種者での変異株感染の有無を検証できてはおらず,3ワクチンの変異株に対する真の効果は,まだわからない.
===2021年1月10日時点ではっきり言えること2021年2月時点ではっきり言えること===
以上を踏まえて,現時点で下記のことははっきり言えるでしょう.
|content=
<div style="font-size:1.2em;>
*3ワクチンとも,'''16 or 18歳以上の成人が接種することで,7018歳以上の成人が接種することで,60-95% の VE (“割引率”)でCOVIDの発症を予防することができる'''
**そのため,'''COVID発症による社会への影響が特に大きい職種の人々'''と,'''COVID発症で重症化や死亡のリスクが特に高い人々'''が,優先的に接種するのが望ましい
*3ワクチンとも,'''接種を大いにためらうような重篤な有害事象は今のところ明らかではない'''
</div>
}}
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==3ワクチンが普及する場合に想定されるシナリオ==
すでに英国を中心に感染力が増強した変異株が世界の50地域以上で発見されています.
国立感染症研究所は日本におけるリスクアセスメント等を随時更新しています.*現在発見されている変異株に対する3ワクチンの効果については,別項「[https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10090-covid19-30.html 感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について (第4報)  2021年1月2日]*[https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10107-covid19-33.html ブラジルからの帰国者から検出された新型コロナウイルスの新規変異株について 2021年1月10日#変異株に対する効果現時点では,ワクチンの効果が減弱するようなエビデンスは見つかっていませんが,「エビデンスが見つかっていない状態」であることに留意する必要があります.True endpointとしての効果確認,すなわち「変異株が集中的に流行する人口集団においても3ワクチン接種者はプラセボ(未接種者)に比べてCOVID感染が減少した」ということは確認されていません.時間経過を考えれば当然のことです. なお,Pfizer/BiONTech社は,下記のような in vitro 実験を行った旨を1月8日付のプレスリリースで発表しています.:[https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/vitro-study-shows-pfizer-biontech-covid-19-vaccine-elicits An In Vitro Study Shows Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine Elicits Antibodies that Neutralize SARS-CoV-2 with a Mutation Associated with Rapid Transmission. January 08, 2021 - 12:00am]*英国発の変異 N501Y を持つ SARS-CoV-2 を人工合成*治験phase 3の実薬群の参加者20人の血清を用いて変異ウイルスの中和反応を確認*20人の血清はいずれも変異ウイルスおよび変異なしウイルスの双方を中和した」をご参照ください.
上記実験を好意的に解釈するならば,少なくともPfizerワクチンはN501Y変異株には効く「はず」と言えますが,本当の効果は上述のとおり実際の感染阻止で判断されねばならないので,引き続き注意深く情報収集する必要があります. 少なくとも,「変異株に効かない可能性に留意はしつつも,それでも今接種を控えるべき理由は何もない」ということは明確に言えます.将来発見される変異株に対して3ワクチンのいずれも効果が減弱してしまう可能性は,常に残されています.
====重篤有害事象が新たに報告される====
ネココロナウイルスのうち,ネコ感染性腹膜炎ウイルス(FIPV)というコロナウイルスはその名のとおりネコに重篤な感染性腹膜炎を起こしますが,これがADEによるものであることがわかっています.
{{Quote
|content=[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6612493/ TakanoT, Tomomi, Shinji YamadaS, Tomoyoshi DokiT, and Tsutomu HohdatsuT. “Pathogenesis Pathogenesis of Oral Type oral type I Feline Infectious Peritonitis Virus feline infectious peritonitis virus (FIPV) Infectioninfection: Antibody-Dependent Enhancement Infection dependent enhancement infection of Cats cats with Type type I FIPV via the Oral Routeoral route.”Journal Journal of Veterinary Medical Science . 2019;81, no. (6 (April 23, 2019): 911–15911-915. httpsdoi://doi.org/10.1292/jvms.18-0702.]
}}
ただし,2003年に世界でアウトブレイクを起こしたSARSウイルスでは,ワクチンの開発段階で「開発中のSARSワクチンを接種したサルにおいて,T細胞レベルでの理論的なADEの可能性」が報告されました.
{{Quote
|content=[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X05000861?via%3Dihub Zhou J, Wang W, Zhong Q, Hou W, Yang Z, Xiao SY, Zhu R, Tang Z, Wang Y, Xian Q, Tang H, Wen Let al. Immunogenicity, safety, and protective efficacy of an inactivated SARS-associated coronavirus vaccine in rhesus monkeys. Vaccine. 2005 May 2;23(24):3202-93209. doi: 10.1016/j.vaccine.2004.11.075. PMID: 15837221; PMCID: PMC7115379.]
}}
しかし,あくまで治験では検出されなかっただけです.今後数100万人,数億人と接種した場合に,ADEが後から発見される可能性がまだ残されています.
実際にワクチン開発において,治験では重症化が減少することが観察されたにもかかわらず,市販後の検証でADEの可能性が考えられた事案がありました.<br>
デングウイルスに対するワクチン「Dengvaxia」の事案でした.
<hr>
=====デングウイルスワクチン「Dengvaxia」の悲劇=====
デングウイルスは以前からヒトにADEを起こすことが知られています.
今回の3ワクチンと状況は似ています.
しかし,翌2015年に発表された下記の治験後長期観察では,接種から3年以内のデング感染による入院は,9歳以上の小児および成人ではプラセボに比して相対リスクが しかし,翌2015年に発表された下記の治験後長期観察において,不安な結果が報告されました.<br>接種から3年以内のデング感染による入院(※重症化を示唆する指標)を観察したところ,9歳以上の小児および成人ではプラセボに比して入院の相対リスクが 0.50 (95%CI 0.29-0.86) と有意に減少しましたが,9歳未満の小児については相対リスクは と有意に減少しましたが,9歳未満の小児については入院の相対リスクは 1.58 と「実薬群の方がデング入院が多くなる」という結果となりました.ただし95と上昇しており,「実薬群の方がデング入院が多くなる」という結果となりました.ただし95%信頼区間は 0.83-3.02 と1をまたいだため,統計学的な有意差は認められませんでした.
{{Quote
|content=
}}
「9歳未満小児で実薬群の方がデングによる入院が増えたが統計学的有意差はなかった」という微妙な結果に対して,掲載誌の 「9歳未満小児で実薬群の方がデングによる入院が増えたが,統計学的有意差はなかった」という微妙な結果に対して,掲載誌の New England Journal of Medicine は掲載号のエディトリアルで警告を発しています.
{{Quote
|content=
その後6ヶ月超の間に83万人あまりの小児が Dengvaxia 接種を受けた頃,2017年11月末に製造元の Sanofi Pasteur が重大な発表を行いました.
:{{Quote|content=[https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2017/2017-11-29-17-36-30 Bollack L. Sanofi updates information on dengue vaccine. Press Sanofi. https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2017/2017-11-29-17-36-30. Published November 29 , 2017. Accessed January 20, 2021. ]Dengvaxia }} Sanofi Pasteurのプレスリリースによると,Dengvaxia のさらなる長期成績を解析したところ,
*Dengvaxia接種前に既に1回以上のデング感染歴があった者では,Dengvaxia は2回目以降のデング感染も重症デングも予防する
*Dengvaxia接種前にデング感染既往がなかった者では,Dengvaxia 接種後の初めてのデング感染によって,逆に重症デングが増加する
という結果が明らかとなったのです.という結果が明らかとなったというのです.
そして Sanofi Pasteur は Dengvaxia の添付文書を「接種対象者はデング感染既往がある者に限る」と改訂したのでした.
Sanofi Pasteur の発表を受けて,フィリピン保健省は2017年12月に Dengvaxia 接種を直ちに中止しました.
<hr>
これが史上初のデングウイルスワクチンが辿った悲劇です.悲劇はデングワクチンだけに留まらず,フィリピン全土での“反ワクチン忌避”にまでつながりました(後述).これが史上初のデングウイルスワクチンが辿った悲劇です.悲劇はデングワクチンだけに留まらず,フィリピン全土での“反ワクチン忌避”にまでつながりました([[#Dengvaxia中止がもたらした大規模なワクチン忌避と麻疹死亡増加|後述]]).
今回の3ワクチンでも,数年後に同様の事態が起きる可能性はまだ残されていると言わざるを得ません.
ただし,仮に新型コロナワクチンで1-数年後にADEが報告されたとしても,統計学的な検証で初めて発見されるはずです.治験phase ただし,仮に新型コロナワクチンで数年後にADEが報告されたとしても,統計学的な検証で初めて発見されるはずです.治験phase 3で重症COVIDに対する VE が88%超という高い成績を示したわけですから,「ワクチン接種者が短期間に次から次へと重症COVIDを発症していく」のようなシナリオはほぼあり得ないでしょう.それでも,1-数年後に重症COVID患者に対するワクチン接種という曝露の有無について症例対照研究を行うと,ひょっとしたら統計学的にはワクチン接種者の方が重症化のオッズ比が有意に高くなるかもしれません.Dengvaxiaと同じ道を辿る可能性はまだあるのです.超という高い成績を示したわけですから,「ワクチン接種者が短期間に次から次へと重症COVIDを発症していく」のようなシナリオはほぼあり得ないでしょう.それでも,数年後に重症COVID患者に対するワクチン接種という曝露の有無について症例対照研究を行うと,ひょっとしたら統計学的にはワクチン接種者の方が重症化のオッズ比が有意に高くなるかもしれません.Dengvaxiaと同じ道を辿る可能性はまだあるのです.
もちろん,そのようにして発見されるADEならば,頻度は相当に低いはずです.であれば,「この重症COVID患者はワクチン接種が原因だ」などと断定することはまず困難でしょう.
<div class="toccolours" style="background-color:lightgoldenrodyellow;">
 
=====Dengvaxia中止がもたらした大規模なワクチン忌避と麻疹死亡増加=====
Dengvaxiaの中止はフィリピンで大変な問題となり,市民,特に小児の保護者のワクチン忌避を引き起こしました.
====重篤有害事象やADEの報告がきっかけでワクチン忌避が起きる====
重篤有害事象であれADEであれ,個人の選択としてはそれらの低いリスクよりもCOVIDに感染する高めのリスクにこそ目を向けて,積極的に接種を受けるべきでしょう.未知の重篤有害事象であれADEであれ,確率でいえば100万接種当たり数件程度,要は数万分の1以下と予想されます.感染拡大を続ける日本で暮らしてコロナに感染する確率は数万分の1よりはずっとずっとずっと大きいはずです.よって個人の選択としては,未知の重篤有害事象等の低いリスクよりもCOVIDに感染する高めのリスクにこそ目を向けて,積極的に接種を受けるべきでしょう.
一方で,それらが広く社会にもたらす影響も忘れてはいけません.
感染予防策をしなくてもよくなるのは,日本が,世界が,完全にコロナをコントロールし切った後なのです.<br>
決して,ワクチンを打った後ではないのです.
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==3ワクチン普及への現実のハードル==
これを乗り越えるには,行政や医療職が丁寧に説明を続けて市民の理解を得られ続けるよう努力するしかありません.
 
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==日本でのコロナワクチン接種体制について==
(under construction ごめんなさい💦)
===政府機関サイト===
{|class="wikitable"
|-
!style="text-align:left;"|厚生労働省
|-
|
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html 新型コロナワクチンについて]<br>
├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html 接種についてのお知らせ]<br>
│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_iryoujuujisha.html 医療従事者等への接種について]<br>
├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_yuukousei_anzensei.html 新型コロナワクチンの有効性・安全性について]<br>
│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html 新型コロナワクチンの副反応疑い報告について]<br>
├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00222.html Q&A]<br>
├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00223.html 開発状況について]<br>
├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html#h2_free7 自治体・医療機関・その他関係機関向けのお知らせ]<br>
│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_notifications.html 自治体向け通知・事務連絡等]<br>
│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_iryoukikanheno_oshirase.html 医療機関向けのお知らせ]<br>
│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00225.html その他関係機関向けのお知らせ]<br>
├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html#h2_free8 新型コロナワクチンの予診票・説明書・情報提供資材]<br>
├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_shingikaietc.html 審議会・検討会等]<br>
└ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html#h2_free11 その他(報道発表、接種実績等)]
|-
|[https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji_127852.html 薬事・食品衛生審議会(医薬品第二部会)]
:※新型コロナワクチンの承認(特例承認)を審査する厚生労働大臣諮問機関
|-
!style="text-align:left;"|首相官邸
|-
|[https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html 新型コロナワクチンについて]
|}
[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html 厚生労働省|新型コロナウイルス感染症のワクチンについて]
===改正予防接種法における扱い===
令和2(2020)年12月9日に予防接種法が改正・公布され,即日施行されました([https://kanpou.npb.go.jp/old/20201209/20201209g00256/20201209g002560012f.html 令和2年法律第75号]).
 
さらに,2021年2月14日にPfizerワクチン[https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/navi.html 「コミナティ筋注」が特例承認された]ことを踏まえ,令和3(2021)年2月16日に予防接種法施行令(政令)および予防接種法施行規則(症例)が改正・公布され,即日施行されました([https://kanpou.npb.go.jp/20210216/20210216t00014/20210216t000140001f.html 令和3年政令第31号および厚生労働省令第34号]).
 
これらの改正および法解釈の要点は下記のとおりです.
{{Quote|content=
<div style="font-size:1.2em;">
*新型コロナワクチンは予防接種法に基づく「'''臨時接種'''」として,'''市町村の事業'''として実施される.
*すべての費用を'''国が負担'''する.
*臨時接種の対象者には「まん延防止のために接種を受ける'''努力義務'''」があるが,'''妊婦は努力義務から除外'''されている.
*'''努力義務には罰則がない'''ため,接種を受けるか否かは'''実質的に個人の判断に任されている'''.
*重篤有害事象により死亡または障害が残った場合は,'''予防接種法に基づく救済措置'''(医療費,手当,年金等の給付)が行われる.
*2021年2月現在,臨時接種に使用するワクチンはPfizerの'''コミナティ筋注'''のみである.
</div>
}}
詳しくは次節の詳細をご覧ください.
 
====改正予防接種法,同施行令,同施行規則の詳細====
[https://kanpou.npb.go.jp/old/20201209/20201209g00256/20201209g002560012f.html 官報に掲載された改正内容]に従い,新型コロナワクチンに限定して[https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000068 改正前の予防接種法(2021年2月17日閲覧)]を読み替えると,下表のようになります.
 
<u>下線</u>は改正または新設された条文,'''太字'''は改正による読み替えです.なお,冗長かつ読み替えに支障がない文言は一部明示的に省略しています.
 
{|class="wikitable mw-collapsible mw-collapsed" style="min-width:500px;"
|+<div style="background-color:lavender;">改正予防接種法の読み替え</div>
|-
!style="width:7em;"|条文
!style="width:40%;"|改正後
!style="width:40%;"|改正前
|-
!第6条<br>(臨時に行う予防接種)
|1 '''厚生労働大臣'''は、'''新型コロナウイルス感染症'''のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間'''及び使用するワクチン(中略)'''を指定して、'''都道府県知事を通じて市町村長に対し、'''臨時に予防接種を'''行うよう'''指示することができる。
 
(2・3省略)
|style="vertical-align:top;"|1 都道府県知事は、A類疾病及びB類疾病のうち厚生労働大臣が定めるもののまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間を指定して、臨時に予防接種を行い、又は市町村長に行うよう指示することができる。
 
(2・3省略)
|-
!第8条<br>(予防接種の勧奨)
|1 市町村長又は都道府県知事は、(中略)第6条第1項若しくは第3項の規定による予防接種の対象者に対し、(中略)臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。
 
2 市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に(中略)臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。
 
'''(上記の規定は)新型コロナウイルス感染症のまん延の状況並びに当該感染症に係る予防接種の有効性及び安全性に関する情報その他の情報を踏まえ、政令で、当該規定ごとに対象者を指定して適用しないこととすることができる。'''(改正 附則第7条第4項)
|style="vertical-align:top;"|1 市町村長又は都道府県知事は、(中略)第6条第1項若しくは第3項の規定による予防接種の対象者に対し、(中略)臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。
 
2 市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に(中略)臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。
|-
!第9条<br>(予防接種を受ける努力義務)
|1 (中略)第6条第1項の規定による予防接種の対象者は、(中略)臨時の予防接種(中略)を受けるよう努めなければならない。
 
2 前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者は、その者に(中略)臨時の予防接種(中略)を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
 
'''(上記の規定は)新型コロナウイルス感染症のまん延の状況並びに当該感染症に係る予防接種の有効性及び安全性に関する情報その他の情報を踏まえ、政令で、当該規定ごとに対象者を指定して適用しないこととすることができる。'''(改正 附則第7条第4項)
|style="vertical-align:top;"|1 (中略)第6条第1項の規定による予防接種の対象者は、(中略)臨時の予防接種(中略)を受けるよう努めなければならない。
 
2 前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者は、その者に(中略)臨時の予防接種(中略)を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
|-
!第13条<br>(定期の予防接種等の適正な実施のための措置)
|(1~3省略)
 
4 厚生労働大臣は、定期の予防接種等の適正な実施のため必要があると認めるときは、地方公共団体、病院又は診療所の開設者、医師、ワクチン製造販売業者(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(中略)第12条第1項の医薬品の製造販売業の許可を受けた者であって、ワクチンの製造販売(中略)について、同法第14条の承認を受けているもの(中略)'''又は同法第19条の2第1項の承認を受けているもの(当該承認を受けようとするものを含む。)が同条第3項の規定により選任したもの'''をいう。第23条第5項において同じ。)、定期の予防接種等を受けた者又はその保護者その他の関係者に対して前項の規定による調査を実施するため必要な協力を求めることができる。
|style="vertical-align:top;"|(1~3省略)
 
4 厚生労働大臣は、定期の予防接種等の適正な実施のため必要があると認めるときは、地方公共団体、病院又は診療所の開設者、医師、ワクチン製造販売業者(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(中略)第12条第1項の医薬品の製造販売業の許可を受けた者であって、ワクチンの製造販売(中略)について、同法第14条の承認を受けているもの(中略)をいう。第23条第5項において同じ。)、定期の予防接種等を受けた者又はその保護者その他の関係者に対して前項の規定による調査を実施するため必要な協力を求めることができる。
|-
!第16条<br>(給付の範囲)
|style="vertical-align:top;"|1 '''新型コロナウイルス感染症'''に係る臨時の予防接種を受けたことによる疾病、障害又は死亡について行う前条第1項の規定による給付は、次の各号に掲げるとおりとし、それぞれ当該各号に定める者に対して行う。<br>
一 医療費及び医療手当 予防接種を受けたことによる疾病について医療を受ける者<br>
二 障害児養育年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳未満の者を養育する者<br>
三 障害年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳以上の者<br>
四 死亡一時金 予防接種を受けたことにより死亡した者の政令で定める遺族<br>
五 葬祭料 予防接種を受けたことにより死亡した者の葬祭を行う者
|style="vertical-align:top;"|1 A類疾病に係る定期の予防接種等又はB類疾病に係る臨時の予防接種を受けたことによる疾病、障害又は死亡について行う前条第1項の規定による給付は、次の各号に掲げるとおりとし、それぞれ当該各号に定める者に対して行う。<br>
一 医療費及び医療手当 予防接種を受けたことによる疾病について医療を受ける者<br>
二 障害児養育年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳未満の者を養育する者<br>
三 障害年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳以上の者<br>
四 死亡一時金 予防接種を受けたことにより死亡した者の政令で定める遺族<br>
五 葬祭料 予防接種を受けたことにより死亡した者の葬祭を行う者
|-
!第25条<br>(予防接種等に要する費用の支弁)
|style="vertical-align:top;"|1 この法律の定めるところにより予防接種を行うために要する費用は、'''市町村'''の支弁とする。'''市町村が支弁する費用は、国が負担する。'''
 
2 給付に要する費用は、市町村の支弁とする。
|style="vertical-align:top;"|1 この法律の定めるところにより予防接種を行うために要する費用は、市町村(第六条第一項の規定による予防接種については、都道府県又は市町村)の支弁とする。
 
2 給付に要する費用は、市町村の支弁とする。
|-
!第29条<br>(事務の区分)
|1 第6条<u>及び附則第7条第1項</u>の規定により都道府県が処理することとされている事務並びに<u>第6条第1項</u>及び第3項、第15条第1項<u>(附則第7条第2項の規定により適用する場合を含む。)、第18条(附則第7条第2項の規定により適用する場合を含む。)、第19条第1項(附則第7条第2項の規定により適用する場合を含む。)並びに附則第7条第1項</u>の規定により市町村が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務とする。
|style="vertical-align:top;"|1 第6条の規定により都道府県が処理することとされている事務並びに同条第1項及び第3項、第15条第1項、第18条並びに第19条第1項の規定により市町村が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務とする。
|-
!附則第7条<br>(新型コロナウイルス感染症に係る予防接種に関する特例)
|<u>1 厚生労働大臣は、新型コロナウイルス感染症(中略)のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者、その期日又は期間及び使用するワクチン(その有効性及び安全性に関する情報その他の情報に鑑み、厚生労働省令で定めるものに限る。)を指定して、都道府県知事を通じて市町村長に対し、臨時に予防接種を行うよう指示することができる。この場合において、都道府県知事は、当該都道府県の区域内で円滑に当該予防接種が行われるよう、当該市町村長に対し、必要な協力をするものとする。
 
2 前項の規定による予防接種は、第6条第1項の規定による予防接種とみなして、この法律(第26条及び第27条を除く。)の規定を適用する。この場合において、第13条第4項中「含む。)」とあるのは「含む。)又は同法第19条の2第1項の承認を受けているもの(当該承認を受けようとするものを含む。)が同条第3項の規定により選任したもの」と、第16条第1項中「A類疾病に係る定期の予防接種等又はB類疾病」とあるのは「新型コロナウイルス感染症(中略)」と、第25条第1項中「市町村(第6条第1項の規定による予防接種については、都道府県又は市町村)」とあるのは「市町村」とする。
 
3 前項の規定により読み替えて適用する第25条の規定により市町村が支弁する費用は、国が負担する。
 
4 第1項の規定による予防接種については、第2項の規定により適用する第8条又は第9条の規定は、新型コロナウイルス感染症のまん延の状況並びに当該感染症に係る予防接種の有効性及び安全性に関する情報その他の情報を踏まえ、政令で、当該規定ごとに対象者を指定して適用しないこととすることができる。
 
5 厚生労働大臣は、次に掲げる場合には、あらかじめ、厚生科学審議会の意見を聴かなければならない。<br>
一 第1項の厚生労働省令を制定し、又は改廃しようとするとき。<br>
二 第1項の規定による指示をしようとするとき。<br>
三 前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするとき。</u>
|style="text-align:center; vertical-align:middle;"|(新設)
|-
!附則第8条<br>(損失補償契約)
|<u>1 政府は、厚生労働大臣が新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの供給に関する契約を締結する当該感染症に係るワクチン製造販売業者(前条第2項の規定により読み替えて適用する第13条第4項に規定するワクチン製造販売業者をいう。)又はそれ以外の当該感染症に係るワクチンの開発若しくは製造に関係する者を相手方として、当該契約に係るワクチンを使用する予防接種による健康被害に係る損害を賠償することにより生ずる損失その他当該契約に係るワクチンの性質等を踏まえ国が補償することが必要な損失を政府が補償することを約する契約を締結することができる。</u>
|style="text-align:center; vertical-align:middle;"|(新設)
|}
 
{|class="wikitable mw-collapsible mw-collapsed" style="min-width:500px;"
|+<div style="background-color:lavender;">改正予防接種施行令(政令)および同施行規則(省令)</div>
|-
!style="width:9em;"|予防接種法施行令<br>附則<br>(新型コロナウイルス感染症に係る予防接種に関する特例)
|6 法附則第7条第2項の規定により適用する法第9条第1項の規定は、妊娠中の者に対しては、適用しない。
 
7 法附則第7条第2項の規定により適用する法第9条第2項の規定は、前項に規定する者の保護者に対しては、適用しない。
|-
!予防接種法施行規則<br>附則
|法附則第7条第1項に規定する厚生労働省令で定めるワクチンは、コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)とする。
|}
===日本政府による調達計画===
|-
!年齢
|valign="top"|
*16-89歳(中央値52歳)
*55歳以上が42.3%
|valign="top"|
*18-95歳(平均値51.4歳)
*65歳以上が24.8%
|valign="top"|
*18歳以上
**最高齢,平均,中央値記載なし
|-
!背景
|valign="top"|
*基礎疾患ありが20.9%
**HIV,B型肝炎,C型肝炎の各感染者を含む
*女性が48.9%
*白人が82.9%
など|valign="top"|
*重症化リスクありが22.5%
*女性が47.4%
*白人が79.5%
*登録時スクリーニングでCOVID-19既感染が2.2%
など|valign="top"|
*基礎疾患ありが約10%
*女性が約40%
*白人が約85%
*医療従事者が約80%
※4つの異質な治験の統合のためサイト管理者による概算値など<br>※4つの異質な治験の統合のため,サイト管理者による概算値
|-
!除外基準
|valign="top"|
*妊婦は除外
*COVID-19既感染は除外
*免疫抑制状態は除外
|valign="top"|
*妊婦は除外
*HIV,B型肝炎,C型肝炎の各感染者は除外
|valign="top"|
論文中には除外基準の明記なし
|-
!対象人数
|valign="top"|
Per protocol解析対象:
*実薬群 18,198人
*プラセボ群 18,325人
|valign="top"|
Per protocol解析対象:
*実薬群 14,134人
*プラセボ群 14,037人
|valign="top"|
効果の解析対象:
*実薬群 5,807人
|-
!実薬
|valign="top"|*含有量 30μg/0.3mL|valign="top"|*含有量 100μg/0.5mL|valign="top"|
ベクターウイルス量
*低用量LD 2.2×10<sup>10</sup>
|-
!プラセボ
|valign="top"|*生理食塩水|valign="top"|*生理食塩水|valign="top"|
*効果解析対象のCOV002, 003では髄膜炎菌ワクチンACWY
*安全性解析対象のCOV001, 002, 003では髄膜炎菌ACWY,COV005では生理食塩水
|-
!接種スケジュール
|valign="top"|2回接種;21日間隔*2回接種*21日間隔|valign="top"|2回接種;28日間隔*2回接種*28日間隔|valign="top"|
*計画では2回接種・4週間隔
*実際にはCOV002で殆どが9週以上,半数が12週以上の間隔で,COV003では間隔が4-12週でばらついた
|-
!投与経路
|valign="top"|*筋注(三角筋)|valign="top"|*筋注(三角筋)|valign="top"|*筋注(三角筋)
|}
いよいよ結果,vaccine efficacy, VE です.
下表において「平均追跡」はいずれも論文中にはありません.論文中に記載された人年下表において「平均追跡期間」はいずれも論文中にはありません.論文中に記載された人年/人日と解析対象人数/at risk人数から,私が逆算したものです.
どのワクチンも「2回目の7/14日後以降」という極めて短期間でエンドポイントを見ているため,予防効果がどれぐらいの期間続くのか予想できません.せめて2回目接種からCOVID発症までの平均追跡期間を見ることで,「7014日後以降」という極めて短期間でエンドポイントを見ているため,予防効果がどれぐらいの期間続くのか予想できません.せめて2回目接種からCOVID発症までの平均追跡期間を見ることで,「60%や95%というVEが保たれるのは平均で少なくともどのぐらいの期間か」を考えることができます.
もちろん,3論文ともKaplan-Meier法による累積発症グラフを掲載しており,そちらの方が視覚的にわかりやすいです.是非ご参照ください.著作権の関係でグラフを本ページに転載することができないため,代わりに平均追跡期間を計算した次第です.参考程度にお考えください.
 
なお,AstraZenecaワクチンのVEの解釈については,表の後に追加コメントがあります.
 
{|class="wikitable" style="min-width:600px;"
|-
!
!style="width:30%"|Pfizerワクチン
!style="width:30%"|Modernaワクチン
!style="width:30%"|AstraZenecaワクチン
|-
!一次エンドポイント
|valign="top"|
'''2回目7日後以降のCOVID発症'''
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|8人<hr>2,214人年
|align="middle"|162人<hr>2,222人年
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|95.0% (90.3-97.6)
|-
!style="width:50%;"|実薬群 at risk 人口
!style="width:50%;"|プラセボ群 at risk 人口
|-
|align="middle"|17,411人<hr>平均追跡期間 46.4日
|align="middle"|17,511人<hr>平均追跡期間 46.3日
|}
 
|valign="top"|
'''2回目14日後以降のCOVID発症'''
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|3.3人<hr>1,000人年
|align="middle"|56.5人<hr>1,000人年
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|94.1% (89.3-96.8)
|-
!style="width:50%;"|実薬群解析対象
!style="width:50%;"|プラセボ群解析対象
|-
|align="middle"|14,134人<hr>平均追跡期間 86.1日
|align="middle"|14,073人<hr>平均追跡期間 84.9日
|}
 
|rowspan="2" valign="top"|
'''2回目14日後以降のCOVID発症'''
*LD→SD投与群<br>(COV002の一部)
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬LD→SD群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|3人<hr>1,367人
|align="middle"|30人<hr>1,374人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|90.0% (67.4-97.0)
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|73,313人日<hr>平均追跡期間 53.6日
|align="middle"|72,949人日<hr>平均追跡期間 53.1日
|}
 
*SD→SD投与群<br>(COV002の一部+COV003)
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬SD→SD群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|27人<hr>4,440人
|align="middle"|71人<hr>4,455人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|62.1% (41.0-75.7)
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|174,986人日<hr>平均追跡期間 39.4日
|align="middle"|174,279人日<hr>平均追跡期間 39.1日
|}
 
*LD/SD問わず全集計
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群すべて
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|30人<hr>5,807人
|align="middle"|101人<hr>5,829人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|70.4% (54.8-80.6)
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|248,299人日<hr>平均追跡期間 42.8日
|align="middle"|247,228人日<hr>平均追跡期間 42.4日
|}
 
'''2回目14日後以降の無症候COVID感染'''
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|29人<hr>3,288人
|align="middle"|40人<hr>3,350人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|27.3% (-17.2-54.9)<br>※統計学的有意差なし
|-
!style="width:50%;"|実薬群人日
!style="width:50%;"|プラセボ群人日
|-
|align="middle"|151,673人日<hr>平均追跡期間 46.1日
|align="middle"|152,138人日<hr>平均追跡期間 45.4日
|}
|-
!二次エンドポイント
|valign="top"|
'''接種後時期を問わない重症COVIDの減少又は増加'''
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|1人<hr>4,021人年
|align="middle"|9人<hr>4,006人年
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|88.9% (20.1-99.7)
|-
!style="width:50%;"|実薬群at risk人口
!style="width:50%;"|プラセボ群at risk人口
|-
|align="middle"|21,314人<hr>平均追跡期間 68.9日
|align="middle"|21,259人<hr>平均追跡期間 68.8日
|}
 
|valign="top"|
'''2回目14日後以降の重症COVIDの減少又は増加'''
{|class="wikitable"
|-
!style="width:50%;"|実薬群
!style="width:50%;"|プラセボ群
|-
|align="middle"|0人<hr>14,073人
|align="middle"|30人<hr>14,073人
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)
|-
|colspan="2" align="middle"|100% (算出不能-100)
|}
 
|}
<div class="toccolours" style="background-color:lightgoldenrodyellow;">
なお,AstraZenecaワクチンの「LD→SD投与群」の ====AstraZenecaワクチンのVEの解釈====AstraZenecaワクチンの「LD→SD投与群」の VE が90.0%であることにはちょっと注意が必要です.<br>95%信頼区間の下限は67信頼区間の下限は 0 よりも上(67.4%なので統計学的有意差(危険率5)なので統計学的有意差は危険率5%)は検出されているのですが,SD→SD投与群の で検出されているのですが,SD→SD投与群の VE 62.1% に比べてずいぶん乖離があります.
この点には,治験担当者自身が discussion で下記のようにコメントしています.
つまり,「有意差はあっても90%という見かけの数字は大きすぎ=偶然に良い数字になっちゃったのかもね」と治験担当者が考えているということです.
偶然に良い数字なのだとしたら,神のみぞ知る真の VE は何%ぐらい?<br>それは神にしかわからないのですが,それを推測する材料が95%信頼区間と,「元々意図していた投与量」であるSD→SD群での結果です.
それは神にしかわからないのですが,それを推測する材料が95%信頼区間です.9595%信頼区間の下限が67.4%ということは,真の VE が 67.4% かもしれないし 70% かもしれないし,ということです.かもしれないし,80%かもしれません.「元々意図していた投与量」であるSD→SD群での VE が 62.1% だったんですから,LD→SD群の真の値も低めに見積もった方が無難かもしれません.
治験担当者が「偶然」と書いたのはそういう意味合いだと理解していいでしょう.
<hr>
それでもLD→SD群の90%が真の値に近いかもしれないなら,SD→SD群より良い結果になった理由の推測は?<br>
この先は私の“妄想”レベルですのでご参考までに.
 
ひとつ想像できるのは,LD→SD群の接種間隔です.当初4週間を計画していたのが,ワクチンロット検定不具合から大幅に接種間隔が延びてしまいました.半数以上の参加者が12週以上(3ヶ月以上)の接種間隔であり,SD→SD群より長くなりました.この接種間隔の長さが,より良いブースター効果を生んだのかもしれません.
 
体内で増殖した病原体抗原(ワクチン由来も含む)は複雑な免疫応答を惹き起こしますが,中心になるのはB細胞の活性化とそれに続く形質細胞およびメモリーB細胞への分化です.各所のリンパ節や脾臓にある胚中心(germinal center)で一連のB細胞の分化と親和性成熟が進んで十分量の特異抗体が産生されるようになるまでに,およそ4週間かかるとされています.
:(※詳しくは免疫学の教科書をご参照ください.あるいは成書 Plotkin's Vaccines 7th ed. の Section 1 > 2 Vaccine Immunology > Vaccine Antibody Responses のチャプターにも詳しく書かれています.[https://www.youtube.com/watch?v=qGsyBwDVnTU こちらのYouTube動画も美しいアニメーションでまとまっています])
 
初回接種から4週間かけてB細胞が活性化→分化しますが,分化してできた形質細胞は寿命が短いため,分泌される抗体量はいったんゼロ近くまで減少してしまいます.その後に再び病原体抗原にさらされる機会があれば---ワクチンであれば2回目を接種すれば,メモリーB細胞が7日以内という短期間に一気に形質細胞に分化し,低下していた抗体分泌を再び活発にします.再刺激された抗体産生は初回接種よりも多くかつ長く保たれます.<br>
これがワクチンのブースター効果です.
 
ただし,胚中心で開始されたB細胞の親和性成熟のプロセスは,胚中心が数週後に消失した後も,数ヶ月間は持続するとされています.ということは,初回接種から時間が経てば経つほど,B細胞は病原体抗原に対してより強い親和性を獲得=抗原によりフィットする抗体が産生できるようになります.よって,初回からブースター接種までの時間がより長くなれば,より効果の高い抗体をメモリーB細胞→形質細胞が大量生産してくれることになります.
 
LD→SD群がSD→SD群よりも本当に VE が高かったのであれば,「接種間隔が延びてしまったことがB細胞の親和性成熟をより促し,結果的に免疫がより強くなった」が理由かもしれません.
 
もうひとつ想像するなら,初回接種の抗原量が少なかったことにも理由があるかもしれません.<br>
一般に初回接種の抗原量を少なめにすると,胚中心でのB細胞(の分化過程である中心細胞)の濾胞樹状細胞に対する競合がより強くはたらき,親和性B細胞がより強く選択されることもあると考えられています.それは結果的にブースター接種での抗体産生を高くします.
 
さらに,AstraZenecaワクチンがウイルスベクターワクチンであることにも想像が及びます.<br>
チンパンジーアデノウイルスをベクターとして利用していますが,ベクターウイルス粒子そのものへの免疫が惹起されたとしても不思議ではありません.すると,初回ウイルス量が少ない方がベクターウイルスへの免疫が相対的に弱く獲得され,2回目接種でのベクターウイルスへの攻撃も相対的に弱くなり,その結果より多くのSARS-CoV-2遺伝子がヒト細胞に導入されて抗原産生が2回目接種で相対的に増えたのかもしれません.
 
以上,どれも私の“妄想”レベルですから,「見てきたようなウソを言い」程度に読み流してください.
</div>
 
{|class="wikitable" style="min-width:600px;"
|-
!
!style="width:30%"|Pfizerワクチン
!style="width:30%"|Modernaワクチン
!style="width:30%"|AstraZenecaワクチン
|-
!一次エンドポイント
|valign="top"|
''2回目7日後以降のCOVID発症''
*実薬群 8人/2,214人年
**2,214人年中17,411人がat risk<br>→平均追跡46.4日
*プラセボ群 162/2,222人年
**2,222人年中17,511人がat risk<br>→平均追跡46.3日
*VE 95.0%
**95%CI 90.3-97.6
|valign="top"|
''2回目14日後以降のCOVID発症''
*実薬群 11人;3.3人/1000人年
**解析対象14,134人<br>→平均追跡86.1日
*プラセボ群 185人;56.5人/1000人年
**解析対象14,073人<br>→平均追跡84.9日
*VE 94.1%
**95%CI 89.3-96.8
|rowspan="2" valign="top"|
''2回目14日後以降のCOVID発症''<br>
<u>LD→SD投与群<br>(COV002の一部)</u>
*実薬群 3人/1,367人
**73,313人日→平均追跡53.6日
*プラセボ群 30人/1,374人
**72,949人日→平均追跡53.1日
*VE 90.0%
**95%CI 67.4-97.0
<u>SD→SD投与群<br>(COV002の一部+COV003)</u>
*実薬群 27人/4,440人
**174,986人日→平均追跡39.4日
*プラセボ群 71人/4,455人
**174,279人日→平均追跡39.1日
*VE 62.1%
**95%CI 41.0-75.7
<u>LD/SD問わず全集計</u>
*実薬群 30人/5,807人
**248,299人日→平均追跡42.8日
*プラセボ群 101人/5,829人
**247,228人日→平均追跡42.4日
*VE 70.4%
**95%CI 54.8-80.6
''2回目14日後以降の無症候COVID感染''
*実薬群 29人/3,288人
**151,673人日→平均追跡46.1日
*プラセボ群 40人/3,350人
**152,138人日→平均追跡45.4日
*VE 27.3%
**95%CI -17.2-54.9 ※有意差なし
|-
!二次エンドポイント
|valign="top"|
''接種後時期を問わない重症COVIDの減少又は増加''
*実薬群 1人/4,021人年
**4,021人年中21,314人がat risk<br>→平均追跡68.9日
*プラセボ群 9/4,006人年
**4,006人年中21,259人がat risk<br>→平均追跡68.8日
*VE 88.9%
**95%CI 20.1-99.7
|valign="top"|
''2回目14日後以降の重症COVIDの減少又は増加''
*実薬群 0人/14,073人
*プラセボ群 30/14,073人
*VE 100%
**95%CI 算出不能-100
|}
===結果:有害事象===
*プラセボ群死亡の死因は,腹腔内穿孔,心肺停止,慢性リンパ性白血病参加者での重症全身性炎症症候群
|}
 
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