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編集の要約なし
<div class="toccolors" style="margin:10px; padding:20px; text-align:center; background:linear-gradient(lightcyan,springgreen); font-size:1.3em; font-weight:bold;">
本ページは2021年3月26日で更新を停止し,下記サイトに内容を移管しました.
 
<div align="center">{{Quote|content=[http://vaccipedia.jp/ Vaccipedia ワクチペディア|プライマリケアのためのワクチンリソース]}}</div>
 
ブックマーク変更等お願いいたします.
</div>
 
{{Vaccines}}
 
==本ページおよび管理者について==
本ページは[[メインページ|「新型コロナウイルス感染症まとめサイト」]]のサブページとして作成しました.
管理者は検疫所で勤務しておりますが,本ページおよび「まとめサイト」の内容は完全に個人の見解であり,所属組織を代表するものではありません.
{|class="mw-collapsible mw-collapsed wikitable" style="min-width:450px;"
|-
!colspan="4"|サイト管理者のワクチンおよび新型コロナに関する著作等
|ケアネットDVD [https://www.carenet.com/dvd/209 「ここから始めよう!みんなのワクチンプラクティス ~今こそ実践!医療者がやらなくて誰がやるのだ~」]
|}
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==おことわり==
本ページは,新型コロナワクチンについての'''医療従事者向けのまとめ'''です.
内容は'''2021年1月10日時点でサイト管理者が得ている情報2021年2月14日時点でサイト管理者が得ている情報'''に基づいています.
重要な情報更新があった場合はページ内容も更新するよう努力しますが,すべての情報をリアルタイムには網羅できていないことをご承知おきください.
なお,個人のワクチン接種の是非を含めて,'''ご自身の健康に関わる疑問等については,かならず主治医,かかりつけの医師,保健所等にご相談ください'''.
 
===更新履歴===
{|class="wikitable"
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!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月17日
|[[#改正予防接種法における扱い|「改正予防接種法における扱い」]]の項に追記
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!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月14日
|Pfizerワクチンが「コミナティ筋注」として日本で承認されたことを該当項に追記
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!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月12日
|変異株について「[[#変異株に対する効果]]」の項を新設
|-
!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月6日
|アナフィラキシーについて英国の報告を追記し「[[#認可後に報告されたアナフィラキシー]]」に再整理
|-
!style="vertical-align:top; width:8em;"|2021年2月5日
|<s>アナフィラキシーについて「認可後に米国CDCが発表したPfizer, Moderna両ワクチンでのアナフィラキシー反応」に再整理</s>
|-
!style="vertical-align:top;"|2021年2月 4日
|[[#ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はない|「ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はない」]]を追記
|-
!style="vertical-align:top;"|2021年1月26日
|<s>「認可後に米国CDCが発表したModernaワクチンでのアナフィラキシー反応」および「アナフィラキシーの頻度の解釈について」を追記し,前後を整理</s>
|-
!2021年1月19日
|一般公開
|-
!2021年1月13日
|暫定公開
|}
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==要点と個人的見解==
</div>
}}
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==開発が進む新型コロナワクチン==
※サイトごとにまとめ方が異なるため,開発段階ごとのワクチン数はそれぞれ異なります.
===日本で接種される可能性が高い3ワクチン日本で承認済みまたは承認される可能性が高い3ワクチン===輸入契約が結ばれている等の理由で日本で承認済み,承認申請済み,または輸入契約が結ばれている等の理由で'''日本で接種される可能性が高い日本で接種される可能性が高く''',かつ'''既に開発国で認可済み開発国で承認済み'''(緊急使用承認含む)のワクチンは,下記の'''3ワクチン'''です. このうち,Pfizer-BiONTech社のワクチンは'''[https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/navi.html 製品名「コミナティ筋注」として2021年2月14日付で特例承認により日本で承認されました]'''.
{|class="wikitable" style="font-size:1.3em; font-weight:bold; min-width:500px;"
!開発拠点国
!開発コード名
!日本承認名
|-
|
|米国
|BNT162b2
|[https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/631341DA1025_1_01/?view=frame&style=XML&lang=ja コミナティ筋注]
|-
|
|米国
|mRNA-1273
|
|-
|
|英国
|AZD1222
|
|}
 
本ページでは,'''2021年1月10日時点の情報'''を基に,上記3ワクチンについてまとめています.
以下,3ワクチンを次のように呼ぶことにします.
</div>
===米国と英国では既に認可済み米国と英国では既に承認済み===3ワクチンは開発拠点国の米国と英国で既に使用認可が下り,医療従事者をはじめとして市中での接種が始まっています.3ワクチンは開発拠点国の米国と英国で既に使用承認が下り,医療従事者をはじめとして市中での接種が始まっています.
{|class="wikitable" style="min-width:500px;"
|-
!ワクチン
!米国での認可米国での承認!英国での認可英国での承認!日本での承認
|-
!Pfizerワクチン
|[https://www.fda.gov/media/144412/download 2020年12月11日 緊急使用認可(同23日改訂)緊急使用承認(同23日改訂)]|[https://www.gov.uk/government/news/uk-medicines-regulator-gives-approval-for-first-uk-covid-19-vaccine 2020年12月2日 通常認可通常承認]|[https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/631341DA1025_1_01/?view=frame&style=XML&lang=ja 2021年2月14日 特例承認]
|-
!Modernaワクチン
|[https://www.fda.gov/media/144636/download 2020年12月18日 緊急使用認可緊急使用承認]|[https://www.gov.uk/government/news/moderna-vaccine-becomes-third-covid-19-vaccine-approved-by-uk-regulator 2021年1月8日 通常認可通常承認]|未承認
|-
!AstraZenecaワクチン
|(未認可)(未承認)|[https://www.gov.uk/government/news/uk-medicines-regulator-gives-approval-for-first-uk-covid-19-vaccine 2020年12月30日 通常認可通常承認]|未承認
|}
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==ワクチンの効果「vaccine efficacy」とは,「接種しなかったので感染した人数」から「接種したけど感染した人数」への「割引率」==
この「'''95%'''」が,ワクチンの効果 '''vaccine efficacy, VE'''なんですね.<br>
ワクチンを接種することで「'''感染リスクが95%割り引かれる'''」と言うこともできます.割引率95%の超お値打ち品ということです.
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
==3ワクチンの製法について==
なお参考までに古典的なワクチンに比喩するなら,病原体タンパクだけが体内で増えるという点,接種する物質もmRNAという「自己増殖機能を持たない分子」である点で,不活化ワクチンに似ていると言えるでしょう.言い換えれば,生ワクチンとは決定的に違います.
 
mRNAワクチンのより詳しい原理については,日本RNA学会のエッセイをご参照ください.
{{Quote|content=
<ol>
<li>[https://www.rnaj.org/component/k2/item/855-iizasa-2 mRNAワクチン:新型コロナウイルス感染を抑える切り札となるか?]
<li>[https://www.rnaj.org/newsletters/item/856-furuichi-28 <走馬灯の逆廻しエッセイ> 第28話「コロナウイルスへのメッセンジャーRNAワクチン」]
</ol>
}}
mRNAワクチンの専門的な解説については,下記の総説論文がわかりやすいです.
{{Quote|
content=[https://www.nature.com/articles/nrd.2017.243 Pardi, N., Hogan, M.MJ, PorterFW, F. et alWeissman D. mRNA vaccines — a new era in vaccinology. Nat Rev Nature Reviews Drug Discov Discovery. 2018;17, 261–279 (20184):261-279. httpsdoi://doi.org/10.1038/nrd.2017.243]
}}
{{Quote|
content=
[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0952791516300541 Ewer KJ, Lambe T, Rollier CS, et alSpencer AJ, Hill AVS, Dorrell L. Viral vectors as vaccine platforms: from immunogenicity to impact, . Current Opinion in Immunology, . 2016;41, :47-54(2016). httpsdoi://doi.org/10.1016/j.coi.2016.05.014.]
}}
===その他の新型コロナワクチン候補の製法ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はない===今回実用化された3ワクチンの製法は2種類ですが,他にも様々な製法の新型コロナワクチンが開発中です.3ワクチンともコロナウイルスの遺伝子を,mRNAを直接またはベクターウイルスを介して,体内に注入します.
それらの製法については,[https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/risk-comms-updates/update37-vaccine-development.pdf?sfvrsn=2581e994_6 WHOの資料]や[https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/072000119/ 日経バイオテクの記事],[https://www.youtube.com/watch?v=lFjIVIIcCvc GAVIによるCG動画]などに簡潔にまとまっていますので,ご参照ください.このことから,「ウイルスの遺伝子が自分の体(細胞)に悪影響を残したらどうしよう,それが将来の子どもや孫に影響したらどうしよう」という漠然とした不安を抱く方が少なくないようです.
==3ワクチンの治験 phase 3 論文と,そのインパクト==しかし古典的な分子生物学(生化学)の知識により,それが杞憂であることがわかります.<br>中国・武漢市で最初の患者が2019年12月に発見されてから'''わずか1年後'''の'''2020年12月''',3ワクチンの治験 phase 3 の結果を報告する論文が peer-reviewed journal に掲載されました.かつて勉強した「[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B0%E3%83%9E セントラルドグマ]」ですね.
{|<div class="wikitable" style="mintoccolours mw-width:500px;"|collapsible mw-collapsed>!ワクチン'''セントラルドグマのおさらい'''!引用!style<div class="width:8%;mw-collapsible-content"|初出日>|-!Pfizerワクチン「遺伝子」という言葉は生物個体を形づくる情報のことであり,「ゲノム」とも呼びます.<br>|[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2034577 Polack, Fernando P., Stephen J. Thomas, Nicholas Kitchin, Judith Absalon, Alejandra Gurtman, Stephen Lockhart, John L. Perez, et al. “Safety and Efficacy of the BNT162b2 MRNA Covid-19 Vaccine.” New England Journal of Medicine 383, no. 27 個体の情報は親から子へも受け継がれるので「<ruby>遺<rp>(December 31, 2020): 2603–15. https:</rp><rt>のこ</doi.org/10.1056/nejmoa2034577.]|12月10日|-!Modernaワクチン|[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2035389 Baden, Lindsey R., Hana M. El Sahly, Brandon Essink, Karen Kotloff, Sharon Frey, Rick Novak, David Diemert, et al. “Efficacy and Safety of the MRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine.” New England Journal of Medicine, December 30, 2020. https://doi.org/10.1056/nejmoa2035389.]|12月30日|-!AstraZenecaワクチン|[https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20rt><rp>)32661-1</fulltext Voysey, Merryn, Sue Ann Costa Clemens, Shabir A Madhi, Lily Y Weckx, Pedro M Folegatti, Parvinder K Aley, Brian Angus, et al. “Safety and Efficacy of the ChAdOx1 NCoV-19 Vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an Interim Analysis of Four Randomised Controlled Trials in Brazil, South Africa, and the UK.” The Lancet 397, no. 10269 (December 8, 2020): 99–111. https://doi.org/10.1016rp></s0140-6736(20)32661-1.]|12月8日|}ruby>し伝える」という日本語が使われていますが,この情報の本来の目的は個体の体すべてを作ることなんですね.
私の率直な感想を述べると,「病原体発見からわずか11ヶ月で(※)有望そうな3つもワクチンが登場するとは,予想を遙かに超えていた」です.:(※病原体発見は2020年1月で,どのワクチンも2020年11月までの結果を集計しています)遺伝子は情報を指す言葉ですが,その物質としての正体は,ヒトを含む殆どの生物の場合で「DNA(デオキシリボ核酸)」という巨大分子です.より正確には「塩基」が超超超たくさんつながったひも状の分子です(塩基が連なった分子構造のことを「核酸」と呼ぶこともあります).ひも状の長い分子は2本ペアになっており,お互いがお互いの周りをグルグル回ってらせん状になっている,いわゆる二重らせん構造をしています.
ワクチン開発は,古典的な製法による過去の実績では,数年から10年以上かかるのが一般的でした.たくさんあるウイルスの一部のみ,「RNA(リボ核酸)」という巨大分子を遺伝子に使っています.
新興病原体に対する新規ワクチンは,病原体が登場するたびに開発は開始されるものの,[https://www.bcm.edu/departments/molecular-virology-and-microbiology/emerging-infections-and-biodefense/emerging-infectious-diseases 最近50年以内に登場したおよそ40種の新興病原体]のうち実際にヒトで実用化されたワクチンは,前述のエボラワクチンのみです.:(※新型インフルエンザワクチンは,元々技術が確立されている季節性インフルエンザワクチンを応用する形なので,新興病原体への完全な新規ワクチンとはやや事情が異なります)DNAとRNAは塩基単位で見ると酸素分子が1個多いか少ないかというわずかな違いだけですが,そのせいで巨大分子としての安定性に大きな影響があります.DNAよりもRNAの方が分子として安定性が悪くて壊れやすいという性質があります.細胞を基本とする生物の遺伝子はすべてDNAです.細胞という形ではないウイルスの,そのまた一部だけが,RNAを遺伝子にしてるんでしたね.
エボラワクチンは治験でのヒト投与から効果確認まででも5年かかりました.ここからはヒト細胞(をはじめとする真核細胞)の話です.
それが,新型コロナではゼロからのスタートから'''たったの1年'''で先進国2ヶ国が承認するところまでこぎつけました.しかもヒト実用化が初めてのmRNAワクチンが2つも含まれています.遺伝子であるDNAは,細胞の真ん中にある「細胞核」の中に保管されています.超超超長い二重らせんのひもは,まるで長いLANケーブルを束ねて丸めるように,折り曲げられて束ねられてまた折り曲げられて束ねられてグリグリと<ruby>塊<rp>(</rp><rt>かたまり</rt><rp>)</rp></ruby>になっています.この塊が「染色体」と呼ばれ,光学顕微鏡でも見ることができる大きさです.
長期的な効果や未発見の副反応など課題は山積みですが,mRNAワクチンであれウイルスベクターワクチンであれ今回で実績が定まれば,再び新興病原体が登場しても遺伝子工学によって速やかにワクチンを新規開発することができます.さて細胞が「自分をコピーした細胞を作ろう」「役に立つタンパク質を作って細胞の外に送り出そう」と考えると,染色体の束をほどいてDNAをひも状に戻し,DNAの二重らせん構造は専用の酵素によって1本ずつに分離されます.この片側1本のうち,自分のコピーやタンパク質を作るための情報(意味と法則性がある塩基の並び)が収まっている部分に専用酵素がかぶさって,まるでスキャナかハンディコピー機のように情報(塩基の並び)を複製していきます. 情報を複製?そう,1本ずつに分離されたDNAの塩基の並びと意味合いが同じになるように,新しくRNAを作っていくんですね.え?新しく作るのはDNAじゃなくてRNAなの?そこは新型コロナワクチンの本題からはあまり関係ないのでツッコまないでください.とにかくDNAのコピーはRNAを使って作られるんです.光沢紙に印刷された内容を再生紙にコピーするようなもんだと考えてください.
'''新型コロナだけでなく未知の新興病原体への対策にも希望を切り拓いた'''という点で,'''ワクチン史に残る出来事'''だと言えるでしょう.コピーRNAを作るまでは細胞核の中で行われますが,作られたコピーRNAはその後細胞核の外に漂い出ていきます.
<div class="toccolours" style="background-color:lightgoldenrodyellow;">【閑話】細胞核の外に広がっているのは「細胞質」でしたね.さらに外側を「細胞膜」(植物の場合はプラス「細胞壁」)で囲まれて,細胞質の中には水に溶け込んだアミノ酸とか酵素とかその他色々がドロッと混ざり合ってフワフワ浮いています.
エボラウイルスの発見が1976年,ワクチン開発が動物実験レベルで始まったのは2005年でした.前述のとおりウイルスベクターワクチンで,[https://en.wikipedia.org/wiki/RVSV-ZEBOV_vaccine rVSV-ZEBOVワクチン]と呼ばれました.細胞質の中に漂い出てきたコピーRNAは,やがてフワフワ浮いている専用の酵素に出会います.専用酵素にはひも状のRNA分子をはめ込む溝があって,コピーRNAを溝にはめ込むと自動的に塩基の並びを読み取りはじめます.塩基の並びは,どういうわけか3つセットで1つのアミノ酸に対応してるんでしたね.誰だよそんなこと考えたやつ天才だろ.
これが緊急治験の形でヒトに本格的に投与されたのは,[https://ja.wikipedia.org/wiki/2014%E5%B9%B4%E3%81%AE%E8%A5%BF%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%9C%E3%83%A9%E5%87%BA%E8%A1%80%E7%86%B1%E6%B5%81%E8%A1%8C 2014年をピークに西アフリカで大流行した際]が初めてでした.しかし致死率が50%を超える病原体であることから倫理的理由によりプラセボ群を設定せず,実薬群のsingle armのみの治験でした.それゆえに,治験結果は疑問視されました.酵素はコピーRNAの塩基並びを読み取りながら,近くでフワフワ漂ってるアミノ酸を適当にキャッチしては,対応するアミノ酸を読み取った順番どおりに結合させていきます.コンピュータ制御の製造ライン機械と全く同じ仕組みです.誰だよそんなこと考えたやつ天才だろ.
次の[https://en.wikipedia.org/wiki/Kivu_Ebola_epidemic 2018年のコンゴ民主共和国での大流行]では,効果が疑問視されたままのエボラワクチンを人道的使用 compassionate use として投与しています.この使用実績を2019年に解析したところ,接種者のエボラ発症が未接種者に比べて[https://www.who.int/csr/resources/publications/ebola/ebola-ring-vaccination-results-12-april-2019.pdf 97.5%抑えられていた(VEが97.5%だった)]ことが判明し,ようやく効果が実証されました.そうしてコピーRNAの塩基並びを全部読み取り終わると,目的のタンパク質が完成しているわけです.
それを踏まえ,WHOは2019年,[https://www.who.int/news/item/12-11-2019-who-prequalifies-ebola-vaccine-paving-the-way-for-its-use-in-high-risk-countries rVSV-ZEBOVに事前認証 prequalification] を与えました.WHOによる事前認証とは,薬剤や医療機器等を自国で検証することが困難な国・地域向けにその品質や安全性を国際機関として担保する制度のことで,“WHOによるお墨付き”に相当します.そこに至るまでヒト治験開始の2014年から数えても'''5年''',動物実験レベルからは14年,病原体発見からは43年が経過しています.タンパク質完成後のコピーRNAの行方は?RNAという分子自体の安定性が低いので,細胞質の中で数分~数日以内に分解されてしまいます.光沢紙からコピーした再生紙は内容だけ読んだらすぐにシュレッダーしてしまうようなものですね.
【閑話休題】もうおわかりですね.「コピーRNA」と便宜的に呼んできたものが,セントラルドグマにおける「メッセンジャーRNA,mRNA」のことですね.</div>
</div>
すなわち,【細胞核:DNA→mRNA】→mRNA→【細胞質:mRNA→タンパク質】という一方向の流れがあり,逆流はしない,という大原則のことをセントラルドグマと呼ぶんでした.:※RNAウイルスのうち更に一部の逆転写酵素を持つウイルス(レトロウイルス)はセントラルドグマからは逸脱しますが,コロナウイルスも3ワクチンも逆転写酵素は全く持っていません.ヒトは細胞自身の寿命をコントロールするために持っている特殊な酵素に逆転写機能があるものの,細胞寿命にかかわる特定の並びのRNAにしか反応しないため下記で説明する流れには無関係です. ここで,ウイルスがヒトに感染した場合は,ウイルス遺伝子(RNAまたはDNA)がヒト細胞内に放出されます.ウイルス遺伝子がヒト細胞質のアミノ酸等を使ってウイルスのコピーを作るわけです. RNAウイルスでは細胞質内でmRNAから直接,DNAウイルスではいったん細胞核内でmRNAを作ってから再び細胞質内で,という過程の違いはありますが,ウイルス感染でもセントラルドグマに相当することがヒト細胞内で起きるのです.<br>当然,ウイルス感染でもセントラルドグマの逆流はありません(※レトロウイルスを除く). <div class="toccolours mw-collapsible mw-collapsed">'''ウイルスのヒト細胞への感染おさらい'''<div class=3ワクチン論文のかんたんまとめ=="mw-collapsible-content">ウイルスは遺伝子(ウイルスによってDNAかRNAのどちらか)とそれを包む殻だけでできている,きわめてシンプルな存在です. ウイルスが体内に侵入してヒトの細胞の細胞膜にくっつくと,条件が合っていれば(=レセプターがあれば)ヒトの細胞はうっかりウイルスを細胞質の中へ招き入れてしまいます.ヒト細胞いったい何やってんだよというツッコミはなしにしてください. RNAウイルスの場合は,まんまと細胞質内に入った後,殻の中から自分の遺伝子RNAを細胞質内に放出します.<br>では本題です.自分のRNAを基に,ヒト細胞質内の塩基を使ってRNA自身のコピーを作り,さらにアミノ酸やらを使ってタンパク質で自身の殻を作ることで,自分を大量コピーしようという了簡なわけです.
ここでは3ワクチン論文の主要なところを整理します.DNAウイルスの場合は,まんまと細胞質内に入った後,さらに細胞核内にまで侵入します.そこで自分の遺伝子DNAを細胞核内に放出するのです.<br>細胞核の中で,ヒトDNAからmRNAを作る仕組みにちゃっかり便乗してウイルスDNAからmRNAを作り,それを細胞質内に出してもらってタンパク質を作って殻とし,自分を大量コピーしようという了簡なわけです.
[[#3ワクチン論文の詳細なまとめ|'''より詳細なまとめはこのページの末尾にあります''']](←クリック!).興味のある方はご参照ください.RNAウイルスにしても,DNAウイルスにしても,盗人猛々しいとはまさにこのこと.</div></div>
さて,今回の3ワクチンは,新型コロナウイルスの長いRNAを解析してヒトが免疫獲得できるようなウイルスタンパク(「スパイクタンパク」)を作る塩基並びを見つけ出し,それと同じ並びになるように人工的に塩基を並べたものを使っています. mRNAワクチンの場合は直接mRNAになるように塩基を並べ,ウイルスベクターワクチンの場合はベクターウイルス(チンパンジーアデノウイルス;DNAウイルス)の遺伝子の中に塩基を人工的に組み込んでいます. よって,Pfizer/ModernaのmRNAワクチンの場合はmRNAがヒト細胞に入ったら直接ヒト細胞質内で,AstraZenecaのウイルスベクターワクチンの場合は組み込まれたチンパンジーアデノウイルスの遺伝子(これはDNA)がいったんヒト細胞核内に入ってmRNAを作らせた後にヒト細胞質内で,新型コロナのスパイクタンパクを作るわけです.:当然ですが,チンパンジーアデノウイルスの遺伝子DNAはヒト細胞核の中には入りますが,ヒト自身の遺伝子DNAに組み込まれるようなことは原理的にあり得ません.アデノウイルス属そのものが逆転写酵素を持たないので,どう逆立ちしてもアデノウイルスが自分のDNAをヒトDNAに組み込むことは不可能なのです. そして,スパイクタンパクを作った後のワクチン由来mRNAは,分子として不安定であるために,数分~数日で分解されて消えてなくなります. 繰り返しますが,ヒトDNAのセントラルドグマと同じ原理が3ワクチンでも働きます.<br>すなわち,ワクチン由来のmRNAは,ヒト細胞質から細胞核へと侵入することはあり得ないし,ましてやそれがヒトDNAに組み込まれて長く遺伝情報を保ち続けるなんてことはもっとあり得ないのです. ヒトDNAを一冊の本にたとえるなら,そこから作られるmRNAは本のページのコピーです.<br>mRNAワクチンのmRNAはその本とは全く別のチラシのコピーであり,ウイルスベクターワクチンのDNAもまたその本とは全く別のパンフレットにチラシのコピーをのり付けしたようなものです.<br>本のページのコピーをどれだけ作っても,元の本の中に差し込んで背表紙にのり付けしてページを増やすことはできません.<br>ましてや,本の中にチラシのコピー(パンフレットから剥がしてきたものも含む)を無理矢理差し込んで背表紙にのり付けするなど,到底不可能です. こうした説明でも不安が消えないなら,次のことを考えてみてください. どんな人でも生まれてから今日までの間に,何十回,何百回と何かのウイルスに感染してきています.<br>もしもワクチンのmRNAやウイルスベクターワクチンのDNAがヒト細胞に組み込まれてしまうなら,人は何十回何百回とウイルス感染を繰り返すたびにウイルス遺伝子(RNAまたはDNA)を自分のDNAの中に組み込んでしまっているはずです.ノロウイルスに感染したら“ノロウイルス人”に,インフルエンザウイルスに感染したら“インフルエンザ人”に,新型コロナウイルスに感染したら“新型コロナウイルス人”に,生まれ変わってしまうはずです.<br>でも幸いに,そんな“ウイルス人”は誕生していません.セントラルドグマに反することは起きないからです.<br>ということは,mRNAワクチンだってウイルスベクターワクチンだって,そこに含まれる遺伝子がヒト遺伝子に組み込まれてしまうなんて,あり得ないことなのです. ===その他の新型コロナワクチン候補の製法===今回実用化された3ワクチンの製法は2種類ですが,他にも様々な製法の新型コロナワクチンが開発中です. それらの製法については,[https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/risk-comms-updates/update37-vaccine-development.pdf?sfvrsn=2581e994_6 WHOの資料]や[https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/072000119/ 日経バイオテクの記事],[https://www.youtube.com/watch?v=lFjIVIIcCvc GAVIによるCG動画]などに簡潔にまとまっていますので,ご参照ください. [[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]] ==3ワクチンの治験 phase 3 論文と,そのインパクト==中国・武漢市で最初の患者が2019年12月に発見されてから'''わずか1年後'''の'''2020年12月''',3ワクチンの治験 phase 3 の結果を報告する論文が peer-reviewed journal に掲載されました. {|class="wikitable" style="min-width:600px500px;"|-!ワクチン!style="width:30%"|Pfizerワクチン!style="width:30%"|Modernaワクチン引用!style="width:308%;"|AstraZenecaワクチン初出日
|-
!参加者Pfizerワクチン|valign="top"[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2034577 Polack, Fernando P., Stephen J. Thomas, Nicholas Kitchin, Judith Absalon, Alejandra Gurtman, Stephen Lockhart, John L. Perez, et al. “Safety and Efficacy of the BNT162b2 MRNA Covid-19 Vaccine.” New England Journal of Medicine 383, no. 27 (December 31, 2020): 2603–15. https://doi.org/10.1056/nejmoa2034577.]|12月10日*16|-89歳(中央値52歳)*妊婦,小児は対象外!Modernaワクチン|valign="top"|*18[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2035389 Baden, Lindsey R., Hana M. El Sahly, Brandon Essink, Karen Kotloff, Sharon Frey, Rick Novak, David Diemert, et al. “Efficacy and Safety of the MRNA-1273 SARS-CoV-95歳(平均値512 Vaccine.4歳)*妊婦,小児は対象外” New England Journal of Medicine, December 30, 2020. https://doi.org/10.1056/nejmoa2035389.]|valign="top"|*18歳以上(最高齢,平均,中央値記載なし)*除外基準は明記なし12月30日
|-
!投与法AstraZenecaワクチン|valign="top"[https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)32661-1/fulltext Voysey, Merryn, Sue Ann Costa Clemens, Shabir A Madhi, Lily Y Weckx, Pedro M Folegatti, Parvinder K Aley, Brian Angus, et al. “Safety and Efficacy of the ChAdOx1 NCoV-19 Vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an Interim Analysis of Four Randomised Controlled Trials in Brazil, South Africa, and the UK.” The Lancet 397, no. 10269 (December 8, 2020): 99–111. https://doi.org/10.1016/s0140-6736(20)32661-1.]|12月8日|} 私の率直な感想を述べると,「病原体発見からわずか11ヶ月で(※)有望そうな3つもワクチンが登場するとは,予想を遙かに超えていた」です.:(※病原体発見は2020年1月で,どのワクチンも2020年11月までの結果を集計しています)*実薬:30μgワクチン開発は,古典的な製法による過去の実績では,数年から10年以上かかるのが一般的でした. 新興病原体に対する新規ワクチンは,病原体が登場するたびに開発は開始されるものの,[https:/0/www.3mLbcm.edu/departments/molecular-virology-and-microbiology/emerging-infections-and-biodefense/emerging-infectious-diseases 最近50年以内に登場したおよそ40種の新興病原体]のうち実際にヒトで実用化されたワクチンは,前述のエボラワクチンのみです.*プラセボ:生理食塩水:(※新型インフルエンザワクチンは,元々技術が確立されている季節性インフルエンザワクチンを応用する形なので,新興病原体への完全な新規ワクチンとはやや事情が異なります)*2回接種;21日間隔*筋注(三角筋)エボラワクチンは治験でのヒト投与から効果確認まででも5年かかりました. それが,新型コロナではゼロからのスタートから'''たったの1年'''で先進国2ヶ国が承認するところまでこぎつけました.しかもヒト実用化が初めてのmRNAワクチンが2つも含まれています.|valign="top"|*実薬:100μg/0.5mL長期的な効果や未発見の副反応など課題は山積みですが,mRNAワクチンであれウイルスベクターワクチンであれ今回で実績が定まれば,再び新興病原体が登場しても遺伝子工学によって速やかにワクチンを新規開発することができます.*プラセボ:生理食塩水*2回接種;28日間隔'''新型コロナだけでなく未知の新興病原体への対策にも希望を切り拓いた'''という点で,'''ワクチン史に残る出来事'''だと言えるでしょう.*筋注(三角筋)|valign<div class="toccolours" style="topbackground-color:lightgoldenrodyellow;"|>【閑話】 エボラウイルスの発見が1976年,ワクチン開発が動物実験レベルで始まったのは2005年でした.前述のとおりウイルスベクターワクチンで,[https://en.wikipedia.org/wiki/RVSV-ZEBOV_vaccine rVSV-ZEBOVワクチン]と呼ばれました.*実薬:次のいずれか**1回目低用量LD→2回目標準量SDこれが緊急治験の形でヒトに本格的に投与されたのは,[https://ja.wikipedia.org/wiki/2014%E5%B9%B4%E3%81%AE%E8%A5%BF%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%9C%E3%83%A9%E5%87%BA%E8%A1%80%E7%86%B1%E6%B5%81%E8%A1%8C 2014年をピークに西アフリカで大流行した際]が初めてでした.しかし致死率が50%を超える病原体であることから倫理的理由によりプラセボ群を設定せず,実薬群のsingle armのみの治験でした.それゆえに,治験結果は疑問視されました.**1回目標準量SD→2回目標準量SD***LD:2次の[https://en.wikipedia.org/wiki/Kivu_Ebola_epidemic 2018年のコンゴ民主共和国での大流行]では,効果が疑問視されたままのエボラワクチンを人道的使用 compassionate use として投与しています.この使用実績を2019年に解析したところ,接種者のエボラ発症が未接種者に比べて[https://www.who.2×10<sup>10<int/csr/resources/publications/ebola/sup>含有ebola-ring-vaccination-results-12-april-2019.pdf 97.5%抑えられていた(VEが97.5%だった)]ことが判明し,ようやく効果が実証されました. ***SD:5それを踏まえ,WHOは2019年,[https://www.0×10<sup>10<who.int/news/item/sup>含有12-11-2019-who-prequalifies-ebola-vaccine-paving-the-way-for-its-use-in-high-risk-countries rVSV-ZEBOVに事前認証 prequalification] を与えました.WHOによる事前認証とは,薬剤や医療機器等を自国で検証することが困難な国・地域向けにその品質や安全性を国際機関として担保する制度のことで,“WHOによるお墨付き”に相当します.そこに至るまでヒト治験開始の2014年から数えても'''5年''',動物実験レベルからは14年,病原体発見からは43年が経過しています.*プラセボ:髄膜炎菌ワクチンACWY**安全性解析対象では一部生理食塩水【閑話休題】*2回接種;4-12週以上</div>*筋注(三角筋)[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]!COVID発症の予防効果|valign="top"=3ワクチン論文のかんたんまとめ==では本題です. ここでは3ワクチン論文の主要なところを整理します. [[#3ワクチン論文の詳細なまとめ|''2回目接種7日後以降のCOVID発症'より詳細なまとめはこのページの末尾にあります''']](←クリック!).興味のある方はご参照ください. {|class="wikitable" style="min-width:600px;"
|-
!!style="width:30%"|Pfizerワクチン!style="width:5030%;"|実薬群Modernaワクチン!style="width:5030%;"|プラセボ群AstraZenecaワクチン
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!参加者|alignvalign="middletop"|8人<hr>2,214人年*16-89歳(中央値52歳)*妊婦,小児は対象外|alignvalign="middletop"|162人<hr>2,222人年*18-95歳(平均値51.4歳)*妊婦,小児は対象外|valign="top"|*18歳以上(最高齢,平均,中央値記載なし)*除外基準は明記なし
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!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|95.0% (90.3-97.6)|}投与法
|valign="top"|
''2回目接種14日後以降のCOVID発症''*実薬:30μg/0.3mL*プラセボ:生理食塩水*2回接種;21日間隔*筋注(三角筋){|classvalign="wikitabletop"||-*実薬:100μg/0.5mL!style="width:50%;"|実薬群*プラセボ:生理食塩水!style="width:50%;"|プラセボ群*2回接種;28日間隔|-*筋注(三角筋)|alignvalign="middletop"|3*実薬:次のいずれか**1回目低用量LD→2回目標準量SD**1回目標準量SD→2回目標準量SD***LD:2.3人2×10<hrsup>1,000人年10</sup>含有|align="middle"|56***SD:5.5人0×10<hrsup>1,000人年10</sup>含有*プラセボ:髄膜炎菌ワクチンACWY**安全性解析対象では一部生理食塩水*2回接種;4-12週以上*筋注(三角筋)
|-
!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|94.1% (89.3-96.8)|}COVID発症の予防効果
|valign="top"|
''2回目接種14日後以降のCOVID発症2回目接種7日後以降のCOVID発症''
{|class="wikitable"
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!style="width:50%;"|実薬群!style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|8人<hr>2,214人年|align="middle"|162人<hr>2,222人年|-!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|95.0% (90.3-97.6)|}|valign="top"|''2回目接種14日後以降のCOVID発症''{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬群!style="width:50%;"|プラセボ群|-|align="middle"|3.3人<hr>1,000人年|align="middle"|56.5人<hr>1,000人年|-!colspan="2"|Vaccine Efficacy (95%信頼区間)|-|colspan="2" align="middle"|94.1% (89.3-96.8)|}|valign="top"|''2回目接種14日後以降のCOVID発症''{|class="wikitable"|-!style="width:50%;"|実薬LD→SD群
!style="width:50%;"|プラセボ群
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一言で言えば,「効果が期待できて,重篤または接種をためらう有害事象が観察されないワクチンを,よくぞこの短期間で3種も実用化までこぎつけたものだ」と感嘆するレベルです.
==認可後に報告されたアナフィラキシー==
===米国でのアナフィラキシー===
米国ではPfizer, Moderna両ワクチンの緊急使用認可後に,同国のワクチン接種後有害事象集計システム「[https://vaers.hhs.gov/ VAERS]」を通じてアナフィラキシー様症状が集計され続けています.
===認可後に米国CDCが発表したPfizerワクチンでのアナフィラキシー反応===ここで,治験ではなく,米国での緊急使用認可後の市中接種で初めて報告されたアナフィラキシー反応を見ておきましょう. 米国では2020年12月11日(金)にPfizerワクチンの緊急使用認可が出され,週明け14日から全米各地で急速に接種が始まりました.治験参加者よりも遥かに多い人数が短期間で接種を受けたため,アナフィラキシー反応の報告も相次ぎました. それを受け,2020年12月14日-23日の10日間に報告されたアナフィラキシー反応について,米国CDCが2021年1月6日に以下のとおり発表しました. {{Quote|content=[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7002e1.htm Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine — United States, December 14–23, 2020. January 6, Early Release, MMWR 70]}}*VAERS(※米国のワクチン接種後有害事象集計システム)に2020/12/14-/23の間に,Pfizerワクチン接種後のアナフィラキシー反応が,計21例報告された*この間に同ワクチンは 1,893,360 本接種された(全員が1回目接種)*アナフィラキシー反応の発生頻度は100万接種当たり'''11.1'''件である*21例の年齢の中央値は40歳,範囲は27-60歳だった*21例中19例(90%)が女性だった*21例中15例は接種後15分以内に発生した;時間経過の中央値は13分,範囲は2-150分だった*21例中17例はアレルギーの既往があった(薬剤6例,造影剤2例,食物1例,ワクチン0例);さらにうち7例はアナフィラキシー反応の既往があった*21例中18例がアドレナリン筋注,1例がアドレナリン皮下注により治療開始された*21例中3例がICU入院,1例が一般入院,17例が救急外来のみでの治療だった*本報告時点でうち20例が快復し帰宅している ===認可後に米国CDCが発表したPfizerワクチンでのアナフィラキシー反応===続いて4日後,Modernaワクチンのアナフィラキシー反応についても,米国CDCが2021年1月10日に以下のとおり発表しています. {{Quote|content=[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7004e1.htm Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Moderna COVID-19 Vaccine — United States, December 21, 2020–January 10, 2021, Early Release, MMWR 70]}}*VAERS(※米国のワクチン接種後有害事象集計システム)に2020/12/21-2021/1/10の間に,Pfizerワクチン接種後のアナフィラキシー反応が,計10例報告された*この間に同ワクチンは 4,041,396 本接種された(全員が1回目接種)*アナフィラキシー反応の発生頻度は100万接種当たり'''2.5'''件である*10例の年齢の中央値は47歳,範囲は31-63歳だった*10例全員(100%)が女性だった*10例中9例は接種後15分以内に発生した;時間経過の中央値は7.5分,範囲は1-45分だった*10例中9例はアレルギーの既往があった(薬剤6例,造影剤2例,食物1例,ワクチン0例);さらにうち5例はアナフィラキシー反応の既往があった*10例全員がアドレナリン筋注により治療開始された*10例中5例がICU入院(うち4例が気管挿管),1例が一般入院,4例が救急外来のみでの治療だった*本報告時点でうち8例が快復し帰宅している ===アナフィラキシーの頻度の解釈について===上記のとおり,2021年1月10日までの時点で,アナフィラキシー反応がPfizerワクチンで100万接種当たり'''11.1'''件,Modernaワクチンで100万接種当たり'''2.5'''件と報告されました. 同じ米国での不活化インフルエンザワクチンによるアナフィラキシー反応は,米国CDCの報告によると100万接種当たり'''1.41'''件とされています.:[https://www.cdc.gov/flu/prevent/egg-allergies.htm Flu Vaccine and People with Egg Allergies] したがって,見かけの数字としてはPfizerワクチン,Modernaワクチンともに,不活化インフルエンザワクチンよりアナフィラキシー反応を起こしやすい可能性があります.ただし,両者共に新登場のワクチンであるため,接種担当者が他のワクチンよりも注意深く観察したりより多くVAERSに報告している可能性が否定できません. また,「たかだか180万件or400万件程度」の実績から判断しているため,今後1,000万件や1億件接種されれば,アナフィラキシーの報告数が変動する可能性も残されています.もちろん,上記報告よりも大きな数字になるかもしれません. アナフィラキシー反応の発生頻度については,引き続き注意深く情報収集する必要があります. なお,アナフィラキシー反応はワクチンに限らずありとあらゆる薬剤投与で付きまとう副作用です.すべての医師・医療職が,常にいかなる薬剤においてもアナフィラキシーに備えているべきです.:ちなみに私は研修医時代に,ナウゼリン座薬を処方した患者が診察室脇のトイレですぐに挿肛した途端にアナフィラキシーショックを起こされた経験があります. 参考までに,米国で1995年-2013年の18年間に報告された薬剤性アナフィラキシー19,836人(患者175万人中)の内訳をお示しします.{{Quote|content=[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6311439/ Dhopeshwarkar N, Sheikh A, Doan R, et al.“Drug-Induced Anaphylaxis Documented in Electronic Health Records.” The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice 7, no. 1 (June 30, 2018): 103–11. https://doi.org/10.1016/j.jaip.2018.06.010]}}それらをCDCが解析した結果,両ワクチンで次のとおりアナフィラキシーが確認されました.{|class="wikitable" style="alignmax-width:right600px;"|+米国でのアナフィラキシー報告
|-
!colspan!style="2width:40%;"|薬剤Pfizerワクチン!100万投与当たり発生率(*)!style="width:40%;"|Modernaワクチン
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!rowspan="5"発表日|{{V|抗菌薬}}!ペニシリン[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7002e1.htm 2021年1月6日]|4590[https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7004e1.htm 2021年1月10日]
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!スルフォンアミド集計期間|15102020年12月14日-23日<br>(10日間)||2020年12月21日-2021年1月10日<br>(21日間)
|-
!セファロスポリン発生件数<br>/接種本数|61021例 / 1,893,360本||10例 / 4,041,396本
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!マクロライド発生件数<br>/100万接種|38011.1 / 100万接種||2.5 / 100万接種
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!キノロン年齢|370中央値40歳,範囲27-60歳||中央値47歳,範囲31-63歳|-!女性割合|21例中19例(90%)||10例全員(100%)|-!接種後経過時間|21例中15例は接種後15分以内に発症<br>中央値13分,範囲2-150分|10例中9例は接種後15分以内に発症<br>中央値7.5分,範囲1-45分|-!アレルギー既往歴|21例中17例はアレルギー既往あり(薬剤6例,造影剤2例,食物1例,ワクチン0例)<br>うち7例はアナフィラキシー既往あり|10例中9例はアレルギー既往あり(薬剤6例,造影剤2例,食物1例,ワクチン0例)<br>うち5例はアナフィラキシー既往あり|-!治療内容|21例中18例がアドレナリン筋注,1例がアドレナリン皮下注により治療開始|10例全員がアドレナリン筋注により治療開始
|-
!colspan="2"経過|NSAIDs21例中3例がICU入院,1例が一般入院,17例が救急外来のみでの治療|130010例中5例がICU入院(うち4例が気管挿管),1例が一般入院,4例が救急外来のみでの治療
|-
!colspan="2"転帰|オピオイド報告時点で21例中20例が快復帰宅|980報告時点で10例中8例が快復帰宅
|}
(*)原著では1万投与当たり発生率で記載;サイト管理者による換算標記
ご覧のとおり,Pfizer===英国でのアナフィラキシー===英国では3ワクチンとも認可されていますが,実際に流通して接種が進んでいるのはPfizerおよびAstraZenecaワクチンの2製剤です. 英国保健当局は2021年2月5日付で[https:/Moderna両ワクチンよりも日常的な薬剤の方が遙かにアナフィラキシー頻度が高いことがわかります./www.gov.uk/government/publications/coronavirus-covid-19-vaccine-adverse-reactions/coronavirus-vaccine-summary-of-yellow-card-reporting 両ワクチンの接種後有害事象のレポート]を公開しました. {|class="wikitable" style="max-width:600px;"|+英国でのアナフィラキシー報告|-!!style="width:40%;"|Pfizerワクチン!!style="width:40%;"|AstraZenecaワクチン|-!rowspan="2"|発表日|colspan="2" style="text-align:center;"|[https://www.gov.uk/government/publications/coronavirus-covid-19-vaccine-adverse-reactions/coronavirus-vaccine-summary-of-yellow-card-reporting 2021年2月5日]|-|[https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/958616/COVID-19_mRNA_Pfizer-_BioNTech_Vaccine_Analysis_Print.pdf 2021年2月5日]|[https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/958615/COVID-19_AstraZeneca_Vaccine_Analysis_Print.pdf 2021年2月5日]|-!集計期間|colspan="2"|2020年12月8日-2021年1月24日|-!発生件数<br>/接種本数|101例(*) / 1回目540万本+2回目50万本<br>(接種本数は推計)||13例 / 1回目150万本+2回目ほぼゼロ<br>(接種本数は推計)|-!発生件数<br>/100万接種|推計17.1 / 100万接種||推計8.7 / 100万接種|-!転帰|全員が快復|(※報告中に言及なし)|}:(*)アナフィラキシーの他にアナフィラキシー様反応も含む::[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3209676/ アナフィラキシー様反応(anaphylactoid reaction)とは,IgEを介さず肥満細胞または好塩基球が作用する非アレルギー反応を指し],一般にアナフィラキシーより軽症とされる;101例のうちアナフィラキシー様反応の内訳がどの程度であったか,どのような根拠でアナフィラキシー様反応と判断したかについては言及されていない
新型コロナワクチンで過度にアナフィラキシーをおそれるのは控えるべきでしょう.<br>===アナフィラキシーの頻度の解釈===もちろん,新型コロナワクチンに限らず,ワクチン接種時にはアナフィラキシーに備えた薬剤・医療機器の準備と緊急対応訓練を重ねるべきであることは,言うまでもありません.上記のとおり,米国では2021年1月10日までの時点で,アナフィラキシーがPfizerワクチンで100万接種当たり'''11.1'''件,Modernaワクチンで100万接種当たり'''2.5'''件と報告されました.
==3ワクチン論文からわかること,わからないこと==3ワクチン論文から効果と有害事象を読み取ることができますが,論文から「わかること」と「わからないこと」を改めて整理すると,下記のとおりです.また英国では2021年2月5日までの時点で,アナフィラキシー(一部アナフィラキシー様反応を含む)がPfizerワクチンで100万接種当たり'''17.1'''件,AstraZenecaワクチンで100万接種当たり'''8.7'''件(いずれも推計)と報告されました.
判明した結果ばかりに目を奪われず,「まだわからないこと」をしっかり認識することが重要です.米国での不活化インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーは,米国CDCの報告によると100万接種当たり'''1.41'''件とされています.{{Quote|content=[https://www.cdc.gov/flu/prevent/egg-allergies.htm Flu Vaccine and People with Egg Allergies]}}下記の研究では米国のワクチン全般でアナフィラキシーは100接種当たり'''1.31'''(95%信頼区間0.90-1.84)でした.{{Quote|content=[https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(15)01160-4/abstract McNeil M, Weintraub E, Duffy J et al. Risk of anaphylaxis after vaccination in children and adults. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2016;137(3):868-878. doi:10.1016/j.jaci.2015.07.048]}}
===論文からわかること===したがって,見かけの数字としては3ワクチンとも,他のワクチンよりもアナフィラキシーを起こしやすい可能性があります.*PfizerとModernaのmRNAワクチンでは,2回目接種の7日or14日後以降の時点で,COVIDの発症(症状が出てから検査・診断されるCOVID)が,約95%の VE で予防できる.*AstraZenecaのウイルスベクターワクチンでは,2回目接種の14日後以降の時点で,COVIDの発症,約60-90%の VE で予防できる.*3ワクチンともに,ワクチンとして当然予想される接種部位疼痛や発熱などの反応性症状はプラセボよりも多く観察されたが,明らかにワクチンが原因と思われる重篤な有害事象は治験期間中には観察されなかった.====CDC報告からわかること====*Pfizerワクチンは180万件接種された時点で,100万接種当たり11.1件のアナフィラキシー反応が生じたただし,いずれも新登場のワクチンであるため,接種担当者が他のワクチンよりも注意深く観察したり,より多く報告している可能性が否定できません.
===まだわからないこと===また,「たかだか数100万件程度」の実績から判断しているため,今後数千万件や数億件接種されれば,アナフィラキシーの報告数が変動する可能性も残されています.もちろん,上記報告よりも大きな数字になるかもしれません.*3ワクチンとも,2回目接種から長期間経過後(例えば半年後,1年後,5年後など)でも予防効果が続くのか,いずれ減弱してプラセボとの差がなくなってしまうのか,まだわからない.:※2回目接種からCOVID発症までの治験中の平均追跡期間は,3ワクチンとも40日台~80日台,すなわちせいぜい3ヶ月以内.:※治験参加者をさらに長期間観察すれば長期効果もわかっていくが,世界的大流行が続く中でプラセボ接種者に本当のワクチンを打たないまま1年も2年も経過観察するのが倫理的に許されるのか,議論が出る可能性がある.ただしプラセボ接種者に今後本当のワクチンを接種すれば,その後の長期間の効果は判定不可能になる.*PfizerワクチンとModernaワクチンでは,無症状COVID感染が予防できるのか,まだわからない.**AstraZenecaワクチンでは,[[#結果:効果 vaccine efficacy|無症状COVID感染の予防は検出されなかった]].*3ワクチンとも,他者への感染を予防できるのか,まだわからない.:※悪いシナリオとしては,「3ワクチンで'''発症'''は予防できるが'''他者への感染性'''は予防できない可能性」がある.すなわち集団免疫が獲得できず,接種した個人だけにメリットがある可能性が,今のところは否定できない.*治験参加人数(約1万~4万人)と観察期間の範囲では検出できなかった稀な重篤有害事象が今後報告されるのか,まだわからない.*治験参加人数と観察期間の範囲では検出できなかった[[#抗体依存性感染増強 ADE が新たに報告される|抗体依存性感染増強 ADE]] が今後報告されるのか,まだわからない.アナフィラキシーの発生頻度については,引き続き注意深く情報収集する必要があります.
===2021年1月10日時点ではっきり言えること===なお,アナフィラキシーはワクチンに限らずありとあらゆる薬剤投与で付きまとう副作用です.すべての医師・医療職が,常にいかなる薬剤においてもアナフィラキシーに備えているべきです.以上を踏まえて,現時点で下記のことははっきり言えるでしょう.:ちなみに私は研修医時代に,ナウゼリン座薬を処方した患者が診察室脇のトイレですぐに挿肛した途端にアナフィラキシーショックを起こされた経験があります.
参考までに,米国で1995年-2013年の18年間に報告された薬剤性アナフィラキシー19,836人(患者175万人中)の内訳をお示しします.
{{Quote
|content=
<div style="font[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6311439/ Dhopeshwarkar N, Sheikh A, Doan R et al. Drug-sizeInduced Anaphylaxis Documented in Electronic Health Records. The Journal of Allergy and Clinical Immunology:1In Practice.2em2019;>*3ワクチンとも,'''16 or 18歳以上の成人が接種することで,607(1):103-95% の VE (“割引率”)でCOVIDの発症を予防することができる'''**そのため,'''COVID発症による社会への影響が特に大きい職種の人々'''と,'''COVID発症で重症化や死亡のリスクが特に高い人々'''が,優先的に接種するのが望ましい*3ワクチンとも,'''接種を大いにためらうような重篤な有害事象は今のところ明らかではない'''**むしろ第3波の只中では,'''COVIDに感染して不利益を被ったり生命の危険にさらされるリスクの方が,未知の重篤有害事象よりも高い'''と言える*接種を受けた本人のメリットは明らかであるが,'''他者への感染性を予防するかは未だ不明'''である**よって,ワクチン普及によって'''集団免疫が獲得できるか=周囲が接種することで未接種の人でも守られるかは不明'''である*普及に要する時間と集団免疫不明を考えると,'''社会全体での感染予防策の徹底継続は不可欠である'''<111. doi:10.1016/div>j.jaip.2018.06.010]
}}
{|class="wikitable"
|-
!colspan="2" style="width:11em;"|薬剤
!style="width:9em;"|100万患者当たり<br>発生率(*)
|-
!rowspan="5" style="width:1em;"|{{V|抗菌薬}}
!ペニシリン
|align="right"|4590
|-
!スルフォンアミド
|align="right"|1510
|-
!セファロスポリン
|align="right"|610
|-
!マクロライド
|align="right"|380
|-
!キノロン
|align="right"|370
|-
!colspan="2"|NSAIDs
|align="right"|1300
|-
!colspan="2"|オピオイド
|align="right"|980
|}
{|class="wikitable"
|-
!style="width:11em;"|Pfizerワクチン
|align="right" style="width:9em;"|米国 11.1<br>英国 17.1
|-
!Modernaワクチン
|align="right"|米国 2.5
|-
!AstraZenecaワクチン
|align="right"|英国 8.7
|}
:(*)原著では1万患者当たり発生率で記載;サイト管理者による換算標記
==3ワクチンが普及する場合に想定されるシナリオ==開発拠点国である米国,英国およびイスラエル等の輸入国では既に接種が開始され,合計で数100万人が接種を終えています. 日本でも2021年2月の接種開始に向けて急ピッチで自治体やプライマリケア医療機関が準備を進めています.ご覧のとおり,3ワクチンよりも日常的な薬剤の方が遙かにアナフィラキシー頻度が高いことがわかります.
3ワクチンが普及していくにつれ,想定されるシナリオを列挙します.新型コロナワクチンで過度にアナフィラキシーをおそれるのは控えるべきでしょう.<br>もちろん,新型コロナワクチンに限らず,'''ワクチン接種時にはアナフィラキシーに備えた薬剤・医療機器の準備と緊急対応訓練を重ねるべき'''であることは,言うまでもありません.
===良いシナリオ===まずは良いシナリオからです.[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
====ワクチンによるパンデミックの終息==変異株に対する効果==当然のことながら良いシナリオとして「COVIDパンデミックがワクチンによってコントロールされていく」ことが浮かびます.英国,南アフリカ共和国,ブラジルを中心に,新型コロナウイルスの変異株の報告が相次いでいます.
ただしこれは,接種が始まったばかりの現段階では,「期待」のレベルでしょう.「月」の単位で得られるシナリオでは到底ありませんし,「確実に○年以内にワクチンがCOVIDを制圧する」と予測することも困難でしょう.いずれも感染性が強くなっている(実行再生産数を数10%以上高くする)ことが示唆され,警戒が必要です.
====ワクチン接種者が発症and/or重症COVIDから守られる=国立感染症研究所による変異株のリスクアセスメント===これは3論文を読む限りでは,ワクチンを接種した人がCOVIDの発症and国立感染症研究所は日本におけるリスクアセスメント等を随時更新しています.*[https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/or重症化から高確率で守られるということは,ほぼ断言できるでしょう.10144-covid19-34.html 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第5報)  2021年1月25日]
予防効果の持続期間は未だ不明ですが,原著3論文にある Kaplan===英国政府による変異株情報のポータル===英国政府サイト「GOV.UK」に変異株のポータルページがあり,情報を一元化して提供しています.*[https://www.gov.uk/government/collections/new-Meier 曲線を見る限りでは,下側に位置する実薬群のなだらかなカーブが,プラス2sars-3ヶ月以内に急激に上向きにシフトして上側のプラセボ群のカーブに近づくという可能性は,低そうです.cov-2-variant GOV.UK|Collection - New COVID-19 (SARS-CoV-2) variants]同じく GOV.UK に Scientific Advisory Group for Emergencies(SAGE)のページがあり,変異株についても最新情報を更新しています.*[https://www.gov.uk/government/organisations/scientific-advisory-group-for-emergencies Scientific Advisory Group for Emergencies]
===悪いシナリオ3ワクチンの変異株に対する効果===悪いシナリオもきちんと想定する必要があります.3ワクチンが変異株にも有効なのか否か,残念ながら true endpoint での評価,すなわち「実薬群とプラセボ群(または認可後の接種者と非接種者)を比較したところ,実薬群(接種者)の方が変異株への感染が少ない」という評価はまだ得られていません.
悪いシナリオを未然に防ぐことは困難ですが,備えをして被害を最小限にとどめる努力は必要でしょう.今のところは,PfizerワクチンとModernaワクチンについて下記のとおり ''in vitro'' の実験が行われているのみです.
{|class="wikitable" style="min-width:600px;"|-!!style="width:30%"|Pfizerワクチン!style=予防効果が長期的に減少していく"width:30%"|Modernaワクチン!style="width:30%"|AstraZenecaワクチン|-!発表|[https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/vitro-studies-demonstrate-pfizer-and-biontech-covid-19 2021年1月27日]|[https://investors.modernatx.com/news-releases/news-release-details/moderna-covid-19-vaccine-retains-neutralizing-activity-against 2021年1月25日]|[https://www.astrazeneca.com/media-centre/articles/2021/covid-19-vaccine-astrazeneca-receives-interim-recommendations-for-use-by-world-health-organization-experts.html 2021年2月10日]|-!概要|style="vertical-align:top;"|*Pfizerワクチン接種者 20名 の血清を用いて,変異株に対する中和反応を検証した*以下の変異を有するSARS-CoV-2をそれぞれ人工的に作成し検証に用いた**英国および南ア変異株に共通する変異(N501Y)**英国変異株の変異(Δ69/70+N501Y+D614G)**南ア変異株の変異(E484K+N501Y+D614G)*20名の血清はすべて,上記3種の人工合成SARS-CoV-2のいずれに対しても中和反応を示し,Pfizerワクチンの変異株に対する有効性が示唆された*南ア変異株の変異に対する中和反応は他の変異に比べるとわずかに弱かったが,ワクチンの効果 vaccine efficacy を有意に減弱させるような差異ではないと判断した|style="vertical-align:top;"|*Modernaワクチン接種者(phase 1参加者) 8名 の血清およびModernaワクチンを接種したサルの血清を用いて,変異株に対する中和抗体価を測定した*以下のSARS-CoV-2変異株を検証に用いた**英国変異株 系統 B.1.1.7**南ア変異株 系統 B.1.351*B.1.1.7変異に対する中和抗体価は充分に高く,過去の変異株に対する中和抗体価と同等であることがわかった*B.1.351変異に対する中和抗体価は過去の変異株に対する中和抗体価の6分の1まで低下していることがわかった*B.1.351変異に対してModernaワクチンは効果が減弱する可能性がある|style="vertical-align:top;"|(変異株が報告されている英国および南アにおいてもAstraZenecaワクチンの接種が推奨されると,WHOのSAGE(予防接種の諮問委員会)が発表したことをリリースしているのみ;''in vitro''検証については言及なし)|-!論文|style="vertical-align:top;"|*[https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.07.425740v1.full Neutralization of N501Y mutant SARS-CoV-2 by BNT162b2 vaccine-elicited sera](※査読前)*[https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.18.426984v1.full Neutralization of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 pseudovirus by BNT162b2 vaccine-elicited human sera](※査読前)*[https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.01.19.21249840v2.full SARS-CoV-2 B.1.1.7 escape from mRNA vaccine-elicited neutralizing antibodies](※査読前)|style="vertical-align:top;"|Kaplan*[https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.01.19.21249840v2.full mRNA vaccine-Meier曲線の印象からは実薬群のカーブが「急激に」上向く可能性は低いと思いますが,徐々に上を向き始めてプラセボ群カーブとの差がだんだん縮まっていく,というシナリオは想定する必要があると思います.elicited antibodies to SARS-CoV-2 and circulating variants](※査読前)*[https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.25.427948v1.full mRNA-1273 vaccine induces neutralizing antibodies against spike mutants from global SARS-CoV-2 variants](※査読前)|}
そもそも新型コロナウイルス SARS-CoV-2 への感染が終生免疫を得るというエビデンスは今のところなく(※世界最初の患者の感染から1年ちょっとしか経ってないんですから当然です),少数ながら2回目の感染例も世界中で報告され続けています.上述のとおり,現時点では ''in vitro'' の結果しか得られていません.
ということは,ワクチンで得た免疫が長期間~生涯にわたって感染を予防してくれる保証もまたないわけです.しかしどんなに悪い方向に考えても,「接種済み者が変異株に感染すると,未接種者よりも悪化する」ということは示唆されません.<br>最も悪いシナリオで,「3ワクチンは変異株に対する予防効果がない」というレベルでしょう.<br>現実には,たとえ効果が減弱するとしても,全く効果がないということにはならないと思われます.
あるいは,ワクチンの性能として長期間もたない可能性もあります.その場合は一定期間ごとに再接種する戦略があり得ますが,再接種がブースターとして機能するかどうかを改めて治験または市販後臨床研究する必要があるでしょう.すると,たとえ変異株に対してでも「接種を控えるべき理由はない」ということは明確に言えます.<br>「あまり効かないかもしれない」ということは,「少しは効くはず」だからです.
====効果が減弱または消失するような変異株が流行する====すでに英国を中心に感染力が増強した変異株が世界の50地域以上で発見されています.減弱した効果でも「効果がある」ならば,接種しない理由はないと言えます.
国立感染症研究所は日本におけるリスクアセスメント等を随時更新しています.変異株とワクチンについては下記の記事にもよくまとめられています.*{{Quote|content=[https://wwwasm.niid.go.jporg/niidArticles/ja2021/diseasesFebruary/ka/coronaSARS-CoV-virus/20192-ncov/10090Variants-covid19vs-30Vaccines Hagen A.html 感染性の増加が懸念されるSARSSARS-CoV-2新規変異株について (第4報)  2021年1月2日]*[2 Variants vs. Vaccines. ASM.org. https://www.niid.goasm.jporg/niidArticles/ja2021/diseasesFebruary/ka/coronaSARS-CoV-virus/20192-ncov/10107Variants-covid19vs-33Vaccines. Published February 5, 2021. Accessed February 12, 2021.html ブラジルからの帰国者から検出された新型コロナウイルスの新規変異株について 2021年1月10日]
現時点では,ワクチンの効果が減弱するようなエビデンスは見つかっていませんが,「エビデンスが見つかっていない状態」であることに留意する必要があります.True endpointとしての効果確認,すなわち「変異株が集中的に流行する人口集団においても3ワクチン接種者はプラセボ(未接種者)に比べてCOVID感染が減少した」ということは確認されていません.時間経過を考えれば当然のことです.
なお,Pfizer/BiONTech社は,下記のような in vitro 実験を行った旨を1月8日付のプレスリリースで発表しています.:[https[#toc|{{#fas://www.pfizer.com/news/presscaret-release/presssquare-releaseup}}{{#fas:caret-detail/vitrosquare-studyup}}{{#fas:caret-showssquare-pfizerup}} 目次に戻る {{#fas:caret-biontechsquare-covidup}}{{#fas:caret-19square-vaccineup}}{{#fas:caret-elicits An In Vitro Study Shows Pfizersquare-BioNTech COVID-19 Vaccine Elicits Antibodies that Neutralize SARS-CoV-2 with a Mutation Associated with Rapid Transmission. January 08, 2021 - 12:00amup}}]]*英国発の変異 N501Y を持つ SARS-CoV-2 を人工合成*治験phase 3の実薬群の参加者20人の血清を用いて変異ウイルスの中和反応を確認*20人の血清はいずれも変異ウイルスおよび変異なしウイルスの双方を中和した
上記実験を好意的に解釈するならば,少なくともPfizerワクチンはN501Y変異株には効く「はず」と言えますが,本当の効果は上述のとおり実際の感染阻止で判断されねばならないので,引き続き注意深く情報収集する必要があります.==今わかっていること,まだわからないこと==3ワクチン論文から効果と有害事象を,さらに認可後の各種報告からアナフィラキシー頻度等を,それぞれ読み取ることができます.
少なくとも,「変異株に効かない可能性に留意はしつつも,それでも今接種を控えるべき理由は何もない」ということは明確に言えます.「今わかっていること」と「まだわからないこと」を改めて整理すると,下記のとおりです.
====重篤有害事象が新たに報告される====3ワクチンの治験では,実薬群に有意な重篤有害事象は報告されませんでした(AstraZenecaワクチンでの横断性脊髄炎1例は関連が否定されていないレベル).判明した結果ばかりに目を奪われず,「まだわからないこと」をしっかり認識することが重要です.
しかし一般的に,ワクチンの重篤有害事象は数100万人~数億人に接種しつつ医師が丁寧に論文等で報告し続けることで,数ヶ月~数年かけて因果関係が検証されていくものです.===論文からわかること===*PfizerとModernaのmRNAワクチンでは,2回目接種の7日or14日後以降の時点で,COVIDの発症(症状が出てから検査・診断されるCOVID)が,約95%の VE で予防できる.*AstraZenecaのウイルスベクターワクチンでは,2回目接種の14日後以降の時点で,COVIDの発症,約60-90%の VE で予防できる.*3ワクチンともに,ワクチンとして当然予想される接種部位疼痛や発熱などの反応性症状はプラセボよりも多く観察されたが,明らかにワクチンが原因と思われる重篤な有害事象は治験期間中には観察されなかった.
せいぜい4万人程度の参加者数と平均2===認可後の各種報告からわかること===*Pfizerワクチンは180万件接種された時点で,100万接種当たり11.1-3ヶ月程度の観察期間では,起こりうる重篤有害事象をすべて発見することは不可能であることを,しっかり認識せねばなりません.17.0件のアナフィラキシーが生じた*Modernaワクチンは400万件接種された時点で,100万接種当たり2.5件のアナフィラキシーが生じた*AstraZenecaワクチンは150万件接種された時点で,100万接種当たり8.7件のアナフィラキシーが生じた
もちろん,時間をかけて因果関係が定まっていく重篤有害事象の頻度は,100万接種当たり数件程度のごく低頻度であることが一般的です.したがって,未知の重篤有害事象を過度に怖がって接種しないのは,得策とは言えません.その低いリスクよりも,第3波の真っただ中でCOVIDに感染してしまうリスクの方が,ずっと高いはずです.===まだわからないこと===*3ワクチンとも,2回目接種から長期間経過後(例えば半年後,1年後,5年後など)でも予防効果が続くのか,いずれ減弱してプラセボとの差がなくなってしまうのか,まだわからない.:※2回目接種からCOVID発症までの治験中の平均追跡期間は,3ワクチンとも40日台~80日台,すなわちせいぜい3ヶ月以内.:※治験参加者をさらに長期間観察すれば長期効果もわかっていくが,世界的大流行が続く中でプラセボ接種者に本当のワクチンを打たないまま1年も2年も経過観察するのが倫理的に許されるのか,議論が出る可能性がある.ただしプラセボ接種者に今後本当のワクチンを接種すれば,その後の長期間の効果は判定不可能になる.*PfizerワクチンとModernaワクチンでは,無症状COVID感染が予防できるのか,まだわからない.**AstraZenecaワクチンでは,[[#結果:効果 vaccine efficacy|無症状COVID感染の予防は検出されなかった]].*3ワクチンとも,他者への感染を予防できるのか,まだわからない.:※悪いシナリオとしては,「3ワクチンで'''発症'''は予防できるが'''他者への感染性'''は予防できない可能性」がある.すなわち集団免疫が獲得できず,接種した個人だけにメリットがある可能性が,今のところは否定できない.*治験参加人数(約1万~4万人)と観察期間の範囲では検出できなかった稀な重篤有害事象が今後報告されるのか,まだわからない.*治験参加人数と観察期間の範囲では検出できなかった[[#抗体依存性感染増強 ADE が新たに報告される|抗体依存性感染増強 ADE]] が今後報告されるのか,まだわからない.*変異株に対してPfizerワクチンとModernaワクチンでは ''in vitro'' での中和反応は小規模に検証されているが,3ワクチンとも実際の接種者での変異株感染の有無を検証できてはおらず,3ワクチンの変異株に対する真の効果は,まだわからない.
個人の選択としては,未知の低頻度な重篤有害事象をおそれて接種しないのではなく,COVIDに感染して生活が著しく阻害されたり生命の危険にさらされるリスクを減らすために接種を受ける方が,ずっと得策でしょう. ====抗体依存性感染増強 ADE が新たに報告される=2021年2月時点ではっきり言えること===コロナウイルスの免疫を語る際には,「抗体依存性感染増強 Antibody-dependent enhancement, ADE」という概念を必ず考えねばなりません.以上を踏まえて,現時点で下記のことははっきり言えるでしょう.
何やら難しい言葉ですが,ざっくり言えばこういうことです.
{{Quote
|content=
<divstyle="font-size:1.2em;>*病原体感染またはワクチン接種で体内で産生されるようになった抗体が,その後に同じ病原体に感染した際に,病原体と相互作用してかえって感染症を悪化させてしまう現象3ワクチンとも,'''16 or 18歳以上の成人が接種することで,60-95% の VE (“割引率”)でCOVIDの発症を予防することができる'''*せっかく獲得した免疫が,かえって仇になって感染症を重症化させるという,トンデモ案件*そのため,'''COVID発症による社会への影響が特に大きい職種の人々'''と,'''COVID発症で重症化や死亡のリスクが特に高い人々'''が,優先的に接種するのが望ましい*3ワクチンとも,'''接種を大いにためらうような重篤な有害事象は今のところ明らかではない'''**むしろ第3波の只中では,'''COVIDに感染して不利益を被ったり生命の危険にさらされるリスクの方が,未知の重篤有害事象よりも高い'''と言える*接種を受けた本人のメリットは明らかであるが,'''他者への感染性を予防するかは未だ不明'''である**よって,ワクチン普及によって'''集団免疫が獲得できるか=周囲が接種することで未接種の人でも守られるかは不明'''である*普及に要する時間と集団免疫不明を考えると,'''社会全体での感染予防策の徹底継続は不可欠である'''
</div>
}}
ADEを起こす病原体は珍しいのですが,コロナウイルスはどうなのか?[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]
コロナウイルスは数多くの動物種に感染することが知られています.何しろ現在のSARS-CoV-2は何かの動物(コウモリ?ヘビ?)だけに感染していたはずのコロナウイルスが変異してヒトにも感染するようになったという仮説がありますし,SARS-CoV-2自体がさらにイヌやネコやミンクやゴリラに感染することがわかっています.==3ワクチンが普及する場合に想定されるシナリオ==開発拠点国である米国,英国およびイスラエル等の輸入国では既に接種が開始され,合計で数100万人が接種を終えています.
ネコだけに感染するネココロナウイルスもあります.日本でも2021年2月の接種開始に向けて急ピッチで自治体やプライマリケア医療機関が準備を進めています.
ネココロナウイルスのうち,ネコ感染性腹膜炎ウイルス(FIPV)というコロナウイルスはその名のとおりネコに重篤な感染性腹膜炎を起こしますが,これがADEによるものであることがわかっています.{{Quote|content=[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6612493/ Takano, Tomomi, Shinji Yamada, Tomoyoshi Doki, and Tsutomu Hohdatsu. “Pathogenesis of Oral Type I Feline Infectious Peritonitis Virus (FIPV) Infection: Antibody-Dependent Enhancement Infection of Cats with Type I FIPV via the Oral Route.”Journal of Veterinary Medical Science 81, no. 6 (April 23, 2019): 911–15. https://doi.org/10.1292/jvms.18-0702.]}}3ワクチンが普及していくにつれ,想定されるシナリオを列挙します.
一方でヒトに感染するコロナウイルス7種のうち,明らかなADEの報告は1種もありません.SARS-CoV-2は少ないながらも2回感染する症例が世界各地から報告されていますが,2回目が重症となった患者は決して多くはなく,今のところSARS-CoV-2がADEを起こすというエビデンスはありません.===良いシナリオ===まずは良いシナリオからです.
ただし,2003年に世界でアウトブレイクを起こしたSARSウイルスでは,ワクチンの開発段階で「開発中のSARSワクチンを接種したサルにおいて,T細胞レベルでの理論的なADEの可能性」が報告されました.{{Quote|content=[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X05000861?via%3Dihub Zhou J, Wang W, Zhong Q, Hou W, Yang Z, Xiao SY, Zhu R, Tang Z, Wang Y, Xian Q, Tang H, Wen L. Immunogenicity, safety, and protective efficacy of an inactivated SARS-associated coronavirus vaccine in rhesus monkeys. Vaccine. 2005 May 2;23(24):3202-9. doi: 10.1016/j.vaccine.2004.11.075. PMID: 15837221; PMCID: PMC7115379.]===ワクチンによるパンデミックの終息====}}当然のことながら良いシナリオとして「COVIDパンデミックがワクチンによってコントロールされていく」ことが浮かびます.
SARSウイルスワクチンはその後SARSそのものが終息したため,ヒトでの治験に進むことはありませんでした.そのためSARSワクチンがヒトで臨床的なADEを起こすのかどうかは不明なままです.ただしこれは,接種が始まったばかりの現段階では,「期待」のレベルでしょう.「月」の単位で得られるシナリオでは到底ありませんし,「確実に○年以内にワクチンがCOVIDを制圧する」と予測することも困難でしょう.
今回の3ワクチンでは治験において「重症COVIDは実薬群で減少するのか,または増加するのか」というエンドポイントが設定されました.実薬群で増加する,すなわち実薬群の方が重症COVIDが多く観察されるなら,ワクチン接種でADEが起きたと疑われるわけです.結果的に重症COVIDは実薬群で有意に少なかったため,少なくとも治験での人数・観察期間ではADEは検出されなかったことになります.====ワクチン接種者が発症and/or重症COVIDから守られる====これは3論文を読む限りでは,ワクチンを接種した人がCOVIDの発症and/or重症化から高確率で守られるということは,ほぼ断言できるでしょう. 予防効果の持続期間は未だ不明ですが,原著3論文にある Kaplan-Meier 曲線を見る限りでは,下側に位置する実薬群のなだらかなカーブが,プラス2-3ヶ月以内に急激に上向きにシフトして上側のプラセボ群のカーブに近づくという可能性は,低そうです.
しかし,あくまで治験では検出されなかっただけです.今後数100万人,数億人と接種した場合に,ADEが後から発見される可能性がまだ残されています.===悪いシナリオ===悪いシナリオもきちんと想定する必要があります.
実際にワクチン開発において,治験では重症化が減少することが観察されたにもかかわらず,市販後の検証でADEの可能性が考えられた事案がありました.<br>デングウイルスに対するワクチン「Dengvaxia」の事案でした.悪いシナリオを未然に防ぐことは困難ですが,備えをして被害を最小限にとどめる努力は必要でしょう.
<hr>=====デングウイルスワクチン「Dengvaxia」の悲劇=予防効果が長期的に減少していく====デングウイルスは以前からヒトにADEを起こすことが知られています.Kaplan-Meier曲線の印象からは実薬群のカーブが「急激に」上向く可能性は低いと思いますが,徐々に上を向き始めてプラセボ群カーブとの差がだんだん縮まっていく,というシナリオは想定する必要があると思います.
デングウイルスには4つの血清型(1型,2型,3型,4型)があり,ヒトは1つ1つの血清型には終生免疫を獲得します.<br>しかし,「最初に感染した血清型に対して産生されるようになった抗体が,2番目に感染した血清型と相互作用して,2回目のデング熱は1回目のデング熱より重症化しやすい」という現象が起きます.これが抗体依存性感染増強,ADEです.そもそも新型コロナウイルス SARS-CoV-2 への感染が終生免疫を得るというエビデンスは今のところなく(※世界最初の患者の感染から1年ちょっとしか経ってないんですから当然です),少数ながら2回目の感染例も世界中で報告され続けています.
デングウイルスのADEは特に小児で起きやすいことがわかっています.<br>例えば,2-14歳の小児 8,002 人を観察したコホートで,デング抗体を有する小児は抗体を持たない小児に比べて,その次のデング感染で重症デング(デング出血熱またはデングショック症候群)に 7.64 倍罹患しやすいという研究があります(信頼区間3.19-18.28).{{Quote|content=[https://science.sciencemag.org/content/early/2017/11/01/science.aan6836?versioned=true Katzelnick LC, Gresh L, Halloran ME, et al. 2017. "Antibody-Dependent Enhancement Of Severe Dengue Disease In Humans". Science 358 (6365): 929-932. doi:10.1126/science.aan6836.]}}ということは,ワクチンで得た免疫が長期間~生涯にわたって感染を予防してくれる保証もまたないわけです.
そのためデングウイルスワクチンの開発に当たっては,「ワクチンで産生された抗体がその後のデング感染でADEを起こさないように設計する」ことが至上命題です.これは開発者にとって高いハードルとなり,デングワクチン実用化には長い時間がかかりました.あるいは,ワクチンの性能として長期間もたない可能性もあります.その場合は一定期間ごとに再接種する戦略があり得ますが,再接種がブースターとして機能するかどうかを改めて治験または市販後臨床研究する必要があるでしょう.
その末に2014年,治験phase 3で ADE が観察されなかったデングワクチンがついに登場しました.{{Quote|content====効果が減弱または消失するような変異株が流行する====[https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(14)61060-6/fulltext Capeding MR, Ngoc Huu Tran, Hadinegoro SRS, et al. 2014. "Clinical Efficacy And Safety Of A Novel Tetravalent Dengue Vaccine In Healthy Children In Asia: A Phase 3, Randomised, Observer-Masked, Placebo-Controlled Trial". The Lancet 384 (9951): 1358-1365. doi:10.1016/s0140-6736(14)61060-6.]}}すでに英国を中心に感染力が増強した変異株が世界の50地域以上で発見されています.
後に商品名「Dengvaxia」と名付けられるこのワクチンは,phase 3でデング感染すべてに対して 56.5% の VE を示しました.さらに,重症デングの1形であるデング出血熱に対する VE も 88.5% と良好な数字を示したのです.<br>今回の3ワクチンと状況は似ています.現在発見されている変異株に対する3ワクチンの効果については,別項「[[#変異株に対する効果]]」をご参照ください.
しかし,翌2015年に発表された下記の治験後長期観察において,不安な結果が報告されました.<br>接種から3年以内のデング感染による入院(※重症化を示唆する指標)を観察したところ,9歳以上の小児および成人ではプラセボに比して入院の相対リスクが 0.50 (95%CI 0.29-0.86) と有意に減少しましたが,9歳未満の小児については入院の相対リスクは 1.58 と上昇しており,「実薬群の方がデング入院が多くなる」という結果となりました.ただし95%信頼区間は 0.83-3.02 と1をまたいだため,統計学的な有意差は認められませんでした.{{Quote|content=[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1506223 Hadinegoro SR, Arredondo-García JL, Capeding MR, et al. 2015. "Efficacy And Long-Term Safety Of A Dengue Vaccine In Regions Of Endemic Disease". New England Journal Of Medicine 373 (13): 1195-1206. doi:10.1056/nejmoa1506223.]}}将来発見される変異株に対して3ワクチンのいずれも効果が減弱してしまう可能性は,常に残されています.
「9歳未満小児で実薬群の方がデングによる入院が増えたが,統計学的有意差はなかった」という微妙な結果に対して,掲載誌の New England Journal of Medicine は掲載号のエディトリアルで警告を発しています.{{Quote|content====重篤有害事象が新たに報告される====[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMe1509442 Simmons, Cameron P. 2015. "A Candidate Dengue Vaccine Walks A Tightrope". New England Journal Of Medicine 373 (13): 1263-1264. doi:10.1056/nejme1509442.]}}3ワクチンの治験では,実薬群に有意な重篤有害事象は報告されませんでした(AstraZenecaワクチンでの横断性脊髄炎1例は関連が否定されていないレベル).
この流れの翌年2016年,フィリピン政府は世界で初めて Dengvaxia を「9歳以上の小児および成人」に限定して定期接種として導入しました.長期観察で9歳以上はデング入院が減少していたためです.しかし一般的に,ワクチンの重篤有害事象は数100万人~数億人に接種しつつ医師が丁寧に論文等で報告し続けることで,数ヶ月~数年かけて因果関係が検証されていくものです.
その後6ヶ月超の間に83万人あまりの小児が Dengvaxia 接種を受けた頃,2017年11月末に製造元の Sanofi Pasteur が重大な発表を行いました.{{Quote|content=[https://www.sanofi.com/en/mediaせいぜい4万人程度の参加者数と平均2-room/press-releases/2017/2017-11-29-17-36-30 Sanofi updates information on dengue vaccine. Press releases. November 29 2017]}}3ヶ月程度の観察期間では,起こりうる重篤有害事象をすべて発見することは不可能であることを,しっかり認識せねばなりません.
Sanofi Pasteurのプレスリリースによると,Dengvaxia のさらなる長期成績を解析したところ,*Dengvaxia接種前に既に1回以上のデング感染歴があった者では,Dengvaxia は2回目以降のデング感染も重症デングも予防する*Dengvaxia接種前にデング感染既往がなかった者では,Dengvaxia 接種後の初めてのデング感染によって,逆に重症デングが増加するという結果が明らかとなったというのです.もちろん,時間をかけて因果関係が定まっていく重篤有害事象の頻度は,100万接種当たり数件程度のごく低頻度であることが一般的です.したがって,未知の重篤有害事象を過度に怖がって接種しないのは,得策とは言えません.その低いリスクよりも,第3波の真っただ中でCOVIDに感染してしまうリスクの方が,ずっと高いはずです.
そして Sanofi Pasteur は Dengvaxia の添付文書を「接種対象者はデング感染既往がある者に限る」と改訂したのでした.個人の選択としては,未知の低頻度な重篤有害事象をおそれて接種しないのではなく,COVIDに感染して生活が著しく阻害されたり生命の危険にさらされるリスクを減らすために接種を受ける方が,ずっと得策でしょう.
Sanofi Pasteur の発表を受けて,フィリピン保健省は2017年12月に Dengvaxia 接種を直ちに中止しました.====抗体依存性感染増強 ADE が新たに報告される====<hr>コロナウイルスの免疫を語る際には,「抗体依存性感染増強 Antibody-dependent enhancement, ADE」という概念を必ず考えねばなりません.
これが史上初のデングウイルスワクチンが辿った悲劇です.悲劇はデングワクチンだけに留まらず,フィリピン全土での“反ワクチン忌避”にまでつながりました([[#Dengvaxia中止がもたらした大規模なワクチン忌避と麻疹死亡増加|後述]]). 今回の3ワクチンでも,数年後に同様の事態が起きる可能性はまだ残されていると言わざるを得ません. ただし,仮に新型コロナワクチンで数年後にADEが報告されたとしても,統計学的な検証で初めて発見されるはずです.治験phase 3で重症COVIDに対する VE が88%超という高い成績を示したわけですから,「ワクチン接種者が短期間に次から次へと重症COVIDを発症していく」のようなシナリオはほぼあり得ないでしょう.それでも,数年後に重症COVID患者に対するワクチン接種という曝露の有無について症例対照研究を行うと,ひょっとしたら統計学的にはワクチン接種者の方が重症化のオッズ比が有意に高くなるかもしれません.Dengvaxiaと同じ道を辿る可能性はまだあるのです. もちろん,そのようにして発見されるADEならば,頻度は相当に低いはずです.であれば,「この重症COVID患者はワクチン接種が原因だ」などと断定することはまず困難でしょう. 未知の重篤有害事象と同じく,相当低頻度と予想される接種後ADEのリスクと接種しない場合の感染リスクを比較すれば,接種によるメリットの方がずっと大きいと考えられます. 個人の選択としては未知のADEへの懸念を理由に接種を控えるのは得策ではありませんが,ワクチンに対する医学的評価としてはADEの可能性は常に検証せねばならないということです. その他,新型コロナとADEについて下記の総説もご参照ください.何やら難しい言葉ですが,ざっくり言えばこういうことです.
{{Quote
|content=
<div>
*[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cyto.a.24047 Ulrich H, Pillat MM, and Tárnok A. 2020. "Dengue Fever, COVID ‐19 ( SARS‐Cov ‐2), And Antibody‐Dependent Enhancement ( ADE ): A Perspective". Cytometry Part A 97 (7): 662-667. doi:10.1002/cyto.a.24047.]病原体感染またはワクチン接種で体内で産生されるようになった抗体が,その後に同じ病原体に感染した際に,病原体と相互作用してかえって感染症を悪化させてしまう現象*[https://www.nature.com/articles/s41564-020-00789-5 Lee WS, Wheatley AK, Kent SJ, et al. 2020. "Antibody-Dependent Enhancement And SARS-Cov-2 Vaccines And Therapies". Nature Microbiology 5 (10): 1185-1191. doi:10.1038/s41564-020-00789-5.]せっかく獲得した免疫が,かえって仇になって感染症を重症化させるという,トンデモ案件
</div>
}}
ADEを起こす病原体は珍しいのですが,コロナウイルスはどうなのか?
 
コロナウイルスは数多くの動物種に感染することが知られています.何しろ現在のSARS-CoV-2は何かの動物(コウモリ?ヘビ?)だけに感染していたはずのコロナウイルスが変異してヒトにも感染するようになったという仮説がありますし,SARS-CoV-2自体がさらにイヌやネコやミンクやゴリラに感染することがわかっています.
<div class="toccolours" style="background-color:lightgoldenrodyellow;">ネコだけに感染するネココロナウイルスもあります.
ネココロナウイルスのうち,ネコ感染性腹膜炎ウイルス(FIPV)というコロナウイルスはその名のとおりネコに重篤な感染性腹膜炎を起こしますが,これがADEによるものであることがわかっています.{{Quote|content=====Dengvaxia中止がもたらした大規模なワクチン忌避と麻疹死亡増加=====[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6612493/ Takano T, Yamada S, Doki T, Hohdatsu T. Pathogenesis of oral type I feline infectious peritonitis virus (FIPV) infection: Antibody-dependent enhancement infection of cats with type I FIPV via the oral route. Journal of Veterinary Medical Science. 2019;81(6):911-915. doi:10.1292/jvms.18-0702]Dengvaxiaの中止はフィリピンで大変な問題となり,市民,特に小児の保護者のワクチン忌避を引き起こしました.}}
現実には,治験ではなく定期接種として接種を受けた小児の大半で過去にデング既往があったかどうかはわかりません.フィリピンでは毎年数10万人がデングに感染するため,発熱してもデングを疑った厳密なウイルス学的診断は殆ど行われず,臨床診断されるのみか受診すらしないケースばかりだからです.<br>よって,Dengvaxia接種児が実際に重症デングに罹患したとしても,それが Dengvaxia による抗体が原因でのADEなのか,初感染であっても Dengvaxia とは関係のない(ADEではない)重症化なのか,はたまた Dengvaxia前に感染歴があって前回感染の抗体によるADEなのか,個々の症例で区別することは困難でした.<br>そもそも研究において統計的にのみ観察された事象について,市中での個々の症例が研究でのどちらの群に相当するのかを区別することは,原理的に不可能です.一方でヒトに感染するコロナウイルス7種のうち,明らかなADEの報告は1種もありません.SARS-CoV-2は少ないながらも2回感染する症例が世界各地から報告されていますが,2回目が重症となった患者は決して多くはなく,今のところSARS-CoV-2がADEを起こすというエビデンスはありません.
しかし,一般市民はそのようには理解しません.Dengvaxia接種児が重症デングになれば,保護者が「うちの子はワクチンのせいで重症化した」と嘆くことは想像に難くありません.また,医療関係者がその保護者の考えを否定することもできません.ただし,2003年に世界でアウトブレイクを起こしたSARSウイルスでは,ワクチンの開発段階で「開発中のSARSワクチンを接種したサルにおいて,T細胞レベルでの理論的なADEの可能性」が報告されました.{{Quote|content=[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X05000861?via%3Dihub Zhou J, Wang W, Zhong Q, et al. Immunogenicity, safety, and protective efficacy of an inactivated SARS-associated coronavirus vaccine in rhesus monkeys. Vaccine. 2005;23(24):3202-3209. doi:10.1016/j.vaccine.2004.11.075 PMID: 15837221; PMCID: PMC7115379.]}}
その結果,「Dengvaxiaは危険なワクチンだ」→「すべてのワクチンが危険だ」と世論がエスカレートしてしまいました.SARSウイルスワクチンはその後SARSそのものが終息したため,ヒトでの治験に進むことはありませんでした.そのためSARSワクチンがヒトで臨床的なADEを起こすのかどうかは不明なままです.
その煽りを最も強く食らったのが,麻疹でした.今回の3ワクチンでは治験において「重症COVIDは実薬群で減少するのか,または増加するのか」というエンドポイントが設定されました.実薬群で増加する,すなわち実薬群の方が重症COVIDが多く観察されるなら,ワクチン接種でADEが起きたと疑われるわけです.結果的に重症COVIDは実薬群で有意に少なかったため,少なくとも治験での人数・観察期間ではADEは検出されなかったことになります.
Dengvaxia中止前の2017年までは,フィリピンでの麻疹含有ワクチンの接種率は80-90%と比較的高く推移していました.特に2017年は89%と良好な成績でした.<br>ところが2018年は67%,2019年でも73%と破滅的に激減しました.:[https://apps.who.int/immunization_monitoring/globalsummary/coverages?c=PHL WHO vaccine-preventable diseases: monitoring system. 2020 global summary - Coverage time series for Philippines (PHL) ]::※「MCV1」参照;他のワクチンも軒並み接種率が激減しています.しかし,あくまで治験では検出されなかっただけです.今後数100万人,数億人と接種した場合に,ADEが後から発見される可能性がまだ残されています.
麻疹は感染力が強い(基本再生産数が12-18;新型コロナは2.5)ため,ワクチン接種率は95%以上を維持しなければ制御できないとされています.70%を割るような落ち込みは,麻疹大流行を間違いなく引き起こします.実際にワクチン開発において,治験では重症化が減少することが観察されたにもかかわらず,市販後の検証でADEの可能性が考えられた事案がありました.<br>実際にフィリピンの麻疹発生数は,2017年2,428人→2018年20,827人→2019年48,525人と,壊滅的に増加しています.:[https://apps.who.int/immunization_monitoring/globalsummary/incidences?c=PHL WHO vaccine-preventable diseases: monitoring system. 2020 global summary - Incidence time series for Philippines (PHL) ]::※「Measles参照」デングウイルスに対するワクチン「Dengvaxia」の事案でした.
[https://en.wikipedia.org/wiki/Dengvaxia_controversy フィリピンにおける Dengvaxia の顛末をまとめた Wikipedia記事]によると,2018年時点で Dengvaxia に由来する重症デング児は 14 人発生したと推定され,うち 3 人が死亡しました.<hr>=====デングウイルスワクチン「Dengvaxia」の悲劇=====デングウイルスは以前からヒトにADEを起こすことが知られています.
これに対して,[https://en.wikipedia.org/wiki/2019_Philippines_measles_outbreak フィリピンの2019年における麻疹アウトブレイクをまとめた Wikipedia記事]によると,2019年4月13日までのわずか4ヶ月あまりだけの集計でも 415 人が麻疹で死亡しています.デングウイルスには4つの血清型(1型,2型,3型,4型)があり,ヒトは1つ1つの血清型には終生免疫を獲得します.<br>しかし,「最初に感染した血清型に対して産生されるようになった抗体が,2番目に感染した血清型と相互作用して,2回目のデング熱は1回目のデング熱より重症化しやすい」という現象が起きます.これが抗体依存性感染増強,ADEです.
死者の数だけで比較するのは不謹慎なのは承知の上で,デングウイルスのADEは特に小児で起きやすいことがわかっています.<br>例えば,2-14歳の小児 8,002 人を観察したコホートで,デング抗体を有する小児は抗体を持たない小児に比べて,その次のデング感染で重症デング(デング出血熱またはデングショック症候群)に 7.64 倍罹患しやすいという研究があります(信頼区間3.19-18.28).{{Quote|content=Dengvaxia由来のADEで3人死亡したことがきっかけで,麻疹ワクチンで守られるはずだった415人(実際にはもっと多数)が死亡した[https://science.sciencemag.org/content/early/2017/11/01/science.aan6836?versioned=true Katzelnick LC, Gresh L, Halloran ME, et al. 2017. "Antibody-Dependent Enhancement Of Severe Dengue Disease In Humans". Science 358 (6365): 929-932. doi:10.1126/science.aan6836.]}}と言わざるを得ないのです.</div>
====重篤有害事象やADEの報告がきっかけでワクチン忌避が起きる====未知の重篤有害事象であれADEであれ,確率でいえば100万接種当たり数件程度,要は数万分の1以下と予想されます.感染拡大を続ける日本で暮らしてコロナに感染する確率は数万分の1よりはずっとずっとずっと大きいはずです.よって個人の選択としては,未知の重篤有害事象等の低いリスクよりもCOVIDに感染する高めのリスクにこそ目を向けて,積極的に接種を受けるべきでしょう.そのためデングウイルスワクチンの開発に当たっては,「ワクチンで産生された抗体がその後のデング感染でADEを起こさないように設計する」ことが至上命題です.これは開発者にとって高いハードルとなり,デングワクチン実用化には長い時間がかかりました.
一方で,それらが広く社会にもたらす影響も忘れてはいけません.その末に2014年,治験phase 3で ADE が観察されなかったデングワクチンがついに登場しました.{{Quote|content=[https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(14)61060-6/fulltext Capeding MR, Ngoc Huu Tran, Hadinegoro SRS, et al. 2014. "Clinical Efficacy And Safety Of A Novel Tetravalent Dengue Vaccine In Healthy Children In Asia: A Phase 3, Randomised, Observer-Masked, Placebo-Controlled Trial". The Lancet 384 (9951): 1358-1365. doi:10.1016/s0140-6736(14)61060-6.]}}
重篤有害事象やADEの報告は,どうしてもマスメディアやSNSの耳目を引きます.センセーショナルに報道されたり,過度に恐れる言説がSNSで広まると,ワクチンに対する忌避反応が社会の中で起きます.後に商品名「Dengvaxia」と名付けられるこのワクチンは,phase 3でデング感染すべてに対して 56.5% の VE を示しました.さらに,重症デングの1形であるデング出血熱に対する VE も 88.5% と良好な数字を示したのです.<br>今回の3ワクチンと状況は似ています.
「コロナワクチンは怖い」「コロナワクチンを打つとコロナに感染するよりひどい目に遭う」などの考え方が広まってしまうと,あっという間に接種控えが起きます.接種控えによって患者が減らないことにつながりかねません.しかし,翌2015年に発表された下記の治験後長期観察において,不安な結果が報告されました.<br>接種から3年以内のデング感染による入院(※重症化を示唆する指標)を観察したところ,9歳以上の小児および成人ではプラセボに比して入院の相対リスクが 0.50 (95%CI 0.29-0.86) と有意に減少しましたが,9歳未満の小児については入院の相対リスクは 1.58 と上昇しており,「実薬群の方がデング入院が多くなる」という結果となりました.ただし95%信頼区間は 0.83-3.02 と1をまたいだため,統計学的な有意差は認められませんでした.{{Quote|content=[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1506223 Hadinegoro SR, Arredondo-García JL, Capeding MR, et al. 2015. "Efficacy And Long-Term Safety Of A Dengue Vaccine In Regions Of Endemic Disease". New England Journal Of Medicine 373 (13): 1195-1206. doi:10.1056/nejmoa1506223.]}}
日本はまさにHPVワクチンでそれを経験しました.未だに接種率が極端に低いままにとどまり,予防できたはずの子宮頸がん患者が多数に上るという試算も出ています.「9歳未満小児で実薬群の方がデングによる入院が増えたが,統計学的有意差はなかった」という微妙な結果に対して,掲載誌の New England Journal of Medicine は掲載号のエディトリアルで警告を発しています.{{Quote|content=[https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMe1509442 Simmons, Cameron P. 2015. "A Candidate Dengue Vaccine Walks A Tightrope". New England Journal Of Medicine 373 (13): 1263-1264. doi:10.1056/nejme1509442.]}}
もっと怖いのは,ワクチン忌避が他のワクチンにまで広がることです.この流れの翌年2016年,フィリピン政府は世界で初めて Dengvaxia を「9歳以上の小児および成人」に限定して定期接種として導入しました.長期観察で9歳以上はデング入院が減少していたためです.
フィリピンでは前述のデングワクチンの撤回がきっかけで全土で広範囲なワクチン忌避が巻き起こり,乳幼児の麻疹ワクチン接種が激減しました.その結果,麻疹患者が激増し,麻疹による乳幼児死亡が激増したのです.麻疹による死亡数がデングワクチンによる死亡数を遥かに上回るという悲劇が生まれました.その後6ヶ月超の間に83万人あまりの小児が Dengvaxia 接種を受けた頃,2017年11月末に製造元の Sanofi Pasteur が重大な発表を行いました.{{Quote|content=[https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2017/2017-11-29-17-36-30 Bollack L. Sanofi updates information on dengue vaccine. Sanofi. https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2017/2017-11-29-17-36-30. Published November 29, 2017. Accessed January 20, 2021. ]}}
COVIDワクチンの重篤有害事象は必ず何かは報告されることでしょう.その時に医療職がどう行動できるかで,ワクチン忌避をどれだけ小さくできるかが決まります.Sanofi Pasteurのプレスリリースによると,Dengvaxia のさらなる長期成績を解析したところ,*Dengvaxia接種前に既に1回以上のデング感染歴があった者では,Dengvaxia は2回目以降のデング感染も重症デングも予防する*Dengvaxia接種前にデング感染既往がなかった者では,Dengvaxia 接種後の初めてのデング感染によって,逆に重症デングが増加するという結果が明らかとなったというのです.
今から備えるべきでしょう.そして Sanofi Pasteur は Dengvaxia の添付文書を「接種対象者はデング感染既往がある者に限る」と改訂したのでした.
====国際渡航その他の場面で接種を要求(強要)されたり差別が起きる====Sanofi Pasteur の発表を受けて,フィリピン保健省は2017年12月に Dengvaxia 接種を直ちに中止しました.ワクチンが人の行動の制限条件にされてしまうおそれもあります.<hr>
たとえば国際渡航において,自国への入国条件としてワクチン接種を義務付ける国が出現するかもしれません.その場合,医学的な理由で接種できなかったり,個人の信条で接種しない人が,渡航できないなどの不利益を被ることになります.:※現在は,一部の国・地域において入国の際に義務付けられる可能性があるワクチンとして,黄熱,髄膜炎菌,ポリオがあります.これが史上初のデングウイルスワクチンが辿った悲劇です.悲劇はデングワクチンだけに留まらず,フィリピン全土での“反ワクチン忌避”にまでつながりました([[#Dengvaxia中止がもたらした大規模なワクチン忌避と麻疹死亡増加|後述]]).
就職,進学,その他集団への所属に際して,接種を求める相手方が現れるかもしれません.接種しなければ所属を許さない,あるいは接種しない人の待遇を不当に下げる,などが起こりえます.今回の3ワクチンでも,数年後に同様の事態が起きる可能性はまだ残されていると言わざるを得ません.
さらには,未接種の人や敢えて接種しない人を排除したり差別する風潮も生まれるかもしれません.ただし,仮に新型コロナワクチンで数年後にADEが報告されたとしても,統計学的な検証で初めて発見されるはずです.治験phase 3で重症COVIDに対する VE が88%超という高い成績を示したわけですから,「ワクチン接種者が短期間に次から次へと重症COVIDを発症していく」のようなシナリオはほぼあり得ないでしょう.それでも,数年後に重症COVID患者に対するワクチン接種という曝露の有無について症例対照研究を行うと,ひょっとしたら統計学的にはワクチン接種者の方が重症化のオッズ比が有意に高くなるかもしれません.Dengvaxiaと同じ道を辿る可能性はまだあるのです.
国際渡航での義務付けはさておき,後者のおそれは仮に起きたとしても社会の大きな趨勢になる可能性は低いでしょう.社会の中の限られた環境,限られた関係性の中で起きると思います.でもそれによって被害や不利益を被る人々に医療職は関心を寄せるべきですし,少なくとも我々はそうした被害や不利益を与える側に回ってはいけません.もちろん,そのようにして発見されるADEならば,頻度は相当に低いはずです.であれば,「この重症COVID患者はワクチン接種が原因だ」などと断定することはまず困難でしょう.
====接種済みを“免罪符”と勘違いして感染予防策を無視する人が増える====コロナパンデミックは様々な形で社会の分断を浮き彫りにしています.未知の重篤有害事象と同じく,相当低頻度と予想される接種後ADEのリスクと接種しない場合の感染リスクを比較すれば,接種によるメリットの方がずっと大きいと考えられます.
もしも接種済みの人が,「自分はワクチンを打ったんだからもうコロナにはかからない,だから自粛もしないしやりたいことは何でもする」という行動をしたらどうなるか.<br>それは新たな分断の基になるかもしれません.個人の選択としては未知のADEへの懸念を理由に接種を控えるのは得策ではありませんが,ワクチンに対する医学的評価としてはADEの可能性は常に検証せねばならないということです.
医学的に考えても,3ワクチンの効果は決して100%ではないので,接種したとしても従来どおりの感染予防策は変わらず続けるべきです.また他者への感染性を下げるかどうかは全く分かっていないので,「接種済みの人に感染はしたが本人は発症せず,周囲の人には大量に感染させてクラスターを作った」ということも起こりえます.その他,新型コロナとADEについて下記の総説もご参照ください.{{Quote接種を受けた人も,接種が進んだ社会であっても,感染予防策は変わらず継続していただきたいですし,継続すべきです.|content=<div>*[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cyto.a.24047 Ulrich H, Pillat MM, and Tárnok A. 2020. "Dengue Fever, COVID ‐19 ( SARS‐Cov ‐2), And Antibody‐Dependent Enhancement ( ADE ): A Perspective". Cytometry Part A 97 (7): 662-667. doi:10.1002/cyto.a.24047.]*[https://www.nature.com/articles/s41564-020-00789-5 Lee WS, Wheatley AK, Kent SJ, et al. 2020. "Antibody-Dependent Enhancement And SARS-Cov-2 Vaccines And Therapies". Nature Microbiology 5 (10): 1185-1191. doi:10.1038/s41564-020-00789-5.]</div>}}
感染予防策をしなくてもよくなるのは,日本が,世界が,完全にコロナをコントロールし切った後なのです.<br>
決して,ワクチンを打った後ではないのです.
<div class="toccolours" style=3ワクチン普及への現実のハードル==前述のとおりさまざまなシナリオを想定する必要がありますが,それとは別に,現実的なハードルもまた見据える必要があります."background-color:lightgoldenrodyellow;">
===ロジスティクス==Dengvaxia中止がもたらした大規模なワクチン忌避と麻疹死亡増加=====何といってもロジスティクス,すなわち,輸入または製造,国家検定,輸送,個々の接種機関への配布,保管保存,接種場所と接種時間の確保,接種人員の確保と通常診療とのバランス,接種順位の決定と公平性の確保,有害事象の報告システム,重篤有害事象時の国家補償の給付,エトセトラ,エトセトラ.Dengvaxiaの中止はフィリピンで大変な問題となり,市民,特に小児の保護者のワクチン忌避を引き起こしました.
全く新しいワクチンを一気に広範囲に接種するわけですから,準備しなければならない要素が山盛りです.現に,自治体/保健所と地域医療機関(特にプライマリケア医療機関)は今,てんてこ舞いになって準備を進めてくださっています.現実には,治験ではなく定期接種として接種を受けた小児の大半で過去にデング既往があったかどうかはわかりません.フィリピンでは毎年数10万人がデングに感染するため,発熱してもデングを疑った厳密なウイルス学的診断は殆ど行われず,臨床診断されるのみか受診すらしないケースばかりだからです.<br>よって,Dengvaxia接種児が実際に重症デングに罹患したとしても,それが Dengvaxia による抗体が原因でのADEなのか,初感染であっても Dengvaxia とは関係のない(ADEではない)重症化なのか,はたまた Dengvaxia前に感染歴があって前回感染の抗体によるADEなのか,個々の症例で区別することは困難でした.<br>そもそも研究において統計的にのみ観察された事象について,市中での個々の症例が研究でのどちらの群に相当するのかを区別することは,原理的に不可能です.
またPfizerワクチンは長期保管温度はマイナス70℃とされ,輸送時の専用車や大量ドライアイスの調達,接種機関での超低温冷凍庫(deep freezerと呼ばれるもの)の購入と設置など,従来ワクチンとは異なる体制や機器を新たに整備せねばなりません.しかし,一般市民はそのようには理解しません.Dengvaxia接種児が重症デングになれば,保護者が「うちの子はワクチンのせいで重症化した」と嘆くことは想像に難くありません.また,医療関係者がその保護者の考えを否定することもできません.
ロジスティクスの確立と維持改善に,行政と医療機関は相当な労力を要することでしょう.その結果,「Dengvaxiaは危険なワクチンだ」→「すべてのワクチンが危険だ」と世論がエスカレートしてしまいました.
===人口が多い国ほど接種完了までに時間がかかる===当然のことですが,人口が多ければ多いほど,ワクチンが必要人口に行き渡るまでに長期間を要します.その煽りを最も強く食らったのが,麻疹でした.
コロナ前の日本では,毎冬約2,000万Dengvaxia中止前の2017年までは,フィリピンでの麻疹含有ワクチンの接種率は80-2,500万本のインフルエンザワクチンが接種されていました.接種が集中するのは10月後半から1月前半ぐらいですから,1ヶ月あたり80090%と比較的高く推移していました.特に2017年は89%と良好な成績でした.<br>ところが2018年は67%,2019年でも73%と破滅的に激減しました.:[https://apps.who.int/immunization_monitoring/globalsummary/coverages?c=PHL WHO vaccine-1,000万本ほど接種されていたことになります.簡単に言えば,日本の医療機関はその程度のワクチン接種能力があることになります.preventable diseases: monitoring system. 2020 global summary - Coverage time series for Philippines (PHL) ]::※「MCV1」参照;他のワクチンも軒並み接種率が激減しています.
しかし実際はそうならないでしょう.インフルエンザワクチンは打つ方も打たれる方も「勝手がわかっている」ために,効率よく大量接種できました.それも,接種機関は目も回るような忙しさに歯を食いしばって耐えて,その数字でした.麻疹は感染力が強い(基本再生産数が12-18;新型コロナは2.5)ため,ワクチン接種率は95%以上を維持しなければ制御できないとされています.70%を割るような落ち込みは,麻疹大流行を間違いなく引き起こします.<br>実際にフィリピンの麻疹発生数は,2017年2,428人→2018年20,827人→2019年48,525人と,壊滅的に増加しています.:[https://apps.who.int/immunization_monitoring/globalsummary/incidences?c=PHL WHO vaccine-preventable diseases: monitoring system. 2020 global summary - Incidence time series for Philippines (PHL) ]::※「Measles参照」
一方でCOVIDワクチンは何もかもが初めてですから,1人当たりの接種時間はインフルエンザワクチンの数倍かかるでしょう.しかも,コロナ患者が一般診療所でも次々に発見されるような流行状況では,ワクチン接種に多くの時間・人員・エネルギーを割くことができません.[https://en.wikipedia.org/wiki/Dengvaxia_controversy フィリピンにおける Dengvaxia の顛末をまとめた Wikipedia記事]によると,2018年時点で Dengvaxia に由来する重症デング児は 14 人発生したと推定され,うち 3 人が死亡しました.
よって,少なくとも最初の数ヶ月は,800-1,000万これに対して,[https:/月のような接種数はとても無理だと思われます./en.wikipedia.org/wiki/2019_Philippines_measles_outbreak フィリピンの2019年における麻疹アウトブレイクをまとめた Wikipedia記事]によると,2019年4月13日までのわずか4ヶ月あまりだけの集計でも 415 人が麻疹で死亡しています.
では仮に日本全国で1ヶ月当たり300万件接種できたとしたら?人口1億2500万人のうち,対象者が9,000万人だったとしても,2回接種の完遂までに実に60ヶ月,5年かかってしまいます.死者の数だけで比較するのは不謹慎なのは承知の上で,{{Quote|content=Dengvaxia由来のADEで3人死亡したことがきっかけで,麻疹ワクチンで守られるはずだった415人(実際にはもっと多数)が死亡した}}と言わざるを得ないのです.</div>
倍の600万接種/月でも,30ヶ月,2年以上かかります.====重篤有害事象やADEの報告がきっかけでワクチン忌避が起きる====未知の重篤有害事象であれADEであれ,確率でいえば100万接種当たり数件程度,要は数万分の1以下と予想されます.感染拡大を続ける日本で暮らしてコロナに感染する確率は数万分の1よりはずっとずっとずっと大きいはずです.よって個人の選択としては,未知の重篤有害事象等の低いリスクよりもCOVIDに感染する高めのリスクにこそ目を向けて,積極的に接種を受けるべきでしょう.
上述のアナフィラキシーの項でも見たとおり,米国では最初の10日間で180万件接種しましたが,その殆どが医療従事者でした.接種が最もスムーズに行われるはずの集団です.仮にそのペースを米国が全市民にも維持できたとしても,月に600万件弱です.人口3億1000万のうち対象者が仮に2億5000万だとして,2回接種完遂まで83ヶ月,7年近くです.一方で,それらが広く社会にもたらす影響も忘れてはいけません.
ロジスティクスその他の工夫を各国が積み上げることで接種速度は速まっていくことでしょうが,必要人口をカバーできるまでに相当な時間がかかることは覚悟せねばならないでしょう.重篤有害事象やADEの報告は,どうしてもマスメディアやSNSの耳目を引きます.センセーショナルに報道されたり,過度に恐れる言説がSNSで広まると,ワクチンに対する忌避反応が社会の中で起きます.
===感染者数が少ない国ではワクチンの効果を国として実感しにくい===「コロナワクチンは怖い」「コロナワクチンを打つとコロナに感染するよりひどい目に遭う」などの考え方が広まってしまうと,あっという間に接種控えが起きます.接種控えによって患者が減らないことにつながりかねません.
日本はまさにHPVワクチンでそれを経験しました.未だに接種率が極端に低いままにとどまり,予防できたはずの子宮頸がん患者が多数に上るという試算も出ています. もっと怖いのは,ワクチン忌避が他のワクチンにまで広がることです. フィリピンでは前述のデングワクチンの撤回がきっかけで全土で広範囲なワクチン忌避が巻き起こり,乳幼児の麻疹ワクチン接種が激減しました.その結果,麻疹患者が激増し,麻疹による乳幼児死亡が激増したのです.麻疹による死亡数がデングワクチンによる死亡数を遥かに上回るという悲劇が生まれました. COVIDワクチンの重篤有害事象は必ず何かは報告されることでしょう.その時に医療職がどう行動できるかで,ワクチン忌避をどれだけ小さくできるかが決まります. 今から備えるべきでしょう. ====国際渡航その他の場面で接種を要求(強要)されたり差別が起きる====ワクチンが人の行動の制限条件にされてしまうおそれもあります. たとえば国際渡航において,自国への入国条件としてワクチン接種を義務付ける国が出現するかもしれません.その場合,医学的な理由で接種できなかったり,個人の信条で接種しない人が,渡航できないなどの不利益を被ることになります.:※現在は,一部の国・地域において入国の際に義務付けられる可能性があるワクチンとして,黄熱,髄膜炎菌,ポリオがあります. 就職,進学,その他集団への所属に際して,接種を求める相手方が現れるかもしれません.接種しなければ所属を許さない,あるいは接種しない人の待遇を不当に下げる,などが起こりえます. さらには,未接種の人や敢えて接種しない人を排除したり差別する風潮も生まれるかもしれません. 国際渡航での義務付けはさておき,後者のおそれは仮に起きたとしても社会の大きな趨勢になる可能性は低いでしょう.社会の中の限られた環境,限られた関係性の中で起きると思います.でもそれによって被害や不利益を被る人々に医療職は関心を寄せるべきですし,少なくとも我々はそうした被害や不利益を与える側に回ってはいけません. ====接種済みを“免罪符”と勘違いして感染予防策を無視する人が増える====コロナパンデミックは様々な形で社会の分断を浮き彫りにしています. もしも接種済みの人が,「自分はワクチンを打ったんだからもうコロナにはかからない,だから自粛もしないしやりたいことは何でもする」という行動をしたらどうなるか.<br>それは新たな分断の基になるかもしれません. 医学的に考えても,3ワクチンの効果は決して100%ではないので,接種したとしても従来どおりの感染予防策は変わらず続けるべきです.また他者への感染性を下げるかどうかは全く分かっていないので,「接種済みの人に感染はしたが本人は発症せず,周囲の人には大量に感染させてクラスターを作った」ということも起こりえます. 接種を受けた人も,接種が進んだ社会であっても,感染予防策は変わらず継続していただきたいですし,継続すべきです. 感染予防策をしなくてもよくなるのは,日本が,世界が,完全にコロナをコントロールし切った後なのです.<br>決して,ワクチンを打った後ではないのです. [[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]] ==3ワクチン普及への現実のハードル==前述のとおりさまざまなシナリオを想定する必要がありますが,それとは別に,現実的なハードルもまた見据える必要があります. ===ロジスティクス===何といってもロジスティクス,すなわち,輸入または製造,国家検定,輸送,個々の接種機関への配布,保管保存,接種場所と接種時間の確保,接種人員の確保と通常診療とのバランス,接種順位の決定と公平性の確保,有害事象の報告システム,重篤有害事象時の国家補償の給付,エトセトラ,エトセトラ. 全く新しいワクチンを一気に広範囲に接種するわけですから,準備しなければならない要素が山盛りです.現に,自治体/保健所と地域医療機関(特にプライマリケア医療機関)は今,てんてこ舞いになって準備を進めてくださっています. またPfizerワクチンは長期保管温度はマイナス70℃とされ,輸送時の専用車や大量ドライアイスの調達,接種機関での超低温冷凍庫(deep freezerと呼ばれるもの)の購入と設置など,従来ワクチンとは異なる体制や機器を新たに整備せねばなりません. ロジスティクスの確立と維持改善に,行政と医療機関は相当な労力を要することでしょう. ===人口が多い国ほど接種完了までに時間がかかる===当然のことですが,人口が多ければ多いほど,ワクチンが必要人口に行き渡るまでに長期間を要します. コロナ前の日本では,毎冬約2,000万-2,500万本のインフルエンザワクチンが接種されていました.接種が集中するのは10月後半から1月前半ぐらいですから,1ヶ月あたり800-1,000万本ほど接種されていたことになります.簡単に言えば,日本の医療機関はその程度のワクチン接種能力があることになります. しかし実際はそうならないでしょう.インフルエンザワクチンは打つ方も打たれる方も「勝手がわかっている」ために,効率よく大量接種できました.それも,接種機関は目も回るような忙しさに歯を食いしばって耐えて,その数字でした. 一方でCOVIDワクチンは何もかもが初めてですから,1人当たりの接種時間はインフルエンザワクチンの数倍かかるでしょう.しかも,コロナ患者が一般診療所でも次々に発見されるような流行状況では,ワクチン接種に多くの時間・人員・エネルギーを割くことができません. よって,少なくとも最初の数ヶ月は,800-1,000万/月のような接種数はとても無理だと思われます. では仮に日本全国で1ヶ月当たり300万件接種できたとしたら?人口1億2500万人のうち,対象者が9,000万人だったとしても,2回接種の完遂までに実に60ヶ月,5年かかってしまいます. 倍の600万接種/月でも,30ヶ月,2年以上かかります. 上述のアナフィラキシーの項でも見たとおり,米国では最初の10日間で180万件接種しましたが,その殆どが医療従事者でした.接種が最もスムーズに行われるはずの集団です.仮にそのペースを米国が全市民にも維持できたとしても,月に600万件弱です.人口3億1000万のうち対象者が仮に2億5000万だとして,2回接種完遂まで83ヶ月,7年近くです. ロジスティクスその他の工夫を各国が積み上げることで接種速度は速まっていくことでしょうが,必要人口をカバーできるまでに相当な時間がかかることは覚悟せねばならないでしょう. ===感染者数が少ない国ではワクチンの効果を国として実感しにくい=== 必要人口に行き渡るまでに時間がかかる一方で,感染者数が相対的に少ない国・地域ではワクチンの普及そのものの効果を実感しにくいという現象が起きます. 米国や英国はロックダウン政策すら効かないような感染爆発に襲われており,現在ではワクチンだけが唯一の制御手段となってしまっています.その場合,ワクチンの普及につれて感染者の増加カーブが次第に緩くなって減少に転ずる日が来るはずなので,ワクチンの国全体での効果を実感できることでしょう. しかし例えば,完全と言っていいほどの感染制御に成功している台湾でワクチンを打ったら?すでに患者が殆ど出ていない状況ですから,当然ワクチンの効果を「実感」することは不可能です.より強い安心を得ることはできますが. では日本ではどうでしょう? 第3波が急激に悪化しつつありますが,緊急事態宣言が首都圏に始まり複数都府県で順次再発令され,人々の行動が再び制限されつつある今,仮にワクチンが短期間で普及したとしても,それが人々の接触減のおかげなのかワクチンの効果なのか区別は困難だと思います.効果を区別するには,理論疫学を専門にされる先生方の解析に頼るしかなさそうです. ワクチンの効果が国として実感できない場合,市民のワクチンへの信頼度が高まるかどうか不安があります.「なんかワクチン始まってるらしいけど,全体的に効いてるのかどうかわかんないよね,だったら打たなくていいんじゃないの?」という風潮が生まれると,全体に効果が出るはずのものも出なくなってしまいます. これを乗り越えるには,行政や医療職が丁寧に説明を続けて市民の理解を得られ続けるよう努力するしかありません.  [[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]] ==日本でのコロナワクチン接種体制について==(under construction ごめんなさい💦)===政府機関サイト==={|class="wikitable"|-!style="text-align:left;"|厚生労働省|-|[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html 新型コロナワクチンについて]<br>├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html 接種についてのお知らせ]<br>│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_iryoujuujisha.html 医療従事者等への接種について]<br>├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_yuukousei_anzensei.html 新型コロナワクチンの有効性・安全性について]<br>│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html 新型コロナワクチンの副反応疑い報告について]<br>├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00222.html Q&A]<br>├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00223.html 開発状況について]<br>├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html#h2_free7 自治体・医療機関・その他関係機関向けのお知らせ]<br>│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_notifications.html 自治体向け通知・事務連絡等]<br>│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_iryoukikanheno_oshirase.html 医療機関向けのお知らせ]<br>│ └ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00225.html その他関係機関向けのお知らせ]<br>├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html#h2_free8 新型コロナワクチンの予診票・説明書・情報提供資材]<br>├ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_shingikaietc.html 審議会・検討会等]<br>└ [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html 厚生労働省|新型コロナウイルス感染症のワクチンについて#h2_free11 その他(報道発表、接種実績等)]|-|[https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji_127852.html 薬事・食品衛生審議会(医薬品第二部会)]:※新型コロナワクチンの承認(特例承認)を審査する厚生労働大臣諮問機関|-!style="text-align:left;"|首相官邸|-|[https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html 新型コロナワクチンについて]|} ===改正予防接種法における扱い===令和2(2020)年12月9日に予防接種法が改正・公布され,即日施行されました([https://kanpou.npb.go.jp/old/20201209/20201209g00256/20201209g002560012f.html 令和2年法律第75号]). さらに,2021年2月14日にPfizerワクチン[https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210212001/navi.html 「コミナティ筋注」が特例承認された]ことを踏まえ,令和3(2021)年2月16日に予防接種法施行令(政令)および予防接種法施行規則(症例)が改正・公布され,即日施行されました([https://kanpou.npb.go.jp/20210216/20210216t00014/20210216t000140001f.html 令和3年政令第31号および厚生労働省令第34号]). これらの改正および法解釈の要点は下記のとおりです.{{Quote|content=<div style="font-size:1.2em;">*新型コロナワクチンは予防接種法に基づく「'''臨時接種'''」として,'''市町村の事業'''として実施される.*すべての費用を'''国が負担'''する.*臨時接種の対象者には「まん延防止のために接種を受ける'''努力義務'''」があるが,'''妊婦は努力義務から除外'''されている.*'''努力義務には罰則がない'''ため,接種を受けるか否かは'''実質的に個人の判断に任されている'''.*重篤有害事象により死亡または障害が残った場合は,'''予防接種法に基づく救済措置'''(医療費,手当,年金等の給付)が行われる.*2021年2月現在,臨時接種に使用するワクチンはPfizerの'''コミナティ筋注'''のみである.</div>}}詳しくは次節の詳細をご覧ください. ====改正予防接種法,同施行令,同施行規則の詳細====[https://kanpou.npb.go.jp/old/20201209/20201209g00256/20201209g002560012f.html 官報に掲載された改正内容]に従い,新型コロナワクチンに限定して[https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000068 改正前の予防接種法(2021年2月17日閲覧)]を読み替えると,下表のようになります. <u>下線</u>は改正または新設された条文,'''太字'''は改正による読み替えです.なお,冗長かつ読み替えに支障がない文言は一部明示的に省略しています. {|class="wikitable mw-collapsible mw-collapsed" style="min-width:500px;"|+<div style="background-color:lavender;">改正予防接種法の読み替え</div>|-!style="width:7em;"|条文!style="width:40%;"|改正後!style="width:40%;"|改正前|-!第6条<br>(臨時に行う予防接種)|1 '''厚生労働大臣'''は、'''新型コロナウイルス感染症'''のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間'''及び使用するワクチン(中略)'''を指定して、'''都道府県知事を通じて市町村長に対し、'''臨時に予防接種を'''行うよう'''指示することができる。 (2・3省略)|style="vertical-align:top;"|1 都道府県知事は、A類疾病及びB類疾病のうち厚生労働大臣が定めるもののまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間を指定して、臨時に予防接種を行い、又は市町村長に行うよう指示することができる。 (2・3省略)|-!第8条<br>(予防接種の勧奨)|1 市町村長又は都道府県知事は、(中略)第6条第1項若しくは第3項の規定による予防接種の対象者に対し、(中略)臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。 2 市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に(中略)臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。 '''(上記の規定は)新型コロナウイルス感染症のまん延の状況並びに当該感染症に係る予防接種の有効性及び安全性に関する情報その他の情報を踏まえ、政令で、当該規定ごとに対象者を指定して適用しないこととすることができる。'''(改正 附則第7条第4項)|style="vertical-align:top;"|1 市町村長又は都道府県知事は、(中略)第6条第1項若しくは第3項の規定による予防接種の対象者に対し、(中略)臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。 2 市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に(中略)臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。|-!第9条<br>(予防接種を受ける努力義務)|1 (中略)第6条第1項の規定による予防接種の対象者は、(中略)臨時の予防接種(中略)を受けるよう努めなければならない。 2 前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者は、その者に(中略)臨時の予防接種(中略)を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 '''(上記の規定は)新型コロナウイルス感染症のまん延の状況並びに当該感染症に係る予防接種の有効性及び安全性に関する情報その他の情報を踏まえ、政令で、当該規定ごとに対象者を指定して適用しないこととすることができる。'''(改正 附則第7条第4項)|style="vertical-align:top;"|1 (中略)第6条第1項の規定による予防接種の対象者は、(中略)臨時の予防接種(中略)を受けるよう努めなければならない。 2 前項の対象者が16歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者は、その者に(中略)臨時の予防接種(中略)を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。|-!第13条<br>(定期の予防接種等の適正な実施のための措置)|(1~3省略) 4 厚生労働大臣は、定期の予防接種等の適正な実施のため必要があると認めるときは、地方公共団体、病院又は診療所の開設者、医師、ワクチン製造販売業者(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(中略)第12条第1項の医薬品の製造販売業の許可を受けた者であって、ワクチンの製造販売(中略)について、同法第14条の承認を受けているもの(中略)'''又は同法第19条の2第1項の承認を受けているもの(当該承認を受けようとするものを含む。)が同条第3項の規定により選任したもの'''をいう。第23条第5項において同じ。)、定期の予防接種等を受けた者又はその保護者その他の関係者に対して前項の規定による調査を実施するため必要な協力を求めることができる。|style="vertical-align:top;"|(1~3省略) 4 厚生労働大臣は、定期の予防接種等の適正な実施のため必要があると認めるときは、地方公共団体、病院又は診療所の開設者、医師、ワクチン製造販売業者(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(中略)第12条第1項の医薬品の製造販売業の許可を受けた者であって、ワクチンの製造販売(中略)について、同法第14条の承認を受けているもの(中略)をいう。第23条第5項において同じ。)、定期の予防接種等を受けた者又はその保護者その他の関係者に対して前項の規定による調査を実施するため必要な協力を求めることができる。|-!第16条<br>(給付の範囲)|style="vertical-align:top;"|1 '''新型コロナウイルス感染症'''に係る臨時の予防接種を受けたことによる疾病、障害又は死亡について行う前条第1項の規定による給付は、次の各号に掲げるとおりとし、それぞれ当該各号に定める者に対して行う。<br>一 医療費及び医療手当 予防接種を受けたことによる疾病について医療を受ける者<br>二 障害児養育年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳未満の者を養育する者<br>三 障害年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳以上の者<br>四 死亡一時金 予防接種を受けたことにより死亡した者の政令で定める遺族<br>五 葬祭料 予防接種を受けたことにより死亡した者の葬祭を行う者|style="vertical-align:top;"|1 A類疾病に係る定期の予防接種等又はB類疾病に係る臨時の予防接種を受けたことによる疾病、障害又は死亡について行う前条第1項の規定による給付は、次の各号に掲げるとおりとし、それぞれ当該各号に定める者に対して行う。<br>一 医療費及び医療手当 予防接種を受けたことによる疾病について医療を受ける者<br>二 障害児養育年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳未満の者を養育する者<br>三 障害年金 予防接種を受けたことにより政令で定める程度の障害の状態にある18歳以上の者<br>四 死亡一時金 予防接種を受けたことにより死亡した者の政令で定める遺族<br>五 葬祭料 予防接種を受けたことにより死亡した者の葬祭を行う者|-!第25条<br>(予防接種等に要する費用の支弁)|style="vertical-align:top;"|1 この法律の定めるところにより予防接種を行うために要する費用は、'''市町村'''の支弁とする。'''市町村が支弁する費用は、国が負担する。''' 2 給付に要する費用は、市町村の支弁とする。|style="vertical-align:top;"|1 この法律の定めるところにより予防接種を行うために要する費用は、市町村(第六条第一項の規定による予防接種については、都道府県又は市町村)の支弁とする。 2 給付に要する費用は、市町村の支弁とする。|-!第29条<br>(事務の区分)|1 第6条<u>及び附則第7条第1項</u>の規定により都道府県が処理することとされている事務並びに<u>第6条第1項</u>及び第3項、第15条第1項<u>(附則第7条第2項の規定により適用する場合を含む。)、第18条(附則第7条第2項の規定により適用する場合を含む。)、第19条第1項(附則第7条第2項の規定により適用する場合を含む。)並びに附則第7条第1項</u>の規定により市町村が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務とする。|style="vertical-align:top;"|1 第6条の規定により都道府県が処理することとされている事務並びに同条第1項及び第3項、第15条第1項、第18条並びに第19条第1項の規定により市町村が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務とする。|-!附則第7条<br>(新型コロナウイルス感染症に係る予防接種に関する特例)|<u>1 厚生労働大臣は、新型コロナウイルス感染症(中略)のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者、その期日又は期間及び使用するワクチン(その有効性及び安全性に関する情報その他の情報に鑑み、厚生労働省令で定めるものに限る。)を指定して、都道府県知事を通じて市町村長に対し、臨時に予防接種を行うよう指示することができる。この場合において、都道府県知事は、当該都道府県の区域内で円滑に当該予防接種が行われるよう、当該市町村長に対し、必要な協力をするものとする。 2 前項の規定による予防接種は、第6条第1項の規定による予防接種とみなして、この法律(第26条及び第27条を除く。)の規定を適用する。この場合において、第13条第4項中「含む。)」とあるのは「含む。)又は同法第19条の2第1項の承認を受けているもの(当該承認を受けようとするものを含む。)が同条第3項の規定により選任したもの」と、第16条第1項中「A類疾病に係る定期の予防接種等又はB類疾病」とあるのは「新型コロナウイルス感染症(中略)」と、第25条第1項中「市町村(第6条第1項の規定による予防接種については、都道府県又は市町村)」とあるのは「市町村」とする。 3 前項の規定により読み替えて適用する第25条の規定により市町村が支弁する費用は、国が負担する。 4 第1項の規定による予防接種については、第2項の規定により適用する第8条又は第9条の規定は、新型コロナウイルス感染症のまん延の状況並びに当該感染症に係る予防接種の有効性及び安全性に関する情報その他の情報を踏まえ、政令で、当該規定ごとに対象者を指定して適用しないこととすることができる。 5 厚生労働大臣は、次に掲げる場合には、あらかじめ、厚生科学審議会の意見を聴かなければならない。<br>一 第1項の厚生労働省令を制定し、又は改廃しようとするとき。<br>二 第1項の規定による指示をしようとするとき。<br>三 前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするとき。</u>|style="text-align:center; vertical-align:middle;"|(新設)|-!附則第8条<br>(損失補償契約)|<u>1 政府は、厚生労働大臣が新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの供給に関する契約を締結する当該感染症に係るワクチン製造販売業者(前条第2項の規定により読み替えて適用する第13条第4項に規定するワクチン製造販売業者をいう。)又はそれ以外の当該感染症に係るワクチンの開発若しくは製造に関係する者を相手方として、当該契約に係るワクチンを使用する予防接種による健康被害に係る損害を賠償することにより生ずる損失その他当該契約に係るワクチンの性質等を踏まえ国が補償することが必要な損失を政府が補償することを約する契約を締結することができる。</u>|style="text-align:center; vertical-align:middle;"|(新設)|} {|class="wikitable mw-collapsible mw-collapsed" style="min-width:500px;"|+<div style="background-color:lavender;">改正予防接種施行令(政令)および同施行規則(省令)</div>|-!style="width:9em;"|予防接種法施行令<br>附則<br>(新型コロナウイルス感染症に係る予防接種に関する特例)|6 法附則第7条第2項の規定により適用する法第9条第1項の規定は、妊娠中の者に対しては、適用しない。 7 法附則第7条第2項の規定により適用する法第9条第2項の規定は、前項に規定する者の保護者に対しては、適用しない。|-!予防接種法施行規則<br>附則|法附則第7条第1項に規定する厚生労働省令で定めるワクチンは、コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)とする。|} ===日本政府による調達計画=== ===日本での治験と認可=== ==3ワクチン論文の詳細なまとめ==この項では3ワクチン論文の詳細をまとめています. 重要な部分を,各要素に分けて整理します. ===方法:治験の参加者===
{|class="wikitable" style="min-width:600px;"
|-
*プラセボ群死亡の死因は,腹腔内穿孔,心肺停止,慢性リンパ性白血病参加者での重症全身性炎症症候群
|}
 
[[#toc|{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}} 目次に戻る {{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}{{#fas:caret-square-up}}]]

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