新型コロナ拡大期のインフルエンザ迅速検査等について
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臨床の先生、看護師の皆さま
特に診療所の皆さま
日常診療でインフルエンザ迅速検査をする機会は当然あると思います。
しかし現在は、新型コロナの初期症状の患者さんが、ごく低い確率とはいえ、混じっている可能性があります。
インフルエンザ迅速検査とは、患者さんの鼻に綿棒を差し込んで、時にはくしゃみされたり咳をされたりする行為です。
これを、十分な標準予防策をしないで行ってしまい、もしもその患者さんが後で新型コロナ陽性と診断されたら、
インフルエンザ迅速検査を行った先生や看護師さんは、感染リスクが高い濃厚接触者に当たるのです。
だから、インフルエンザ迅速検査を行うときは、
- 空気感染
- 飛沫感染
- 接触感染
のすべてを想定して、適切な標準予防策を行ってください。
すなわち、
- N95マスクを隙間なく装着して、
- フェイスシールドかゴーグルを装着して、
- サージカルガウン(アイソレーションガウン)に、
- グローブ(可能な限りダブルグローブ)で、
インフルエンザ迅速検査を行ってください。
終了後には、それらPPEに付着したであろう病原体を決してご自身や周囲に付着させることがないよう、マニュアルどおりに正しい手順で、一つ一つ丁寧に脱衣してください。
新型コロナに関する感染管理について、国立感染症研究所のガイダンスにはこう書かれてあります。
患者の気道吸引、気管内挿管、検体採取などエアロゾル発生手技を実施する際にはN95マスク(またはDS2など、それに準ずるマスク)、眼の防護具(ゴーグルまたはフェイスシールド)、長袖ガウン、手袋を装着する |
「インフルエンザを疑うこの患者さんが、低い確率だけど新型コロナかもしれない」
と想定するならば、新型コロナの検体採取と同じ装備が必要ということなのです。
もちろん、
「そんな大袈裟なことは今までやってこなかった」
とお考えでしょう。
よくわかります。
私も通常のシーズンでは、サージカルマスクにグローブだけでインフルエンザ迅速検査をしていました。
しかし、
- インフルエンザはワクチン接種で半分は予防可能ですし、
- 重症化率や致死率はかなり低いですし、
- 仮に先生や看護師さんが感染しても、風評被害が立つこともない、
という背景があります。
それに対して、
- 新型コロナはワクチンがありませんし、
- 重症化率も致死率も相応に高いですし、
- 仮に先生や看護師さんが感染したら、思いがけない風評被害まで想定しなければいけない、
という、インフルエンザとは臨床的にも社会的にもインパクトが全く異なる疾患です。
インフルエンザを疑う患者さんのうち、新型コロナ患者さんが混ざっている可能性は、現時点ではかなり低いです。
しかし、ゼロではない。
ゼロではなく、しかも本当にそうだったら、事後の対応が非常に大変です。
だから、インフルエンザ迅速検査といえども、空気感染まで想定した標準予防策を是非とも徹底してください。
「うちではそんなの到底無理」
というご意見も多数あることと思います。
私も診療所経験が長かった(18年間)ので痛いほどわかります。
であれば、
敢えてインフルエンザ迅速検査を行わない |
という選択肢をお考えください。
そもそも、インフルエンザ迅速検査の感度は60%程度とされています。
検査が陰性でもインフルエンザを否定できない検査です。
流行期には、迅速検査をせずとも臨床診断で充分マネジメントが可能です。
抗インフルエンザ薬は、どれも発熱期間を半日~1日程度短縮するだけの効果しかありませんから、処方せずに対症療法するのも大いにアリです。
「検査結果によってその後の診療方針が決定的に変わるから、何が何でも検査しなきゃ次へ進めない」 |
そういう場合に限って、徹底した標準予防策と共にインフルエンザ迅速検査をしてください。
そこまでインフルエンザ迅速検査を必要とする状況は、おそらく入院患者の鑑別診断に限られるんじゃないでしょうか。
診療所外来なら、そこまでの状況は滅多に発生しないんじゃないでしょうか。
もしあるとしたら、
- 発熱+咳嗽で4日以上が経過し、
- 政府アドバイスどおりに4-5日目に初診した患者さんを、
- 新型コロナを疑って帰国者接触者外来に紹介するか、
- インフルエンザと診断されたら帰宅させるか、
のギリギリの見極めぐらいじゃないでしょうか。
そこまでの状況であれば、標準予防策を徹底して診療所外来でインフルエンザ迅速検査するのは、必要な選択でしょう。
どうか、そこまでよくよくお考えになって、インフルエンザ迅速検査の適用をお決めください。
同じことは、溶連菌迅速検査や、アデノウイルス迅速検査(咽頭)にも言えます。
どうぞ皆さま、ご安全に。
2020年2月29日 サイト管理者 医師 守屋章成