新型コロナワクチン対象者別検討

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本ページは2021年3月26日で更新を停止し,下記サイトに内容を移管しました.

ブックマーク変更等お願いいたします.

新型コロナワクチンまとめ(医療従事者向け)
新型コロナワクチン対象者別検討

目次

このページの目的

Pfizer, Moderna, AstraZenecaの各コロナワクチンの治験 phase 3 結果が論文化されたことは「新型コロナワクチンまとめ(医療従事者向け)」で解説しているとおりです.

治験結果を踏まえ、米国、英国をはじめ複数の国でこれらワクチンが承認され、接種が始まっています.

製薬会社の役割は,ワクチンを開発・治験して承認申請するまでです.
ワクチンを承認するのは各国政府の役割です.
そして,承認したワクチンをどういう人に接種しどういう人には接種しないのかの指針を示す(時には規制する)のも,各国政府の役割です.

治験では,効果を明瞭に示すために,接種対象者は厳格に絞られていました.
しかし承認後は,ありとあらゆる背景を持つ実際の市民が接種対象者となります.治験では対象外だった条件の市民にも,接種するか否かを決定せねばなりません.
承認後に政府が決めた指針(規制)に照らし,個別の市民での接種の可否を判断し決定するのは,接種担当医であり,市民本人です

治験で対象外だった条件の人に接種すべきか否か.政府の指針に照らしても接種可否を容易に判断できないことがしばしばあります.

このページは,そうした接種可否の判断材料をまとめています.

免責事項

このページはあくまでも参考情報のまとめにすぎません.

個々の接種可否の決断は,個々の当事者(接種担当医師,対象者本人,対象者本人の主治医等)の責任において行ってください.

このページの情報を参考にして行われた医療行為等の選択および結果については,サイト管理者は一切の責任を負いません.

更新履歴

2021年2月14日 Pfizerワクチンが「コミナティ筋注」として日本で承認され添付文書が公開されたことを踏まえ,各項目に添付文書記載内容を追記
2021年2月6日 一般公開

参照先リスト


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高齢者

3ワクチンとも治験参加者に高齢者が含まれています.ただし,年齢階層ごとの割合は治験論文にはあまり明確に書かれていません.
新型コロナワクチンまとめ」で示したとおり,Pfizerワクチンで55歳以上が42.3%,Modernaで65歳以上が24.8%,AstraZenecaで70歳以上が3.8%と,集計の仕方もバラバラです.

どの治験でもSupplement/Appendixで年齢階層別のサブグループ解析をしており,高齢者でも差は検出されています.

有害事象についても,疼痛や発熱等の反応性症状は高齢者の方が低頻度でした.高齢者に限定的かつ因果関係が疑われる有害事象も報告されていません.

ざっくりした話としては,3ワクチンは高齢者でもCOVID発症予防効果があり,接種をためらうような有害事象も増えない,と期待できるでしょう.

また,高齢であるほどCOVIDによる重症化や死亡のリスクが階段状に跳ね上がることは周知のとおりです.

以上により,3ワクチンの高齢者への接種をためらう理由は今のところないと言えるでしょう.

ただし,日本で対象者が多数に及ぶと思われる70代,80代,90代のような各高齢者層での真の効果と安全性については,治験結果だけから確実に判断することは困難です.

また一般論として,ワクチンの効果は高齢になるほど低下することが他の複数のワクチンで示唆されています.

ひょっとしたら若年者よりは効果が落ちるかもしれないが,COVIDによる重症化・死亡リスクを考えれば,接種をためらう理由はない」と整理します.

高齢者:日本での指針

厚生労働省は新型コロナワクチン接種についてのお知らせにおいて,65歳以上の高齢者を医療従事者等に次ぐ優先順位の接種対象者としています.

自治体向け通知・事務連絡等」に掲出されている事務連絡等においても,高齢者入所施設等での接種の準備等に言及しています.

高齢者:承認済みワクチンの添付文書記載

日本で承認済みの新型コロナワクチンの添付文書では下記のように記載されています.

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 9.8 高齢者
接種にあたっては、問診等を慎重に行い、被接種者の健康状態を十分に観察すること。一般に、生理機能が低下している。

高齢者:各国での指針

以下に各国政府等の指針をまとめます.

米国 高齢者を含む接種年齢上限について特に言及なし
英国 80歳以上も含めて全高齢者が高優先順位の接種対象
カナダ 85歳以上などの超高齢者での効果が不明瞭であること,一般論として高齢であるほどワクチンによる免疫獲得能が低下することには言及しつつ,接種年齢上限には言及なし
オーストラリア 高齢者は施設入所者>80歳以上>70歳以上の順に優先接種対象
シンガポール 高齢者は優先接種対象
ノルウェー 接種対象者自体を65歳以上高齢者または合併症のある成人に限定
スウェーデン 高齢者を含む接種年齢上限について特に言及なし
イスラエル 高齢者を含む接種年齢上限について特に言及なし

ノルウェーでの高齢者接種後死亡はワクチンとの因果関係なし

ノルウェーにおいて「施設入所中の高齢者のうち23人が,新型コロナワクチン接種後1週間以内に死亡した」と一部報道にありました.

これについてノルウェー政府は,「国立公衆衛生研究所およびノルウェー医学会による調査の結果,23人の死亡と新型コロナワクチン接種の間に因果関係を示唆するものはない」旨を,2021年1月21日付で発表しています.
死亡した23人の高齢者はいずれも重い合併症があったこと,統計学的解析により新型コロナワクチン接種が死亡を増加させるとは言えないこと,ノルウェーの高齢者入所施設では毎週300人超が亡くなること,に言及しています.

No indication of causal relationship between COVID-19 vaccination and death (Date: 21/01/2021)

いわゆる「紛れ込み」(ワクチン接種直後に別の原因による有害事象や死亡が偶然重なること)と考えられます.

ノルウェーの事案を理由に,施設入所高齢者への新型コロナワクチン接種をためらう必要はないでしょう.

ただし,施設入所者をはじめ高齢者はもともと疾病リスク,死亡リスクが高いため,紛れ込みが生ずる可能性についても丁寧に説明する必要があります.これは新型コロナワクチンに限らずすべてのワクチンで注意すべきことです.


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小児

3ワクチンとも治験参加者は16歳または18歳以上でした.そのため16歳または18歳未満の小児における効果と安全性は確認されていません.

※ただし,Pfizerワクチンでは総参加者43,455人中,12-15歳の小児が100人だけ含まれていました.小児100人中に治験期間中のCOVID発症者は実薬群・プラセボ群ともにいなかったものの,追跡における人年法の算出には組み入れられています.この点で,Pfizerワクチンに限っては12-15歳の安全性については限定的ながらも検証されていると言えます.

また,小児のCOVIDは無症状または極めて軽症であることが殆どです.

かつ,3ワクチンとも接種済み者から周囲への感染伝播を予防できるか否かが治験では確認されていません.

小児での効果と安全性が確認されておらず,周囲への感染伝播阻止効果も不明瞭なワクチンを,COVID発症リスクが低い小児に接種すべきかについては,現時点ではサイト管理者は懐疑的です.

ただし,英国等の指針にもあるように,COVID重症化リスクが高い小児については,保護者とも充分協議の上で個別の判断で接種を検討してもよいのではと考えています.

小児:日本での指針

厚生労働省は2021年1月31日現在,「新型コロナワクチンのお知らせ」において,「子どもが接種の対象となるかどうかなどは安全性や有効性の情報などを見ながら検討されます」と言及しています.

すなわち,日本では現時点では小児は接種対象には含まれていません.

なお,「医療機関向けの手引き」では16歳未満への予防接種における一般的な手順(保護者の同意取得等)について注意喚起していますが,これは現時点で小児への接種を前提としているわけではなさそうです.将来的に接種対象に含まれる可能性に備えて,保護者の同意取得等について今のうちから一般的な注意喚起をしておこうという,役所的な発想と考えられます.

小児:承認済みワクチンの添付文書記載

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 9.7 小児等
16歳未満についての有効性、安全性は確立されていない。

小児:各国での指針

以下に各国政府等の指針をまとめます.

米国 Pfizerワクチンは16歳以上,Modernaワクチンは18歳以上で認可.それ未満の小児は認可外(接種対象外)
英国 16歳未満の小児への接種は推奨しない.重篤な神経学的合併症が原因で呼吸器感染を生じやすい小児等,およびPfizerワクチン限定で12-15歳の小児では,それぞれ接種を検討してもよい(PDF13ページ)
カナダ 16歳未満の小児へは接種すべきでない.12-15歳かつCOVID重症化リスクが極めて高い小児についてはPfizerワクチンの接種を検討してもよい
オーストラリア 16歳未満小児の接種優先順位を最後尾とした上で,もし将来的に推奨されるならば接種対象とする
シンガポール 16歳未満小児は効果と安全性が確認されるまでは推奨しない
ノルウェー 接種対象者を65歳以上高齢者または合併症のある成人に限定しているため,小児は対象外
スウェーデン 18歳未満小児は現時点では対象外
イスラエル 16歳未満小児は対象外


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妊婦

本項では「妊娠中」の女性について論じます.「妊娠前」の女性と男性については妊娠挙児を希望する男女の項を参照してください

3ワクチンとも治験では妊婦は除外しています.したがって妊婦における効果と安全性は全く検証されていません.
そもそもどんなワクチンでも,最初の開発段階で妊婦を治験に組み入れることはしません.倫理面のハードルが高すぎますし,実際に充分数の妊婦を登録することも困難です.

COVIDワクチンの妊娠への影響を検証する研究をハーバード大学等が計画していますが,2021年1月現在ではまだ参加者の登録すら始まっていません.

COVID-19 Vaccines International Pregnancy Exposure Registry (C-VIPER)

一方で,認可後(市販後)に妊婦に接種されるようになったワクチンは複数あります.
百日咳ワクチン,不活化インフルエンザワクチンはその典型です.

百日咳ワクチン,不活化インフルエンザワクチンの妊婦への接種

  • 百日咳ワクチンは,妊婦に接種することで母胎内に抗体が産生され,経胎盤的に胎児に移行することで出生直後の新生児を百日咳から守ります.百日咳ワクチンは生後2ヶ月以降にしか接種できないため,百日咳が流行する環境では新生児百日咳死亡の予防には妊婦への接種が有効なのです.
  • 妊婦が季節性インフルエンザに罹患すると,非妊婦に比べて重症化(入院)率や死亡率が増加することが以前から知られています.妊婦自身を守るために,不活化インフルエンザワクチンの接種が推奨されます.

妊婦とワクチンについての原則は,生ワクチンと非生ワクチン(不活化など)で異なります.

  • 生ワクチンは,胎児への理論的なワクチン株感染リスクと感染による先天異常や妊娠合併症のリスクがあるため,妊婦には接種禁忌
  • 非生ワクチン(不活化など)は,抗原のみが母胎内を循環するため理論的には胎児への障害は考えにくく,接種による利益が有害事象のリスクを上回るならば接種可

ではCOVIDではどう考えるべきか.

COVIDに感染した妊婦は非妊婦に比べて重症化しやすい可能性が指摘されています.

Wastnedge EAN, Reynolds RM, van Boeckel SR, et al. Pregnancy and COVID-19. Physiol Rev. 2021;101(1):303-318. doi:10.1152/physrev.00024.2020

そして3ワクチンのうち,PfizerおよびModernaのmRNAワクチンは純然たる非生ワクチンです.核酸の断片(mRNA)を接種し,それが細胞質内で抗原タンパクを産生するのみです.

接種する物質がmRNAであるという点に漠然とした不安を覚えるかもしれません.それについてはこちらのまとめ「ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はないを参照してください.

すると,Pfizer/Modernaワクチンが妊婦のCOVID感染および重症化を予防し,未知の有害事象(接種による妊娠合併症や先天異常等の増加も含む)のリスクも上回ると判断するならば,個別の判断で接種を検討してもよいことになります.

一方で,AstraZenecaワクチンはウイルスベクターワクチンであるため,投与時点では「活きたベクターウイルス」が体内を循環します.組み込まれた遺伝子だけが細胞質内で抗原タンパクを産生するという点では非生ワクチンと言えるでしょうが,妊娠の観点からは「活きたウイルス」であることに注目すべきかもしれません.ベクターウイルスとして使われているチンパンジーアデノウイルスはヒトへの病原性を持たないとはいえ,胎児への影響もないと証明したエビデンスは現時点ではありません.

しかし問題は,Pfizer/Modernaワクチンが妊婦のCOVID感染および重症化を予防するかどうかは検証されていないことです.
効果が未検証,有害事象も未検証の現状で,COVID重症化のおそれがある妊婦への接種は,禁忌とも推奨とも簡単に決められないのです.

そのため,日本を含む各国で判断がわかれています.

また,そもそも妊娠では,特定の原因がない流死産,早産,その他妊娠合併症および児の先天異常などが,一定の確率で発生します.
COVIDワクチンの接種後にそれらが生じた場合,個別の症例については接種との因果関係を肯定することも否定することも困難です.しかし,当事者の妊婦や家族親族は接種が原因でそうなったと結び付けてしまうことが大いに予想されます.

妊婦に接種する場合は,そうした心理的負担まで充分に説明し,妊婦だけでなく広く家族親族が充分に納得した上で接種可否を決定することが大切でしょう.

2021年2月8日付でJAMA誌に,妊婦および授乳婦へのCOVIDワクチン接種を論じた意見が投稿されました.
基本的に本ページと同様のスタンスで論じています.ご参照ください.

Adhikari EH, Spong CY. COVID-19 Vaccination in Pregnant and Lactating Women. JAMA. February 2021. doi:10.1001/jama.2021.1658

妊婦:日本での指針

厚生労働省は2021年1月31日現在,「新型コロナワクチンのお知らせ」において,「妊婦を優先するかどうか(中略)は、安全性や有効性の情報などを見ながら検討されます」と言及しています.

すなわち,日本では現時点では妊婦は「優先接種対象」には含まれていません.「優先接種対象」に含んでいないということは,優先ではない接種対象に含む可能性をまだ残していると解釈できます.また,下記のとおり,2021年2月14日付で日本で承認されたPfizerワクチン「コミナティ筋注」の添付文書では,「予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種」とされており,絶対禁忌にはなっていません.

しかしそれ以上の厚生労働省の指針は現時点では不明です.

それに対して,2021年1月25日付で日本産婦人科感染症学会が次のような声明を出しています.

日本産婦人科感染症学会|COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する方へ(令和3年1月25日)

提言部分を以下に転記します.

  1. COVID-19 ワクチンは、現時点で妊婦に対する安全性、特に中・長期的な副反応、胎児および出生児への安全性は確立していない。
  2. 流行拡大の現状を踏まえて、妊婦をワクチン接種対象から除外することはしない。接種する場合には、長期的な副反応は不明で、胎児および出生児への安全性は確立していないことを接種前に十分に説明する。同意を得た上で接種し、その後30分は院内での経過観察が必要である。器官形成期(妊娠12週まで)は、ワクチン接種を避ける。母児管理のできる産婦人科施設等で接種を受け、なるべく接種前と後にエコー検査などで胎児心拍を確認する。
  3. 感染リスクが高い医療従事者、重症化リスクがある可能性がある肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している方は、ワクチン接種を考慮する。
  4. 妊婦のパートナーは、家庭での感染を防ぐために、ワクチン接種を考慮する。
  5. 妊娠を希望される女性は、可能であれば妊娠する前に接種を受けるようにする。(生ワクチンではないので、接種後長期の避妊は必要ない。)
  • 患者さん一人一人の背景が違いますので、まずは産婦人科の主治医と十分にご相談ください。

すなわち日本産婦人科感染症学会は,

  • 妊婦を接種対象から除外せず,
  • COVID感染リスクが高い妊婦(医療従事者,肥満,糖尿病など)で接種を考慮し,
  • 接種する場合は,母児管理が可能な施設において,充分に説明した上で行うこと

を提唱しています.

「母児管理が可能な施設で行う」ことの必要性は,ひとつにはアナフィラキシーを想定してのことと思われます.接種した妊婦がアナフィラキシーを起こした場合,血圧低下が生じればバイタル臓器への血流が優先的に維持されるために子宮血流は保証されません.すなわち母胎だけでなく胎児にも危険が及びます.そうしたリスクまで考えての言及と思われます.

妊婦:承認済みワクチンの添付文書記載

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。

妊婦:各国での指針

以下に各国政府等の指針をまとめます.

米国 医療従事者などの接種推奨対象である妊婦は,周囲の流行状況,本人の感染リスク,ワクチンの効果,未知の有害事象リスク等について本人と接種医が充分に検討した上で,mRNAワクチンの接種を選択してもよい
英国 AstraZenecaワクチンのベクターウイルスは増殖能を失活させてあるため理論的には妊婦にも胎児にも感染せず,同じくウイルスベクターワクチンであるエボラワクチンは広く女性に接種されてきたが妊娠への影響は報告されていないが,COVIDワクチンは妊婦には積極的には推奨しない.感染リスクが高い妊婦,合併症がある妊婦では接種を検討すべきである.接種後に妊娠が判明した場合は中絶は推奨せず,完遂することを勧告する(PDF13ページ)こちらも参照
カナダ 妊婦のリスクアセスメントの結果,接種による利益が未知の有害事象のリスクを上回ると判断した場合は,効果と安全性は検証されていないことも含めた充分なインフォームドコンセントの下で接種してもよい.接種後に妊娠が判明した妊婦はそれを理由に中絶を勧めてはいけない.1回目接種後に妊娠が判明した妊婦は,2回目接種完遂による利益が未知の有害事象を上回ると判断しない限りは,2回目接種は妊娠完了後に延期してもよい
オーストラリア 妊婦へのPfizerワクチンの接種について専門家グループが検討中であり,近日中に発表する予定(2021年2月2日閲覧時点)
シンガポール 妊婦への接種は推奨しない
ノルウェー 妊婦への接種について言及なし
スウェーデン 妊婦への接種は行わない
イスラエル 妊婦への接種は可能※妊婦への接種の詳細な声明はヘブライ語のみ提供
  • イスラエル人の友人(非医師)に読んでもらったところ,「mRNAワクチンによる妊婦と胎児への理論的リスクはないと考えられるので,感染リスクが高い状況の妊婦や合併症のある妊婦は専門家と充分相談した上で接種を選択してもよい」という文意とのことでした.


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妊娠挙児を希望する男女

本項では「妊娠前」の女性と男性の両方について論じます.「妊娠中」の女性については妊婦の項を参照してください

3ワクチンともmRNAまたはベクターによってコロナウイルスの遺伝子を接種するため,「ウイルスの遺伝子が自分の遺伝子に悪影響を残したらどうしよう,特にそれが将来の子どもや孫に自分から遺伝したらどうしよう」という漠然とした不安を抱く方が多いようです.

それについてはこちらのまとめ「ウイルスの遺伝子を体内に注入することに理論的な危険性はないを参照してください.
まったくの杞憂です.ご安心ください.

すると気になるのは,

  • 妊活中の場合に,接種から次の妊活までは一定期間を空けた方がいいのか?
  • 体内にワクチン成分が残っている間や免疫反応が起きている最中に妊娠すると,妊娠経過や胎児に影響が出るのか?

という点です.

基本的な点として,上記のとおり体細胞遺伝子への悪影響は理論的にあり得ず,非生ワクチンであることからワクチン株ウイルスによる潜在的感染のリスクもまたあり得ないことに注目すべきです.

この点で,妊娠挙児希望のある男性,すなわち妊娠挙児希望のある女性のパートナー男性については,接種からパートナー女性妊娠までの間隔は何ら気にする必要がないと言えます.

しかし女性については,妊婦への接種の是非に準じた考え方が必要かもしれません.

たとえば接種数日以内の妊活で妊娠が成立したとしたら,それは「妊娠中の接種」と殆ど同義になります.

妊娠中であっても接種を選択するような状況の女性であれば,妊娠前接種から妊娠までの間隔も同じ選択によって「気にしない」こともできるかもしれません.

一方で,妊娠初期は自然流産率が特に高いことがわかっています.
接種から妊娠までの日数が短かった場合に不幸にして流産すると「ワクチン接種が原因かもしれない」と心理的には結び付けてしまいがちです.接種から妊娠までの間隔を考慮する際は,そうした心理的負担まで先回りして検討する必要があります.

また,妊娠中であれば接種を選択しないような状況の女性であれば,妊娠前接種から妊娠までの間隔は「充分」空けた方が,心理的な面も含めて無難と思われます.
しかし「充分」の具体的日数は,3ワクチンについて科学的根拠をもって示すことができません.唯一,下記のとおりカナダが示している「28日以上」が,参考になる程度です.

後述のとおり,米国では「mRNAワクチンについては,接種から妊娠までの期間は何ら空ける必要がない」という指針である一方で,カナダでは「科学的根拠はないが念のため接種から妊娠は28日以上空けた方が無難かもしれない」としています.ワクチンの一般論として,接種から一連の免疫応答が完了するまで概ね4週間であることが免疫学的にわかっています.カナダの「28日以上空けるのが無難」の背景はそこにあるのかもしれません.

妊娠挙児希望男女:日本での指針

厚生労働省は2021年1月31日現在,「新型コロナワクチンのお知らせ」において,「妊婦を優先するかどうか(中略)は、安全性や有効性の情報などを見ながら検討されます」と言及しているのみで,妊娠挙児希望がある場合に接種後の間隔をどうすべきかには言及してません.

2021年1月25日付の日本産婦人科感染症学会の声明では,

日本産婦人科感染症学会|COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する方へ(令和3年1月25日)
  1. 妊婦のパートナーは、家庭での感染を防ぐために、ワクチン接種を考慮する。
  2. 妊娠を希望される女性は、可能であれば妊娠する前に接種を受けるようにする。(生ワクチンではないので、接種後長期の避妊は必要ない。)

としています.

すなわち,妊娠挙児希望のある女性には「妊娠する前」の接種を勧める一方で,接種後の間隔については「長期の避妊は必要ない」という曖昧な表現に留まっています.

また,「妊婦のパートナー男性」には,妊婦を含む家庭内感染を防ぐ観点からワクチン接種を考慮するように言及しています.
これを拡大解釈すれば,「妊娠挙児希望のある女性のパートナー男性」にも同じくワクチン接種を考慮するよう言及していることになります.

妊娠挙児希望男女:各国での指針

以下に各国政府等の指針をまとめます.

米国 COVIDワクチン接種前に妊娠検査をすることは推奨しない.mRNAワクチン接種後に妊娠を試みる場合は,特に間隔を空ける必要はない
英国 妊娠挙児希望と接種に関する言及なし
カナダ 接種完了から妊娠までの間隔について現時点でエビデンスはない.科学的根拠はないが,mRNAワクチン2回目接種から妊娠までは28日以上空けるのが無難かもしれない.妊娠終了後であればmRNAワクチンはいつ接種してもよい
オーストラリア 妊娠挙児希望と接種に関する言及なし
シンガポール 妊娠挙児希望と接種に関する言及なし
ノルウェー 妊娠挙児希望と接種に関する言及なし
スウェーデン 妊娠挙児希望と接種に関する言及なし
イスラエル 妊娠挙児希望のある女性への接種は可能※妊婦への接種の詳細な声明はヘブライ語のみ提供

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授乳婦

授乳については,妊娠よりは検討事項が少ないと言えるでしょう.

一般論として,非生ワクチンは授乳婦に安全に接種できます.非生ワクチンで体内を循環するのは病原体の抗原のみであり,仮に乳汁中に分泌されたとしても乳児に理論的な影響はありません.

参考までに,生ワクチンのうちで黄熱ワクチンは授乳婦には禁忌とされています.世界で3例のみではありますが,授乳婦に黄熱ワクチンを接種した後で授乳された新生児がウイルス性脳炎を起こし,脊髄液からワクチン株ウイルスが検出されたという報告があります.しかし非生ワクチンではこのようなことは理論的にあり得ません.

そのため,少なくともmRNAワクチンは授乳婦で禁忌とする理由はないでしょう.

ウイルスベクターワクチンについては,AstraZenecaワクチンに含まれるベクターウイルスは増殖能を欠失させてあるため,有意に乳汁分泌されるほど体内を大量に循環するとは考えにくいです.また,仮に乳汁分泌されて乳児の口に入ったとしても,そもそもチンパンジーアデノウイルスはヒトに病原性を持たないため,理論的には問題ないことになります.

しかしいずれのワクチンも,授乳婦に接種した場合の乳児の安全性を治験で検証したわけではありません.乳児または授乳婦における未知の有害事象が今後報告される可能性は否定できません.

これらを踏まえると,授乳婦のCOVID感染リスクや重症化リスクが高い場合に,接種の利益が未知の有害事象のリスクを上回ると判断するならば,充分な説明の下に決断することが必要でしょう.説明においては,乳児が何らかの疾病状態になった場合に「授乳婦が接種を受けたことが原因だ」と心理的に結び付けてしまう可能性も共有すべきでしょう.

2021年2月8日付でJAMA誌に,妊婦および授乳婦へのCOVIDワクチン接種を論じた意見が投稿されました.
基本的に本ページと同様のスタンスで論じています.ご参照ください.

Adhikari EH, Spong CY. COVID-19 Vaccination in Pregnant and Lactating Women. JAMA. February 2021. doi:10.1001/jama.2021.1658

授乳婦:日本での指針

厚生労働省は2021年1月31日現在,授乳婦への接種について何ら指針を示していません.

サイト管理者が検索した範囲では,授乳婦への接種について声明を出している学会等もありません.

授乳婦:承認済みワクチンの添付文書記載

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 9.6 授乳婦
予防接種上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。ヒト母乳中への移行は不明である。

授乳婦:各国での指針

以下に各国政府等の指針をまとめます.

米国 mRNAワクチンが授乳婦および乳児に与える影響に関するデータはない.mRNAワクチンは乳児へのリスクになるとは考えられない.接種優先対象の授乳婦は接種を選択してもよい
英国 非生ワクチンの授乳婦への接種について既知のリスクはない.授乳婦に接種してもよい.授乳が乳児の発達と健康にもたらす利益および授乳婦のCOVIDワクチン接種の必要性を充分考慮すると共に,授乳婦と乳児への安全性は検証されていないことも説明すべきである(PDF13ページ)
カナダ 授乳婦のリスクアセスメントの結果,接種による利益が未知の有害事象のリスクを上回ると判断した場合は,効果と安全性は検証されていないことも含めた充分なインフォームドコンセントの下で接種してもよい
オーストラリア 授乳婦へのPfizerワクチンの接種について専門家グループが検討中であり,近日中に発表する予定(2021年2月2日閲覧時点)
シンガポール 授乳婦は接種してもよいが,接種後5-7日間は授乳を中断すること
ノルウェー 授乳婦への接種について言及なし
スウェーデン 授乳婦への接種について言及なし
イスラエル 授乳婦への接種について言及なし


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アナフィラキシー既往歴,その他のアレルギー既往歴

アナフィラキシーに関しては,各国政府の指針云々よりも,アレルギー学,ワクチン学,救急医学および医療安全学に則って,個別に方針を考えるべきでしょう.

整理すると下表のとおりです.
なお表作成に当たっては,米国CDC-ACIPの指針および英国Greenbookの記載(PDF15ページ)も参考にしました.

1 COVIDワクチンの1回目接種でアナフィラキシーが生じた患者 2回目接種は絶対禁忌
2 過去に,COVIDワクチンと共通する添加剤を含む他の薬剤で,アナフィラキシーが生じた患者 共通する添加剤を含むCOVIDワクチンの接種は絶対禁忌
3 過去に,COVIDワクチンと共通する添加剤を含まない他のワクチンで,アナフィラキシーが生じた患者 禁忌ではないが要注意者として,未知の機序によりCOVIDワクチンでもアナフィラキシーが生ずる可能性を充分に説明し,接種する場合は事後の観察と救急処置の準備を万全にして慎重に行う
4 過去に,ワクチン以外の薬剤または食物で,アナフィラキシーが生じた患者 アナフィラキシーの既往がない患者と基本的に同程度の注意でCOVIDワクチンを接種できるが,既往がない患者と同程度のリスクでアナフィラキシーが起きることは丁寧に説明し,事後の観察と救急処置の準備を万全に行う

(*)アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,花粉症,気管支喘息など
5 アナフィラキシー以外の機序によるアレルギー性疾患の既往がある患者(*)


補足説明です.

※COVIDワクチンによるアナフィラキシーの頻度はこちらを参照してください

1. は説明するまでもなく当然のことですね.

2. については,アナフィラキシー既往のある患者で必ず原因物質を詳細に特定できているとは限りません.添加剤が原因なのか薬剤/ワクチンの主成分が原因なのか不明なままのアナフィラキシー患者も一定数います.
よって,アナフィラキシー原因薬剤の添付文書等で添加剤をよく確認し,接種予定のCOVIDワクチンの添加剤と1つでも共通する物質があれば2.を適用する,という対応が無難でしょう.

3. については,前項と同様に,アナフィラキシー原因ワクチンの添付文書等で添加剤をよく確認し,COVIDワクチンと共通する添加剤がないことを確かめます.
その上で,未知の機序によるCOVIDワクチンでのアナフィラキシーの可能性と,接種対象者のCOVID感染リスクおよび重症化リスクを天秤にかけて,接種すべきか否かを対象者本人とよく協議して決断する必要があります.
接種すると決断した場合は,アナフィラキシー時の救急処置の備えも万全にした上で,接種後30分間等の充分な観察が必要です.

3ワクチン製剤にどんな添加剤が含まれているかは各社が公表はしていますが,日本で承認され発行された添付文書を参照するのが最も確実です.

Pfizer, Moderna両ワクチンについては,米国CDCが簡潔に表にまとめています.ただし添加剤の化学成分名の標記が英語と日本語で異なることもあるので,日本語による日本の添付文書が最も確実です.

なお現時点で明らかなこととして,3ワクチンとも,鶏卵,ゼラチン,その他動物由来成分は含んでいませんし,ラテックスも含んでいません.

同じく現時点で明らかなこととして,3ワクチン中Pfizerワクチンのみが含んでいるポリエチレングリコール(PEG)は,種々の食品や化粧品,薬剤に含まれており,アナフィラキシー原因物質として知られています.

Sellaturay P, Nasser S, Ewan P. Polyethylene Glycol–Induced Systemic Allergic Reactions (Anaphylaxis). The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice. 2020;9(2):670-675. doi:10.1016/j.jaip.2020.09.029
Stone CA, Liu Y, Relling MV, et al. Immediate Hypersensitivity to Polyethylene Glycols and Polysorbates: More Common Than We Have Recognized. The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice. 2019;7(5). doi:10.1016/j.jaip.2018.12.003

ポリエチレングリコールが原因のアナフィラキシーの既往がある患者は,上表の2.を適用して,Pfizerワクチンについては絶対禁忌とせざるを得ません.かつ,Moderna, AstraZeneca両ワクチンについては,上表の3.を適用し,充分な説明に基づく決断と,接種する場合の万全の準備が必要です.

4. は意外に思われるかもしれませんが,COVIDワクチンに限らず,ワクチン接種全般に共通する注意点です(※ただし,ゼラチンアナフィラキシー者でのゼラチン含有ワクチンや,鶏卵アナフィラキシー者での黄熱ワクチンは,2.を適用します).すなわち,添加剤含めてワクチン以外によるアナフィラキシーの既往があっても,それ自体がワクチンによるアナフィラキシーのリスクを明らかに増大させるわけではありません.
しかし,アナフィラキシーの既往自体で対象者本人が不安に感じるのは当然ですし,接種医が警戒するのも当然のことです.
また,既往がなくともCOVIDワクチンによるアナフィラキシーリスクはあります.
よって,本人の不安に応える説明を十分に行い,アナフィラキシーに対する当然の備えを万全にした上で,接種することが必要でしょう.

5. も意外に思われるかもしれませんが,一口にアレルギーと言ってもかなり幅が広い現象です.アナフィラキシーとアトピー性皮膚炎は異なる病態ですし,アレルギー性鼻炎に寄与するのがⅠ型アレルギーであってもアナフィラキシーという全身性の病態とは異なります.
そもそもそれらアレルギー性疾患を持つ人は今や人口の数10%を占めます.花粉症の自覚がないという人の方が少ないぐらいでしょう.それでも3ワクチンによるアナフィラキシー頻度は100万接種中2.5-17.1件とごく低頻度です.アナフィラキシーではないアレルギー性疾患の既往は,アレルギー既往がない人と同程度の注意での接種が可能なのです.
もちろん,4.と同じく,アナフィラキシーに対する備えを万全にした上で接種するのは,当然のことです.

承認済みワクチンの添付文書記載の有効成分および添加剤

開発元 日本での製品名 有効成分 添加剤
Pfizer コミナティ筋注
  • トジナメラン
  • [(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル]ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカン酸エステル) 3.23mg
  • 2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド 0.4mg
  • 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン 0.7mg
  • コレステロール 1.4mg
  • 精製白糖 46mg
  • 塩化ナトリウム 2.7mg
  • 塩化カリウム 0.07mg
  • リン酸水素ナトリウム二水和物 0.49mg
  • リン酸二水素カリウム 0.07mg

アレルギー:承認済みワクチンの添付文書記載

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 2. 接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない者)
2.3 本剤の成分に対し重度の過敏症の既往歴のある者

8. 重要な基本的注意

8.4 ショック、アナフィラキシーがあらわれることがあるため、接種前に過敏症の既往歴等に関する問診を十分に行い、接種後一定時間、被接種者の状態を観察することが望ましい。

9.1 接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)

被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態及び体質を勘案し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。
9.1.6 本剤の成分に対して、アレルギーを呈するおそれのある者

11.1 重大な副反応

ショック、アナフィラキシー(頻度不明)
本剤の初回接種時にショック、アナフィラキシーが認められた被接種者に対しては、本剤2回目の接種を行わないこと。


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HIV感染者,免疫抑制状態,免疫抑制療法との間隔

Pfizer治験ではCD4≧200の安定したHIV感染者が参加者に含まれていましたが,phase 3論文での解析からは除外されています.
AstraZeneca治験でも一部のアームでHIV感染者が含まれていますが,やはりphase 3論文での解析からは除外されています.
Moderna治験では治験そのものから除外されています.

その他の何らかの理由による免疫抑制状態,免疫抑制療法中の患者はいずれの治験からも除外されています.

よって3ワクチンとも,現時点ではHIV感染者および免疫抑制状態および免疫抑制療法中の患者に対する効果と安全性はわかっていません.

ただし少なくとも,3ワクチンとも非生ワクチンですので,一般論としては免疫抑制者でも禁忌理由はないと言えます.
Pfizer, ModernaのmRNAワクチンは純粋に抗原のみが体内を循環しますし,AstraZenecaワクチンはウイルスベクターワクチンではあっても増殖能を欠失させたベクターウイルスですので免疫抑制者の体内でも増殖できずやはり抗原だけが循環することになります.

一方で,それらの患者のCOVID感染リスクおよび重症化リスクが高いことは言うまでもありません(CD4≧200のHIV患者のリスクについては非感染者と変わらないという研究もあります).

もう1点重要なことは,免疫抑制者であるが故に,ワクチンによる免疫獲得が不十分になるおそれもあるということです.これは3ワクチンに限らずワクチン全般に言えることです.

これらを踏まえると,HIV感染者,免疫抑制状態および免疫抑制療法中の患者に対しては,接種によってCOVID感染および重症化リスクを軽減することが期待できるものの,効果と安全性が直接は検証されていないこと,特に効果が不十分になるおそれがあること,および未知の有害事象のリスクがあることを充分に説明した上で,接種可否を決断する必要があります.

なお,もしも免疫抑制療法の開始を接種完遂まで保留できるならば,2回目接種を完遂した上で,理論的な免疫応答が完了する4週間程度の間隔を空けてから,免疫抑制療法を開始するのがベストかもしれません.ただしこれは理論的な推測のみであり,臨床研究による裏付けはありません.

いずれの選択においても,原疾患の主治医に事前にコンサルトすることは必須です.

米国CDC-ACIPの指針および英国Greenbookの記載(PDF14ページ)も参考にしてください.

免疫抑制状態:承認済みワクチンの添付文書記載

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 9.1 接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態及び体質を勘案し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。
9.1.2 過去に免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる者
本剤に対する免疫応答が低下する可能性がある。


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悪性腫瘍

ワクチンを検討する際の一般論として,悪性腫瘍を有している患者は免疫抑制状態と見なされます.よって基本的には前項の「#HIV感染者,免疫抑制状態,免疫抑制療法との間隔」と同等の考え方が適用できます.

ただし悪性腫瘍と一口に言っても,ごく早期の胃癌を内視鏡的に切除した直後,薬剤投与で安定している慢性白血病,進行性の固形腫瘍,ターミナル期だがCOVID感染はできるだけ避けたい事情の患者,等々,千差万別です.

基本的には「#HIV感染者,免疫抑制状態,免疫抑制療法との間隔」と同等に考えつつ,接種の可否をまさに個別に判断せねばなりません.

悪性腫瘍の主治医との協議が必須であることも言うまでもありません.

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抗血小板療法,抗凝固療法,出血傾向,出血性疾患

3ワクチンとも投与経路は筋注です.ワクチンの筋注は特別な理由がない限り三角筋を用いますし,3ワクチンとも治験では三角筋にしか投与していません.

アスピリン等による抗血小板療法,ワーファリンやDOACによる抗凝固療法,疾患に伴う出血傾向や血友病等の出血性疾患など,易出血性がある患者では筋注による出血や血腫形成のリスクがあります.

易出血性がある場合のワクチン筋注については,教科書的原則として下記が適用できます.
英国Greenbook(PDF7ページ)も参照してください.

  1. もしも抗血小板療法または抗凝固療法を開始する前に接種が可能ならば,接種中は治療を保留し,2回接種完遂後に治療を開始する.その場合接種から治療開始までは特に間隔を空ける必要はない
  2. もしも出血性疾患の定期治療中であれば,可能な限り治療直後(出血傾向が最も低い時期)にワクチンを接種する
  3. 治療中断が困難な場合や,その他易出血性がある状態で接種する必要がある場合は,なるべく細い針(23G針または25G針;筋肉に届かせるために長さは25mm)を使用し,抜針後は接種部位を2分以上強く圧迫して充分に止血する

もちろん,2.および3.の場合には,注意深く接種したとしても出血が長時間続くリスクや血腫形成のリスクがあることを充分に説明し同意を得る必要があります.

また,疾患主治医に事前にコンサルトすべきであることも当然のことです.

なお,皮下注でも効果と安全性が確認されているワクチンであれば,筋注の代わりに皮下注を選択できますが,3ワクチンについては筋注しか検証されていないため皮下注は選択できません.

抗血小板療法等:承認済みワクチンの添付文書記載

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 9.1 接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態及び体質を勘案し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。
9.1.1 抗凝固療法を受けている者、血小板減少症又は凝固障害を有する者
本剤接種後に出血又は挫傷があらわれることがある。

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COVID感染の既往がある場合の接種

3ワクチン治験とも,何らかのタイミングで参加者にPCR検査や抗体検査をすることで,治験中(効果判定時期より前)のCOVID新規感染やCOVID既往を検出しています.いずれも全体の数%ではありましたが,安全性評価対象には組み込まれており,接種完遂前の感染または既往があっても有害事象が特に増えないことが確認されています.

また,ごく少数ではありますが,COVID感染からいったん回復した患者が再感染した事例が世界各地から報告されています.

Stokel-Walker C. What we know about covid-19 reinfection so far. BMJ. January 2021. doi:10.1136/bmj.n99

再感染患者の多くは,2回目感染は1回目より軽症で済んでいますが,一部の患者は2回目の方が重症化しており,2回目感染時に死亡した患者もいます.抗体依存性感染増強ADEの可能性も示唆されます(COVIDで真にADEが生ずるか否かはまだわかっていません).

さらに,明確には確認されていない再感染患者(例:初回が無症状または軽症で,2回目で明らかな症状が出たため初めて検査を受けて陽性になった等)が潜在的に一定数いると考えられます.

これらを踏まえると,COVID既往が明らかな対象者であっても3ワクチン接種を避ける理由はないと言えます.

ただし,残念ながらワクチン供給は今のところ潤沢とは決して言えず,むしろ富裕国が“争奪戦”を繰り広げる様相をWHOから批判される始末です.

WHO Director-General's opening remarks at the media briefing on COVID-19 – 8 January 2021

そういう状況では,COVID既往が明らかな対象者に優先的に接種を勧める理由は乏しいかもしれません.
ただし対象者の元々のCOVID感染リスクと重症化リスクによっては延期せずに早期の接種を検討した方がいいかもしれません.

米国CDC-ACIPの指針も参照してください.

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COVID濃厚接触者に対する曝露後接種はおそらく無効

一部のワクチン(麻疹ワクチン,水痘ワクチン,狂犬病ワクチン,B型肝炎ワクチン,破傷風トキソイド等)では,感染曝露が確認された後の一定期間内に接種しても発症を予防できます.これは,病原体の潜伏期間よりもワクチンによる免疫獲得までの期間が短いために得られる効果です.

3ワクチンにおいては,当然のことながら曝露後接種の効果は検証されていません.

ただし,COVIDは潜伏期間14日以内とされてはいますが,中央値は5-6日と考えられています.一方で3ワクチンのいずれも,単回接種から一定の抗体応答が観察されるまでに2-4週間要します.

そのため,3ワクチンでは曝露後接種による発症予防は期待できなさそうです.

供給が潤沢とは言えないCOVIDワクチンを濃厚接触者に慌てて接種すべき理由は,残念ながら乏しいと考えざるを得ません.

ただし,例えば老人施設での集団接種を全員の2回目完遂までに2ヶ月の計画で進めている最中に,一部の入所者でクラスターが発生したとしましょう.この場合に,濃厚接触に該当した入所者をわざわざ接種対象から外す理由はないと考えます.濃厚接触者が必ず感染・発症するわけではありませんので,「次の本当の感染」を予防するために,計画どおり接種を完遂すべきと考えます.

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他ワクチンとの接種間隔または同時接種

一般にどんなワクチン同士も,複数種類を身体の異なる部位に同時に接種することができます(小児肺炎球菌ワクチンと成人肺炎球菌ワクチン,無脾小児における小児肺炎球菌ワクチンと髄膜炎菌ワクチン,などのごく一部の例外を除く).

また,注射による生ワクチン同士を互いに4週間以上(日本の行政的表現では27日以上)空ける以外は,一般にどのタイプの組み合わせであっても互いの接種間隔に制限はありません.

ただし上記の原則は,それぞれの組み合わせで厳密に臨床研究等を行った結果に基づくものではなく,ワクチン学的および免疫学的理論に,長年の世界的な経験の積み上げた考え方によるところが大きいです.

今回のmRNAワクチンはヒト実用化が初めて,ウイルスベクターワクチンもエボラ用という特殊な用途を除けば広範な実用化という点ではやはり初めてです.

よって,他ワクチンとの同時接種や短い間隔での接種によって,3ワクチンの効果や他ワクチンの効果,さらには安全性がどうなるかは,全く不明と言わざるを得ません.

これらを踏まえ,米国CDC-ACIPの指針では他ワクチンとは「最低14日以上の間隔」を空けて,英国Greenbookの記載(PDF12ページ)では「最低7日以上の間隔」を空けて接種するよう示しています.

もちろん,米国の14日も英国の7日にも明確な科学的根拠はありません.免疫学の原理に基づいた「念のため」であったり,未知も含めた有害事象の判定の混乱を避けるための「念のため」であったりという事情です.

ただし,「念のため」を上回るべき緊急の事情が生じたならば,他ワクチンとの同時接種や短い間隔での接種も検討すべきです.例えばCOVIDワクチン接種予定に重なって麻疹アウトブレイクが発生したり,COVIDワクチン接種3日後に汚染外傷を生じたため破傷風トキソイド接種が必要になった等の事情では,積極的に当該ワクチンの接種を考慮すべきでしょう.

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3ワクチン間の互換性:1回目と2回目を必ず同じ製剤で接種すべき

ワクチンの一般論として,複数回接種するスケジュールの場合は,最初から最後まで同一メーカーの同一製剤で完遂すべきというルールがあります.当然ですが,異なる複数の製剤を混在させての効果と安全性はどんなワクチンにおいても検証されていないためです.これを「ワクチンの互換性 interchangeability が保証されてない」と表現します.

ただし,例えば転居した先の医療機関で同一製剤の扱いがなかったり,スケジュールの途中で海外に移住した等の場合は,この互換性ルールから逸脱せざるを得ません.やむを得ず,異なるメーカーの異なる製剤で残り接種回数を完遂することになります.
中には,製剤が異なると承認されている接種スケジュールまで異なる場合があります.その場合の互換性をどう担保するかは,接種担当医が個別に判断するしかありません.

ではCOVIDワクチンではどうか.

他ワクチンと同じく,3ワクチン間の互換性が全く保証されていないため,2回とも同一製剤を接種すべきです.

現実には,諸外国でも日本でも複数製剤が何らかのルートで混在しながら接種機関に配付されるようです.また,転居その他の理由で1回目と2回目を異なる接種機関で接種する個人も一定数いるでしょう.

1回目と2回目をうっかり異なる製剤で接種してしまうという事故を避けるために,各接種機関では接種記録を正確に行って,機関内と接種本人で共有せねばなりません.かつ,それを各自治体と政府が同じく正確に共有せねばなりません.
日本では自治体ごとに独自に運用されている既存の予防接種台帳では全国民的な記録管理が不可能という理由で,マイナンバー等による全国一律の管理の計画も報道されていますが,2021年2月5日時点で詳細は明らかになっていません.

なお,英国では3ワクチン間の互換性を積極的に検証する臨床研究を実施する計画を立てたと2021年2月4日付でプレスリリースが出されました.結果を注視したく思います.

ワクチン間の互換性:承認済みワクチンの添付文書記載

開発元 日本での製品名 添付文書の記載
Pfizer コミナティ筋注 8. 重要な基本的注意
8.6 本剤と他のSARS-CoV-2に対するワクチンの互換性に関するデータはない。

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